「画聖」という称号にふさわしいグスタフ・クリムト。19世紀末のウィーンで新しい芸術活動をしたアーティストで、特に女性像に定評があります。
「メーダ・プリマヴェージの肖像」(1912)
"Klimt" Photo by bm.iphone
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代表作「接吻」など「黄金の時代」と呼ばれた作風の時期にクリムトが好んで描いた女性像はファム・ファタル(運命の女性・魔性の女)です。
クリムトの代名詞ですね。
しかし、他の芸術家同様に、クリムトの作風も年々変化を遂げています。…というお話です。
プリマヴェージ家の娘で当時9歳のメーダ・プリマヴェージという名の女子をモデルに描いた肖像画が上の「メーダ・プリマヴェージ」。
クリムト晩年の女性像です。
資産家プリマヴェージ家はウィーン工房を支援しており、前衛的なアーティストと関わりがあったんですね。
この肖像画にクリムトらしさを感じさせるのは、眼差しはしっかりとこちらを見据え、片手を腰に当てて両足で大地を踏ん張っている姿です。
前思春期の彼女が自ら強い心で立っているところです。
モデルという対象をどう描くか、に画家のらしさが現れます。
例えば、クリムトと同時期に活躍したムンクの「思春期」は、女子の背後に大きな影が浮かび上がっていて、強烈な思春期の危機的不安が強調されています。
ムンクにとって女性という存在は、愛だけでなく、自分の精神を脅かす強烈な葛藤と不安を呼び起こす複雑過ぎる存在でした。
だから「思春期」は思春期の不安というよりもムンクの精神的危機を予感させる不安の投影なんですね。
対してクリムトにとって女性という存在は、ミューズであり、敬愛の対象でありました。
クリムトが「メーダ・プリマヴェージの肖像」を、人生に対して逃げずに強くあろうとする女子の姿に描いている理由かも知れませんね。