落語の有名なネタに『饅頭怖い』という話がありますが。
今日は「指数関数怖い」という話を、感染拡大、借金、そして講談を具体例にして。
 
指数関数とは、簡単に言うと、例えば「2をn回かけたときの値」というようなもの。
この関数には「初めはゆっくり増えるが、やがて急激に、爆発的に増えていく」という、恐ろしい性質があります。
2をn回掛けたときの値は、n=2なら4で、n=3なら8で、……と、最初はそれほど大したことないが、n=10になると1,024と、かなり大きな値になります。

 


グラフは「光学技術の基礎用語」より
https://www.optics-words.com/math/exp/exponentiation_2.html
 
(例1)
インフルエンザなど感染症の患者は、指数関数的に増えていくことが多い。
先日書いたとおり、宮崎県では新型コロナウイルス感染者が一週間で1.7倍というペースで増えています。大したことなさそうに見えますが、このペースで増えていくと、次週は1.7倍、その次の週はその1.7倍といった感じで、4週間後には
 1.7×1.7×1.7×1.7≒8.35
で、現在の8倍ちょっとに。
そして5週間後にはさらにその1.7倍で現在の14倍ちょっとに。
1ヶ月後(4.43週)には今のだいたい10倍ちょっとになります。
(1.7の4.43乗は10.5なので)
2ヶ月後にはさらにその約10倍で、今の約100倍に。
仮に、今週の感染者が千人いたとしたら、2ヶ月後の週には約10万人に。
(あくまでも「1週間で1.7倍」が続いた場合)
 
(例2)
「トイチ」という利息があります。これは「10日で1割(10%)」という利息。ヤミ金融の漫画でよく出てきますね。
このトイチ、10日で返せば
 元金+元金の10%=元金+元金×0.1
 =元金×1.1
で済みますが、30日(10日×3)利息も払わず借り続けた場合
 元金×1.1×1.1×1.1=元金×1.331
(1.1の3乗は1.331)
ということで、借りたお金の1.3倍ちょっとに。
まぁ、これくらなら大した事ないかもしれません。
しかし、1年弱の360日間(利息を払わず)借り続けた場合。
360日(10日×36)は10日を36回繰り返したもの。
1.1を36回かけると30.91なので、元金の30倍超えに。
さらにそのまま360日借り続けると、さらにその30倍超えで、元金の900倍超えに。
というわけで。
トイチで1万円借り、2年間(730日=10日×73)利息を払わず借り続けると、一千万円ちょっとになります。
(1.1の73乗は1,051)
ちなみに、日本の金利の上限は年20%。
トイチはこれを遥かに超えるので当然、違法。
そして違法な利息で借りた場合、法律上は利息だけでなく元金も返済する義務はなくなりチャラになるそうな。
 
(例3)
講談の『曽呂利新左衛門』より。
豊臣秀吉が、曽呂利新左衛門に褒美をとらせることにした。
「何がよい?」
と尋ねられた新左衛門
「初日は米1粒、2日目は2粒、3日目は4粒、4日目は8粒と、1粒から始めて、1ヵ月間、前日の倍の数の米粒を」
と願い出る。
秀吉は「そんなものでよいのか。欲がないのう」と安請け合いをするが……
旧暦の1ヶ月は、29~30日。
そして、2の29乗は、5億ちょっと。
米5億粒は、12トン程になるそうな。
しかも、初日から29日目までに渡す米粒の総和は
 1 + 2 + 4 + 8 +…+5億ちょい≒10億
(高校数学「数列」の「等比数列の和」の公式)
なので、渡す米の総量は10億粒ちょいで、24トン程。
途中でこのことに気づいた秀吉は、慌てて別の褒美に変えてもらったそうな。
 
他にもいろいろあります。
コンピューターでシステムを組む場合、処理に必要な時間は、データ量に対して指数関数的に増えないよう設計。
逆に、暗号を作る場合、暗号解読に必要な時間は指数関数的に増えるように、最新型のコンピューターで解読しようとしても何十年、何百年もかかるように作成。我々がインターネット上で取引をする時、知らず知らずのうちに使っている「公開鍵暗号」はこうなっています。
 
……という、『指数関数怖い』の一席。

都知事選にて、無名ながらも誠実・真剣なマニュフェストと姿勢で大健闘し、得票数5位になった、安野たかひろさん。
彼のおかみさんである、安野里奈さんの演説動画がバズっている……と先日、投稿しましたが。
文藝春秋で小説の編集をしている里奈さんが、インタビューで「文学」「編集」について語っています。
この動画が、ものすごく興味深い!
 
