星空を見ながら、
一匹の年老いたアリが、
永遠の旅に旅立とうとしています。
「ワシは自分の命を生き抜いた。
今なら、心からそう思える。 」
「あんた、最後のワシの話を聞いてくれんか?」
星空をじーっと見つめながら、
アリは語り始めました。
「ワシは小さい頃から、
働きアリとして頑張っていたんじゃ。」
「もうそれは、それは強いアリでな、
他の巣のアリと戦いになれば、
一瞬で
勝負アリ!
になるほど強いアリじゃった。 」
「人間にも、ボクサーで強いアリがいるそうじゃがの、
負ける気がせんかったもんな。
それにな強いだけじゃない。
いつもワシのフェロモンを追いかけて、
メスのアリが列を作るほど、モテたものじゃ。 」
「ぐわははは!懐かしいわ。」
「じゃがな、
歳を取るっていうものは、
怖いもんじゃのぉ。 」
「あんなに強かったのに、
重いものが持てなくなってしまった。 」
「体中がボロボロなんじゃ。 」
「重いものが運べずに、
ミスをしてしまう。
ミスをすると若いアリに怒られるんじゃ。 」
「最初は、なにくそ!!
と思っていたものの、
現実は厳しい。 」
「他のアリに、迷惑をかけるのが、
どんどん申し訳なくなってしまったんじゃ。 」
「ついには、
自分はとても弱い存在で、
生きているだけで、他のアリの迷惑なんじゃないかと、
思うようになってしまったんじゃ。 」
「悲しくて、悲しくて、
しかし、その悲しい思いをぶつけるところもない。 」
「ただ耐えるだけなんじゃ。
いつも胸がチクチク痛かった。
巣よりも暗い暗闇へ、
迷い込んでいるようじゃった。 」
「あるとき、
ワシは、もう耐え切れなくなり、
夜空に向かって叫んだんじゃ。 」
「見てみろ、ワシの体を!もうボロボロじゃないか?」
「あんなに重いものを持っていた体はどこにいった?」
「何もかも、あの自慢の体を失ったときから、
ワシの地獄が始まったんじゃ!!」
「ほんとは、ほんとは、
まだまだやりたいことが、たくさんあるんじゃ!!」
「なのに、なのに、
なんでじゃぁぁ!!」
その小さな小さな体から出る、
小さな小さな声が、
広い夜空に輝く、
1つのホシに届きました。
『アリさん、何を泣いているんです?』
「ん?誰じゃ」
『あなたの目の前にある、ホシです。』
「ホシが。まぁいい。
ワシは、悔しいんじゃ。老いて体はボロボロ。
やりたいこともできない。
何も出来ない小さな自分が大嫌いなんじゃ。」
『なるほど。それは辛いですね。』
「ワシの辛さが、ワシより小さなホシにわかるものか!!」
『私は大きいですよ。』
「ウソを言うな!」
『あなたの住んでいる地球から見たら、
私は、アリにも負けるくらい小さい。
だけど、私を近くで見てみなさい。
あなたの住んでいる地球よりも、
ずっと大きい。』
「ウソいうな!!」
アリがそう言った瞬間、
周りが暗くなりました。
目の前には、不思議な色をする、
大きな雲のかたまりがあります。
アリがあまりの大きさに震えます。
「な、なんじゃ。
何が起こったんじゃぁーーー!」
『これが私です。』
ホシが先ほどよりも、
年老いたアリに優しく語りかけます。
『ほ、本当に大きいんじゃなぁ……。』
アリは、自分より小さいと思っていたものが、
自分より大きかったことに気付き、
さらに悲しくなりました。
『私も大きいですが、おじいさんも同じくらい大きい。』
「ホシよ。何を言っておる?ワシは小さい。」
「小さくて何も出来ないんじゃよ。
なんでホシと同じくらい、大きいんじゃ?」
『あなたはずっと、頑張ってきた。』
『生まれたときから、強い働きアリとして頑張ってきました。
栄光の裏で、さまざまな挫折も味わった。
だけど、あきらめずに来る日も来る日も頑張ってきました。』
「確かにあのときは、挫折が多かった。
多かったが、続ければなんでもやれると思ったし楽しかった。
それだけ自分のやっていることに、誇りを持って頑張れた。」
「だが、それは若いときの話じゃ……。」
「今は、とても誇りなんて持てないよ。」
「毎日、体にムチを打って頑張っているつもりが、
いつもミスをする。
体が言うことを利かないんじゃ。
ミスをすると若いやつに怒られる。
怒られるだけなら、ましじゃ。
怒られるだけじゃなく、若い奴に迷惑をかけるのが、
たまらなく……。辛い。」
『なるほど。』
『何かが出来ないからいけないんでしょうか?』
「そういう訳じゃないが・・・・・・。」
『それにあなたは何も出来ないわけじゃないですよ。
あなたには、まだまだできることがたくさんある。
ただあなたが、やりたいと思わないだけなのです。』
「こんなワシに、何ができるというんじゃ。」
ピカッ!
