今回は「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2002年)。
1960年代アメリカで天才詐欺師と称されたフランク・W・アヴァネイルJr.の自伝にインスパイアされた、実話を基にしているんです。
17歳のフランク・W・アヴァネイル(レオナルド・ディカプリオ)は両親の離婚にショックを受けて家出。
生きるために小切手詐欺を始めたフランク。
やがて大手航空会社の副操縦士に成りすまして世界を股にかけるようになり、小切手詐欺をするようになります。
FBI捜査官のカール(トム・ハンクス)がフランクの影を追います。
クライムムービーですが、コメディ風に描いています。
ディカプリオ演じるフランクの頭脳明晰で大胆な言動が鮮やかで、出し抜かれるカールの姿が笑いを誘う作りとなっています。
フランクは両親が大好きだったんですね。母とダンスした父親の姿に誇りを感じているんです。
でも尊敬する父親は事業が破綻してしまう。
詐欺で大金を手にするフランクは、再び元の家族に戻れると信じていますが、知らないうちに母は再婚していたんですね。
フランクは家族を喪失していたんです。
こうして孤独を生きざるを得ないフランクは犯罪を続けますから嘘の人生を生きてゆく。
一方、カールは真面目一徹な男ですが、彼も離婚して娘とも離れ離れです。
クリスマスになると、なぜか不思議と電話で声を交わすフランクとカール。
本来、家族と共に過ごすクリスマスです。
フランクはもちろん、クリスマスに電話してくるフランクを「話をする人間がいないんだろ~!」と笑ったカールも孤独なんです。
逃げて追われて、をしているうちに奇妙な友情、絆が芽生えるのですね。
嘘の自分を生きているフランクは、嘘を語る時は堂々と振舞っているのに、逆に真実を生きることが苦手になってしまい、そこに疑念を抱いちゃうんですね。
生き方を変えるー真実の人生を生き直すには、それを支えるよき出会いがある。不思議と。それは小さな奇跡。
家族を喪失したフランクは血はつながっていないけども、新たな家族的存在と奇妙なかたちで出会うのですね。
タイトルは鬼ごっこの「鬼さんこちら手の鳴る方へ」という意味。
フランクを 追うカールが鬼です。
鬼ごっこは鬼が逃げる者に執着しないと成立しません。
逃げる者は鬼に関心を抱かれているとも言えるわけで。
捕まるまでは鬼が追いかけてくる、という信頼感がないと成立しない遊びなんです。
でも、逃げなくても関心を示される方が良い。
あたたかな感情を注がれるなら、逃げる必要さえない。
実際の事件を元にした物語を単なるコメディにとどまらず、現代人の孤独と疑似家族、そして心温まる人生再生物語に昇華させたスピルバーグ監督なのです。
この物語はカールがフランスの刑務所からフランクを移送するために現れるところから始まります。この日が1969年のクリスマスイヴです。
先述しましたが、その後も不思議とクリスマスに電話で声を交わす追うものと追われる者。
フランク逮捕の夜もクリスマスイヴ。
物語の結末を考えると、神様の奇跡ではないけども、人間の起こした不思議な奇跡の物語です。
そういう意味でも「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」はクリスマス映画だと思いますね。
音楽も良いですね。フランク・シナトラの「Come Fly With Me」は航空会社とのタイアップで作られたコンセプトアルバムの中の1曲。
レオがパイロットの制服来てまんまと世界を股にかけて旅をする時にかかるんです。
アカンことしてるのに、不思議とレオが颯爽と見える、コメディ感が楽しい!
(2020年3月2日の過去記事をリライトしました)