おかみさん、東大の工学部で都市工学を勉強。そこでは劇場を中心とした文化都市の研究していたそうな。
しかし思うことあり、同じく東大の文学部に入り直して日本文学の勉強。川端康成についての論文を書く。(川端文学の話も面白い!)
文藝春秋の編集部では直木賞候補作品を担当し、今年2月出版された『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場 著)に携わっていたそうです。
(この作品、中野区立図書館で借りようとしたら、5冊蔵書があるものの予約70人待ちでした。買うしかないか。本は増やしたくないから電子書籍で購入しよう)
担当しているジャンルはエンタメ・大衆文学なのでそういった視点・姿勢もありながら、純文学的な視点・姿勢もある。
そして作家さんが作品に込めた「思い」を大切にしている。
作家が描きたい世界と社会との折り合い、「言葉」「人間」「社会」の三角形の折り合いをどうつけていくか、Z世代の分析、読者層の設定は読者をバカにすることにならないか……
小説の編集者として、むちゃくちゃ頼もしいよなぁ。
おかみさんの話を聴いていたら「編集者って、実は作家にとってお母さんみたいなものなのかな?(本来は)」なんて思ったりしました。
 
「作品・作者を世に出すには」「作品に込めた思いを世に伝えるには」を真剣に考え続けてきたことが、今回の旦那さんの選挙活動支援に思いっきり活きたようにも思えます。
そして、そんなおかみさんの姿勢が、選挙運動にも出ていましたねぇ。
選挙で多くの候補者がやっている
「大衆なんでバカなんだから、マニュフェストなんざじっくり見ねぇよ。とにかく印象を良くして、顔を知ってもらって、握手して回って、『あなたに寄り添ってます』感を出して心地良い事を優しい口調で言ったり、逆に『私こそあなたの味方だ!』感を出して大声で世の中への不満・不安を煽ったりしときゃぁいいんだよ」という、多くのテレビ番組や雑誌等にも通じる薄っぺらさと安直さを持ったものとは、真逆の姿勢が。
編集者というマスコミ側の人間ながら、マスコミの価値観に溺れず、それを冷静に見ているところも頼もしいですね。

※おかみさんが文学・編集の話をするところは、14分30秒あたりから33分辺りまで。

【都知事選を振り返る】激白!妻から見た選挙【安野たかひろ夫妻】

都知事選前にここで触れた、安野たかひろさん。

(「知事ではなく相談役やコンサルタント向きでは?」なんて書いておきながら、結局、私はこの人に入れました)
彼のおかみさんである、安野里奈さんの演説が絶賛されバズっているそうで。(表示数1,328.5万件)
 
https://x.com/snowdance87/status/1809301041093177672


ハッキリ言って「喋り方」そのものは、そんなに上手いとは思えません。
進学校生徒会役員選挙の元気な選挙演説や、演技指導者のいない高校演劇部といったところでしょうか。
話術・話芸教室等に通ったことは、まず、ないでしょう。そういった所に行けば必ず直されるだろうな、という癖がいくつもありますから。(実は、私も講談教室や落語教室でそれらの癖を直されました。ちゃんと直っているかどうかは置いといて)
しかし、だからこそ、テクニックで固められた小賢しさのない「普通の元気な若い女性」っぽい、自然で身近に感じる訴え方に、多くの人が好感を持ったのかもしれません。
「喋り方」そのものについては。
 
で、訴えている「内容」について、ですが。
これにはびっくり!
理知的な安野たかひろさん当人が、演説やマニュフェスト等では大衆に上手く伝えきれない「人柄の良さ」「誠実さ」を、上手く、ピンポイントで、しかも
「安野たかひろ……ケンカができないんです」
という、(今現在の)政治家としては大きな弱点になりそうだが好感を持てる点を強調して伝えているのは、お見事です。凄えな。
「弱点になりそうなことをあえて強調することで、好感度を上げる」って、これをやった推薦人、今まで、他にいるのかな?
「チーム安野」のおかみさん、旦那さん当人ができないことを、上手く補っているよなぁ。
 
「喋り方はともかく、伝えることの選び方、言葉の選び方、訴え方が、抜群に上手いなぁ」
と思ったら、里奈さん、出版社の編集者なんですね。
「この作品、この作者の良さを多くの人に伝えるには、どうすべきか」を常に考えて仕事をしている人なのでしょう。
 
里奈さん、後日、マスコミに対して、ケンカができず悪口を言わない当人が口にしない、けれども誰かが言うべき厳しいことを、X(旧ツイッター)にてバシバシ書いています。
この点でも、旦那さんができないことを、上手く補っていますね。
いい夫婦だなぁ。
(TV側にも時間制限、視聴率維持等の事情があるのはわかるが、それでも「あぁ、やっぱり。酷いねぇ」と思わされます)

https://x.com/rinakuro/status/1810106747585278033
https://x.com/rinakuro/status/1808273878273384549
https://x.com/rinakuro/status/1810474906490138807
https://x.com/rinakuro/status/1810127243068481930
 
安野里奈さんの演説を聴いていると、なぜか、6月まで講談教室で習っていた『山内一豊(の妻)』を思い出してしまいます。
里奈さんは(一豊の妻)千代とは真逆のタイプともいえるのに。
(今回の安野夫婦の活躍、講談にしたら面白いかも……)
 
ということで、今日は「チーム安野」のおかみさんの方についていろいろ書きました。
後日、旦那さんの方について、そして今回の選挙、現在の選挙について、思ったこと、思わされたことを書こうと思っております。