「ワンダー・ボーイズ」(2000年)をご紹介します。生きる目標を見失った中年男の数日間を通して人生の苦難と再生を描いたコメディです。
"wonder boys" Photo by Craig Duffy
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ピッツバーグの大学で英文学を教えるグラディ(マイケル・ダグラス)はかつてデビュー作が大当たりした小説家。
ですが、その後長いスランプになり、膨大なページ数となった2作目は未だに完成していません。
ついにグラディのデビュー作を担当した編集者クラブツリー(ロバート・ダウニーJr.)がしびれを切らしてニューヨークからやって来ます。
さらには妻が家を出て行き、不倫相手のサラ(フランシス・マクドーマンド)からは妊娠を告げられるグラディ。
とどめを刺すように風変わりな教え子ジェームズ(トビー・マグワイア)がサラの家でトラブルを起こしてしまうのです。
突然現れて功績を挙げ一世を風靡した若者を「ワンダー・ボーイ」と言います。
ワンダー・ボーイはそれ以降、世間から期待を一身に受けます。
でもワンダー・ボーイがその後鳴かず飛ばずになると、周囲から「あいつは終わった」と笑われていると苦悩し、いつしか人生の目標を見失う。
一発屋の苦しみです。
「でも大方は一発も当てられないでしょ?」という励ましは本人には一向に響きません。
グラディはかつてのワンダー・ボーイです。
書けないスランプの辛さから目を逸らすが如く、しょっちゅうラリっては現実逃避しまくっている。
クラブツリーもグラディのデビュー小説以降ヒット作を担当しておらず、今や業界から首寸前。
彼もまたかつてのワンダー・ボーイなんですね。
そしてジェームズは新たなワンダー・ボーイ?
グラディは嘘だらけのジェームズに振りまわされ悪夢のような時間を過ごす。
クラブツリーも無茶苦茶な男だし、さらにはグラディの車を「俺の車だから返せ!」と絡む謎の男まで現れる。
不倫相手のサラはグラディが勤務する大学の学長で、彼女の夫はグラディの上司。
もう無茶苦茶です。
今まで棚上げにしてきたことが一気に棚卸し状態になったグラディ。
途中書きの2作目のように、グラディの人生も着地点が分からない。
やがてグラディはジェームズの世話を焼くうちにあることに気づくんですね。
自分が向き合わなきゃいけないことから自分は逃げていることに。
ジェームズやクラブツリーはトリックスターなんです。
トリックスターの登場で日常が絶体絶命の危機に陥ってしまう。
でもトリックスターのやらかすトラブルの結果、なぜだか奇跡的に問題が解決する。
トリックスターのドタバタに付き合ったおかげで人生に光りが差し込むんですね。
監督が「L.A.コンフィデンシャル」のカーティス・ハンソンなのは良い意味で意外な感じでした。
脚本が「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」のスティーヴン・クローヴスなんですね。納得です。
不思議なユルさが何とも言えない作風ですが、中年の危機を描いた秀作ですね。