ウィリアム・ワイラー監督が1人の若者の絶望と再生を描いた「ベン・ハー」(1959年)は、アカデミー賞11部門を受賞した不朽の名作です。
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紀元26年のローマ帝国が支配するイスラエル。
ユダヤの名家の若者ジュダ・ベン・ハー(チャールトン・ヘストン)は旧友メッサラ(スティーヴン・ボイド)と再会します。
メッサラはローマ人ですが、ベン・ハーとは兄弟のように育った竹馬の友です。
成長したメッサラはローマに行き、出世してローマ軍の司令官としてイスラエルに赴任してきたのです。
ベン・ハーとメッサラは再会を喜び合います。
この時の槍を投げ合いと腕を組みながら酒を酌み交わすシーンは名場面の1つです。
しかし喜びも束の間、メッサラはユダヤの有力者であるベン・ハーにローマ帝国への反逆を企む者を密告するよう頼むんですね。
ベン・ハーは同胞を売ることは出来ない、と断るのですが、メッサラとの友情にひびが入ってしまいます。
"ZVF48" Photo by Raoul Luoar
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翌日、ベン・ハーの屋敷の古い瓦が落下して、運悪く提督を怪我させてしまいます。
不運な事故であって、提督暗殺は誤解であることを訴えるベン・ハーにメッサラは聞く耳を持ちません。
メッサラはベン・ハーと一家が無実だと知りつつも、恐怖政治を確固とするためにベン・ハーを奴隷の漕ぎ手としてガレー船に、母と妹も地下牢に送ってしまうのです。
ガレー船で鎖につながれ、死ぬまで櫂を漕ぐ奴隷となったベン・ハーは、憎しみと復讐を生きる糧にして生き延びます。
4年後、ガレー船が敵に襲われて沈む際、船長のアウレリウス執政官を助けたベン・ハーは名誉を回復され、晴れて自由の身に.。
"Hugh Griffith from 'Ben Hur', 1959" Photo by Kristine
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ローマから故郷に向かう途中、ベン・ハーは、アラブの族長イルデリム(ヒュー・グリフィス)と出逢います。
ベン・ハーはイルデルムからメッサラがルール無用の戦車(チャリオット。戦闘用馬車)競技で連勝していることを知ります。
戦車オーナーでもあるイルデリムに「戦車レースに出てメッサラに仕返ししてやれ」と誘われるベン・ハー。
イルデルムも侵略者のローマ帝国に憎しみを抱いており、ひと泡吹かせたいのです。
ベン・ハーはイルデリムに1度は断って故郷に帰りますが、使用人の娘エステル(ハイヤ・ラリート)から母と妹が死んだと聞かされて復讐のために戦車競技に出場します。
この大迫力の戦車レースのシーンはあまりに有名ですね。
"DSC_4327w" Photo by Sheila Y
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"Ben Hur; chariot race" Photo by Sheila Y
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"DSC_4406w" Photo by Sheila Y
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レース後、メッサラはベン・ハーに最期に言います。
「まだ勝負は終わっちゃいないぞ。これからも続く・・・」。
メッサラのこの言葉は意味深だと思いました。
実際、ベン・ハーの心の中で憎悪と復讐が相手を変えて続いて行くことになるんですね。
自分と家族母に起きたことも、ローマへ行く前はいい奴だったメッサラが変わってしまったのも、みなローマ帝国のせいだ、とさらなる怒りの炎を燃やすのです。
あらすじはこの辺にします。
"Stephen Boyd in 'Ben Hur'' 1959" Photo by Jack Samuels
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憎悪が善人の心を蝕んでゆく。二重の悲劇です。
愛するエステルもベン・ハーに「かつて愛したあなたはいなくなってしまった。今のあなたはまるでメッサラのようです」と言う。
「憎悪に身を焦がしたくない」と抗うのは、実は己との闘い。
だから「勝負は終わっちゃいないぞ。これからも続く」のですね。
"Haya Harareet; in ''Ben Hur'' 1959" Photo by John Irving
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つくづく思うのですが、人生には自分ではどうにもできないことや、ただの運としか言いようのないものが思った以上に多い。
ベン・ハーはガレー船から奇跡的に生還してアウレリウスの養子に迎えられたことを「不思議な幸運と出会い」と語りますが、彼の数奇な半生は、まさに運命に翻弄されたものです。
自分ではどうにもできない、抗えないものは運命という大きなものに委ねるしかありません。
"#filmesdoidimais revendo Ben-Hur, tadim do Charlton Heston!" Photo by Newton Rocha
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ベン・ハーは十字架を背負いながらゴルゴダの丘に向かって歩くキリストの姿を見て思い出します。
奴隷船に送られる道中の過酷な移動で、喉の渇きから倒れたベン・ハー。
ローマ兵に「こいつには水をやるな!」と恫喝されても、臆せずベン・ハーに水を飲ませて命を救った若者がいたことを。
人は運命には抗えないけれども、その運命をどう解釈するかは自分自身に委ねられているのですね。
憎悪を手放すかどうかも。
"Row well and live" Photo by Karen
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本作はキリストの人生が交錯するので、後編で描かれるベン・ハーの再生に当たっては神による救済がテーマにあります。
このあたりは後編の評価を分けるところですが、少なくとも戦車シーンまでは誰もが共感する人間ドラマとなっていて見ごたえが充分にあります。
ハリウッド黄金時代の象徴-壮大なセット、多くのエキストラと衣装、巨額を投じたスペクタクル巨編はもう作られることはないでしょうから、そういう意味でも未見の方にはお勧めします。
憎悪と分断の時代を生きる私たちにとって「ベン・ハー」は意味深いと思いますね。
「愛を優先するか、憎しみを優先するか?」とは「幸せと不幸のどちらを採るか?」と同じ意味だと「ベン・ハー」を観て感じた次第です。