突然、遠くで何かが光りました。
「おい。ホシよ。あの綺麗な光はなんじゃ。」
『超新星爆発というものです。』
「チョウシン……。なんじゃそれ?」
『ホシが最期に大爆発をすることを言います。』
「さいご……。あのホシは死んだのか?」
『はい』
「それじゃ、あ、あんたも最期は爆発をするのか?」
『するかもしれません。』
「怖くないのか?」
『怖いですよ。
だけど、私たちは、昔からそれを繰り返してきました。』
『1つのホシの死は、多くの物質を生み出します。』
『その物質は、多くの生き物の未来への可能性にもなります。』
「……。」
「で、できることなら、ワシも爆発したい。
多くの生き物の未来への可能性になりたいのぉ。」
『あなたの命は、おそらくあと1週間です。』
「あ、あと1週間?!」
『はい。』
「ワシは、このまま、みじめに終わってしまうのか?」
「いやじゃ!いやじゃ!いやじゃ!いやじゃぁーー!!」
『この一週間をどう過ごすか。
それはあなたの自由です。』
『今から、頑張り直すこともアリです。
休憩を取って、頑張ることもアリです。
「しかし、もう体はボロボロじゃ。これじゃ頑張れんよ。」
『なるほど、このまま、
自分を小さいと思い込んで過ごすこともアリです。』
「それは、いやじゃ!!」
『なるほど』
『それじゃ、若いアリたちに、自分の経験を話すというのも、
アリなんじゃないでしょうか?』
『若いアリにとっては、とても勉強になります。』
「そんなことやったこともないぞ。」
『あなたの活躍の場は、あなた方の巣のように、
何もない地から作りだすことができます。』
「……。」
「ワシは、今からでも、頑張り直してもいいんじゃろうか?
そんなのアリなんじゃろうか?」
「アリだと想います。」
「……。そうか。ホシよ。大切なことをありがとう。」
それから年老いたアリは、
自分の体験を若いアリたちに話し始めました。
最初は誰も聴いてくれません。
だけど、年老いたアリはめげませんでした。
どうやったら自分の話を聴いてくれるのか?
どうやったら伝わるのかを、毎日、考えて実行しました。
高熱にうなされるときもありましたが、
年老いたアリは、それでも語り続けることを辞めませんでした。
どんな状況でも、語ってくれる年老いたアリに
だんだんと多くの若いアリが、勇気付けられました。
一週間後の夜。
「あはは、もう動けん。もう動けんですよ。
いやぁー、よくここまでやれたな。
ホシよ、今ならワシは、立派なアリだ!って言えますよ。
このボロボロな体が、大好きじゃ!
よく頑張ってくれた。
本当に素晴らしい一週間じゃったなぁ。
まるで、ホシのように輝いた1週間じゃった。
若いアリたちが、泣いたり、
笑ったりして聞いてくれるのが、ものすごく嬉しかった。
あの若いアリたちに、
少しでも何か残っていてくれれば嬉しいなぁ。
あぁ、体がだんだん軽くなるようじゃ。
次は、あなたのようなホシになるのもアリじゃな。 」
「あんた、最後までワシの話を聞いてくれて、
ありがとうな。」
「さようなら。」
次の日。
道端で倒れている年老いたアリを、
若いアリたちが、泣きながら巣に運ぶ姿がありました。
その年老いたアリは、
ホシのように輝いた笑顔をしていました。