今回はブライアン・デ・パルマ監督のスリラー「ブラック・ダリア」(2006年)。
原作はジェイムズ・エルロイのLA4部作の第一弾小説です。
1946年、ロサンゼルス。
元ボクサーのバッキー(ジョシュ・ハートネット)は、ロサンゼルス市警の殺人課刑事。
特捜部に抜擢されたバッキーは、同じく元ボクサーのリー(エーロン・アッカート)と相棒になり、彼の恋人ケイ(スカーレット・ヨハンソン)と交流を深める。
そんなある日、エリザベス・ショート(ミア・カーシュナー)という女優志望の女性が殺害される凄惨な事件が起きた。
リーはこのブラック・ダリア事件になぜか異様に没頭していった。
バッキーはエリザベスが出入りしていた店を洗ううちに、エリザベスそっくりのマデリン・リンスコット(ヒラリー・スワンク)という女性と出会う。
バッキーは魅惑的なエリザベスにのめりこんでゆく。
その後、リーが何者かに殺されてしまうが、現場にいながらバッキーは彼を助けることができなかった。
執念に燃えるバッキーが単独でリー殺害犯を追ううちに、彼はこの件がブラック・ダリア事件と繋がっていることに気づく。…
"The Black Dahlia poster" Photo by jon rubin
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リーとケイは同棲しているけど、ちょっと距離のある違和感のあるカップルです。
リーとケイには何やら秘密があるんです。
秘密を隠すために使われるのがウソです。
他にも富豪の娘ということでマデリンもウソだらけ。
リンスコット家の奇妙な面々も秘密と嘘だらけ。
原作者の作風か、かなり人間の闇を描いています。ドス黒く蠢く欲望を。
被害者の通称ブラック・ダリアの遺体が脳裏にこびりつくリーは、傍目には彼らしくないコントロールを失った言動が目立つようになる。
そしてバッキーも事件にのめり込んでゆくうちに、 惹かれ合うケイとの関係がおかしくなる。
まともな精神状態であれば、生ける現実、今という現実を大切にするわけです。
バッキーの場合であれば、肉欲的なエリザベス(=バッキーの中ではブラック・ダリアでもある。つまりかなり倒錯的な関係)にのめり込むんじゃなくて、ケイを大切にしなきゃいけない。
でも、事件と自分の私生活が混線して、正気を奪うようにどんどん深みにはまる怖さなんですね。
さて、ミステリー、サスペンス、スリラーとは封印された秘密に主人公が迫る物語です。
一方、現実の我々、普通の人たち皆にも秘密ってあるわけですね。
個人的な秘密があることは、人間である証明であると言い換えられます。
だからこそ、親しき仲でも相手の秘密を詮索することはタブーなんだと思いますね。
で、人は時に秘密を守るためにウソをつく。
問題はウソにも色々ということ。
中には、相手を思って「つかないといけない優しいウソ」というのもあります。
難しいのは、優しいウソにもし勘づいちゃった時、相手を許せるかどうか。
でも、許すことから初めて大切な相手と真正面から対面出来るのかもしれませんね。
そういう意味でも、この悲惨な「ブラック・ダリア」という物語にも僅かな希望を提示されているんです。
同じLA4部作の映画化「L.A.コンフィデンシャル」も、ラストは本作同様の、ちょっと希望を提示していました。
本作より「L.A.コンフィデンシャル」の方がテンポが良いかな。伏線が複雑な分、観づらいですけどね。
「ブラック・ダリア」は、随所にブライアン・デ・パルマっぽさはありますが、デ・パルマ作品は当たり外れがハッキリしていますね。
それにしてもこの頃のスカーレット・ヨハンソンは神々しかったなぁ…。