人間は本当に複雑です。自分でも嫌になることがあるくらい。でもそれはそれで人間の証かもしれませんけれども。
ただ、その人間の複雑さが、人と人との関係を複雑にしますね。これは避けがたいところがありますね。特に情のある関係は。
特に恋愛関係、夫婦関係、親子の関係。そして人の複雑さが、本来はシンプルかもしれない人生さえも複雑にするわけです。
今回はそういう人の複雑さが、家族関係や人生を難解にする切なさについて少し考えたいと思います。
おはなしの題材は「パリ、テキサス」(1984年)。本作は、カンヌ映画祭パルムードル受賞に輝いたヴィム・ヴェンダース監督作のロード・ムービーです。
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テキサスの砂漠を一心不乱に歩く男・トラビス(ハリー・ディーン・スタントン)が行き倒れます。医師が男の所持していた名刺に電話すると、連絡を受けたのは弟のウォルト(ディーン・ストックウェル)。
ウォルトは、車でトラビスを迎えに行きます。そしてロサンゼルスのウォルトの家に着いたトラビスは、8歳になった息子のハンター(ハンター・カーソン)と4年ぶりに再会します。
トラビスは父親としてハンターとの時間を過ごし始め、やがてハンターもトラビスを父親として懐き始めるのです。
ある日、ウォルトの妻・アン(ロール・クレマン)から、トラビスの妻・ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)が今はシアトルにいるらしい、と聞いたトラビスは、中古車を購入してジェーンを探す旅に出ることを決意します。ハンターも同行を希望して親子はシアトルへの旅に出ます。
ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)。このトラビスとジェーンの再会シーンが切なすぎて泣けてきます。
"Le Jour ni l’Heure 0482 : Jane (Nastassja Kinski), dans Paris, Texas, de Wim Wenders, 1984 — Plieux, salle des Pierres, dimanche 31 août 2014, 22:25:18" Photo by Renaud Camus
source: https://flic.kr/p/oJ6Mog
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トラビスは4年前に妻子を置いて失踪してしまっていたのです。で、妻のジェーンも母親業を諦めて4歳のハンターをウォルト夫妻に預けて消えたんですね。
トラビスはテキサス州パリに空き地を購入していてそこを目指して延々歩いていたことを語ります。両親が初めて愛し合った場所なのだ、と。実はトラビスにはささやかな夢があって空き地を購入していたのです。
愛には痛みや苦しみが伴う。その愛が激情的なら痛みもまた激痛。時にその愛は自分や愛する者達の心を傷つけかねないものでしょう。
トラビスがなぜ愛する妻子と別れて失踪したのか?・・・。そこにはトラビスの苦渋の選択があったのですね。
放浪するトラビス(ハリー・ディーン・スタントン)。
"72.paris texas_1_1" Photo by petcor80
source: https://flic.kr/p/vYm5yx
それが人としてベストの選択ではないのは本人も十分わかっているわけです。でも、トラビスは愛する者たちのことを考えるとあの選択をとるしかなかったのでしょうね。
愛を求めているのに、その愛が自分を壊しかねないという、トラビスの悲しさ。監督のヴィム・ヴェンダースは「ベルリン・天使の詩」でも、何かを獲得するには何かを諦め、犠牲にする決意が要ることがある、というテーマを描いておりますね。
しかし、人間とは本当に複雑ですね。好きな者同士ゆえにうまくいかない、という葛藤と矛盾。人の複雑さ・難解さが時に夫婦関係を始めあらゆる人間関係や、家庭、そして人生そのものさえも複雑にするのでしょう。
人間は複雑です。もし人生が元々シンプルであるなら、人が「せめてもっとシンプルに生きよう」考えられたら良いですね。
具体的には、考えすぎず、無駄な欲やこだわりを捨ててシンプルに生きてみる。そうするなら、もう少し人生も本来のシンプルさに近づくかもしれない。そう思ったりもしますね。
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