私はカエール侯爵と共に都に向かうことになった。都は私たちのいた戦場から丸三日間離れていた。月は空に高く浮かんでいた時刻に、私たちがカエール侯爵の屋敷に着いた。
もう遅い時間というのに、ドアのところ十数人の使用人が待っていた。
「お帰りなさいませ、カエール様」と執事だと思える者が言った。
「父上は?」
「書斎でカエール様を待っていらっしゃいます」
「彼女のことを任せます」とカエール侯爵は執事に言い、その後私に「ワタシは父上の所に、君のことを執事に任せていますから、何か必要なものがあれば、執事に言えばいいので・・・」と。そして長い廊下に入り、姿を消した。
私に用意された部屋は地元で住んでた家より大きいと思う。豪華なベッドに、高い質のシーツ。壁に懐かしく感じることができる風景の絵。ソファの上に、私のための着替え。-慣れてない空間だけあって、少し心地悪かった。
「必要なものがありましたら、お呼びください。では」と執事は言い、部屋のドアを閉めた。
ファオラン隊長の頼みでなければ、私は侯爵と一緒に都に来なかった。輝かしい都や貴族たちへの憎しみしか知らないこの私は。
翌朝、朝食の前に剣の練習できる場所を探していたら、カエール侯爵の明るい声と二人の女性の笑い声が聞こえた。声のする場所に行ったら、カエール侯爵と使用人が世間話をしていた。
「アリアネ、ちょうどいい。君と話したいことがあった!」と言いつつ、カエール侯爵は軽々しく私の肩を抱き、違う部屋へ歩き出した。私がその行動に嫌がれてることを完全に無視して、笑顔を消さないまま、「アリアネの腕を試したいですが・・・」
「誰かと練習をさせるつもりですか」
「誰かというより、ワタシと」
入った部屋の壁中に数え切れない剣。
「剣を持つことさえのできない軍人だと言っていませんでしたか」
「できませんよ。今アリアネが見ていることは侯爵としてできないことですよ」
「しかし軍人としては?」
「侯爵であるワタシは軍人をやっている限りできませんね。今のバランスを崩すわけにはいかないですから」と嫌らしい笑顔を見せながら、壁から選んだ剣を持ち、私に近づいてきた。
動きから実戦の経験が少ないとすぐ分かる。でもその割には、この男はかなり強い。もっと練習さえすれば、私とすぐ並べるのではないか。 この時、初めて侯爵の真面目な顔を見た。あの嫌らしい笑顔のない侯爵の顔には秘密の多い男の影があった。
私たちが剣を合わせていた部屋のドアが開けた瞬間に、侯爵は軽い笑顔を作り、剣を重そうに両手で持ち始めた。芝居の得意男だ。
「朝食の準備もうできましたので・・・」と使用人は。
「ありがとう。父上と母上は?」
「すぐお降りになるそうです」
「分かった、もう下がっていいよ」
使用人は一礼をし、ドアを閉めた。
「使用人でさえ侯爵の顔を知らないというわけですね」と私は確信していた。
侯爵は答えない、ただ意味のありげ笑顔で私を見た。
つづく
*侯爵のワタシの使い方についてですが、アリアネは私を使うから、分かりやすくなるようにと思って、侯爵の方カタカナにしました。それと多少の違和感を作るためでもある・・・