「深夜の告白」~ファム・ファタールの誘惑は破滅の序章 | ネコ人間のつぶやき

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 今回はフィルム・ノワールの傑作「深夜の告白」(1944年)です。保険会社の営業マン・ネフ(フレッド・マクレイ)は、自動車保険更新手続きを勧めるために実業家ディートリクソン氏の邸宅へ出向く。ネフはそこで氏の後妻フィリス(バーバラ・スタンウィック)と出会う。「夫に内緒で傷害保険に加入したい」と言うフィリスにネフは危険を感じて一度は拒否するが・・・。

 

"Double Indemnity, 1944" Photo by Ross Dunn

source: https://flic.kr/p/2ixhYob

 

 フィリスはネフを見透かしたのでしょう、その美貌と妖艶な魅力でもって彼を誘惑します。

 

 逃げるように家を出たネフですが、彼女のことが頭を離れない。

 

 突然ネフのアパートに現れたフィリスに抗えないネフは欲望を満たし、さらには完全犯罪の計画を立ててフィリスと共に実行してしまいます。

 

 でも、気づくとフィリスというファム・ファタルにネフは操られていたわけですね。

 

 「美しい薔薇には棘があるどころではない」のです(フィリスを演じたバーバラ・スタンウィックが素晴らしかった)。

 

 元々ネフにつけいる隙があるわけで、フィリスがそんな好物を見逃すわけがありません。

 

 フィリスと運命共同体となったネフは途中下車はできません。追い打ちをかけるようにフィリスのさらなる恐ろしい顔を知ることとなるネフ。

 

 情欲と金がからむとロクなことがないわけですが、そこにエネルギーを注ぐのは古からの人間の性。

 

 ファム・ファタールの誘いという罠は、危険な甘い香りと妖しい光がきらめく。

 

 ネフの脳裏に刻まれたフィリスの香水とアンクレットのように。

 

 その魔力は破滅への序章なんですね。

 

"Phyllis Dietrichson's house in Double Indemnity" Photo by Paul Narvaez

source:https://flic.kr/p/oTqovx

 

 物語はネフとフィリスの関係とネフと同僚のキーズ(エドワード・G・ロビンソン)の人間関係が軸になって動きます。

 

 ネフはキーズが葉巻の火を忘れるたびに火をつけてやります。

 

 この描写から二人には固い友情が存在していることがわかります。

 

 ネフは敏腕調査員のキーズに気づかれないよう犯行を遂行する必要があったわけですが、それは親友を騙すということです。

 

 ネフが深夜の告白をする相手がキーズであるのは、親友にはせめて真相を伝えておきたい、という友情と懺悔の証。

 

 でもキーズにしたら、きっと怒りと失望、そして「女も金も手に出来なかった」ネフへの憐れみという複雑な気持ちだったことでしょう。

 

 ファム・ファタールにハマったネフは何が大切なのか、完全に見失っていたのでしょう。

 

 フィリスへの愛とキーズとの友情を秤にかけたら・・・なんて理性的な頭でしかできないわけで。それだけに切ない幕切れでしたね。

 

"double indemnity" Photo by Phoenix Fry

source: https://flic.kr/p/e8Dvdp

 

 原作は「郵便配達は二度ベルを鳴らす」のジェームス・M・ケイン。監督は名匠ビリー・ワイルダーです。

 

 ワイルダーと共同で脚本を執筆したのは私立探偵フィリップ・マーロウを書いたレイモンド・チャンドラー。

 

 この面子ですから、このフィルム・ノワールがおもしろくないわけありません。

 

 フィリスの継子ローラ(ジーン・ヘザー)とローラのスットコドッコイな彼氏とネフの関係の描き方は、いかにもハードボイルド的でチャンドラーっぽい気がしますね。