「エリザベス」(1998年)はエリザベス1世の半生を描いています。
16世紀のイングランド。エリザベス(ケイト・ブランシェット)は異母姉メアリー1世にロンドン塔に幽閉される。その後メアリーの病死によって25歳でイングランド女王に即位したエリザベスだったが、その後も国内外の政敵に命を狙われる。…
"伊莉莎白 Elizabeth" Photo by K嘛
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当時のイングランドは、旧教と新教が激しく対立しており、血が流れていました。
父王ヘンリー8世が設立した国教会とプロテスタントを激しく弾圧する女王メアリー1世はカトリック。
一方、エリザベスはプロテスタントでしたので、旧教勢力から危険視されていたのですね。
イングランドの国外も旧教のスペイン、フランス、ローマ教皇がエリザベスと新教勢力を封じ込めようと画策しますが、対するイングランドの国力は当時はまだ弱かったのです。
即位したエリザベスは世事に疎く、国が緊張状態にあるにも関わらずちょっとお花畑な感じがあるんですね。
エリザベスと恋仲のロバート候(ジョセフ・ファインズ)も政治に疎くフワついている。
エリザベスは自身の命と女王の位を保障するために、と重臣ウィリアム・セシルから政略結婚を勧められます。
でも、政略結婚は実質的にはイングランドが大国の属国になることを意味します。
相手もエリザベスを見下した感があるんですね。
そうこうしているうちにエリザベス暗殺未遂事件が起きてしまう。
切れ者で警護係のウォルシンガム(ジェフリー・ラッシュ)はエリザベスの命を受けて、黒幕の正体と証拠を押さえるために行動を起こすのです。
とにかく難しい時代に女性君主として生きたエリザベス。
政治と自由恋愛は両立しないのです。
イングランドと自身の命を守るには政治力が必要で、ロバートとの恋や情にほだされること(彼女の言葉では「心」)はその逆、という現実に気づきだすエリザベス。
当時、一国の主であることとは文字通りの命懸け。
家来も同様ですから「忠誠を貫くのは勇気がいる」のです。
鋼の覚悟が必要なんですね。
「何かを得るには何かを捨てる」と言いますが、得るものや立場が大きいほど犠牲にするものも大きいのかもしれません。
ロバートの処遇決定はエリザベスさいごの「心」のありかだったんでしょう。
恋を犠牲にし、生涯独身を貫いたエリザベスは「ザ・ヴァージン・クイーン」と称されました。
エリザベスの治政は「黄金時代」と呼ばれています。
エリザベスは命を何度も狙われましたが生き延び、長寿を全うしました。
本作の歴史的背景についてある程度の知識があるとより話がわかりやすいと思います。
例えばヘンリー8世とエリザベスの母親の物語「ブーリン家の姉妹」(2008年)はお勧めかと思いました。