銀河ヒッチハイク・ガイド / ダグラス・アダムス | Real Yellow Monkey

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銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)/ダグラス・アダムス
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あらすじ(裏表紙参照)


銀河バイパス建設のため、ある日突然、地球が消滅。

どこをとっても平凡な英国人アーサー・デントは、最後の生き残りとなる。

アーサーは、たまたま地球に居た宇宙人フォードと、宇宙でヒッチハイクをするハメに。

必要なのは、タオルと<ガイド>-。

シュールでブラック、途方もなくばかばかしいSFコメディ大傑作!



引用


星図にも載っていない辺鄙な宙域のはるか奥地、銀河の西の渦状腕の地味な端っこに、なんのへんてつもない小さな黄色い太陽がある。

この太陽のまわりを、だいたい一億五千万キロメートルの距離をおいて、まったくぱっとしない小さい青緑色の惑星がまわっている。

この惑星に住むサルの子孫はあきれるほど遅れていて、いまだにデジタル時計をいかした発明だと思っているほどだ。

この惑星にはひとつ問題がある、というか、あった。そこに住む人間のほとんどが、たいていいつでも不幸せだということだ。

多くの解決法が提案されたが、そのほとんどはおおむね小さな緑の紙切れの移動に関係していた。これはおかしなことだ。というのも、だいたいにおいて、不幸せだったのはその小さな緑の紙切れではなかったからである。

というわけで問題はいつまでも残った。人々の多くは心が狭く、ほとんどの人がみじめだった。デジタル時計を持っている人さえ例外ではなかった。

(P.5)


そのほかに、やや大きめの電卓のような装置も入っていた。百個ほどの小さなフラットボタンと、およそ十センチ四方のスクリーンがついていて、いつでも無数の「ページ」の一つを呼び出すことができるのだが、一見してあきれかえるほど複雑な装置に見える。

ひとつにはそのせいもあって、この装置がぴったり収まるプラスティックのカバーには、大きな読みやすい文字で「パニクるな」と書いてある。

これにはもうひとつ理由がある。この装置はじつは、小熊座の大出版社が出したうちで最も驚くべき本、すなわち「銀河ヒッチハイク・ガイド」なのだ。

(P.36)


とくに大統領は百パーセントお飾りと言ってよい。権力と名のつくものはなにひとつ持ってない。見たところ議会によって選ばれているようではあるが、大統領に要求される資質は指導力ではなく、計算ずくでちゃらんぽらんをやる能力である。

だからこそ、選ばれるのは決まってなんであんなやつがと言われる人物であり、人を逆上させると同時に魅きつけもする人物なのだ。

大統領の仕事は権力をふるうことではなく、権力から目をそらすことだ。

その基準から言えば、ゼイフォード・ビーブルブロックスは、かつて銀河帝国に現れたまず最高の大統領のひとりだった。

(P.53)


イギリスもう存在しない。それはわかった-なぜだか実感できた。別のを試してみた。

アメリカも消えた。これはうまく呑み込めなかった。もうちょっと小さいところから始めることにした。

ニューヨークも消えた。反応なし。まあだいたい、彼にとってニューヨークは夢物語みたいなものだったし。ドルは二度と復活することはない。かすかにうずくものがあった。

ボガートの映画は二度と見られないのだとつぶやいてみたら、したたかにぶん殴られたような衝撃があった。マクドナルドもだ。マクドナルドのハンバーガーなんてものは、もうどこにもないのだ。

(P.84)


こうして条件は整い、ここにあっと驚く新たな高度産業が誕生した。すなわちオーダーメイドの豪華惑星の建造という産業である。

この産業を生んだ惑星マグラシアの超空間技術者たちは、ホワイトホールを通じて物質を空間に集め、それを夢の惑星に仕立てあげた。黄金の惑星、プラチナの惑星、柔らかいゴム製でしょっちゅう地震の起きる惑星-銀河系有数の大富豪が求める厳しい基準に合わせて、すべてが美しくつくられていた。

(P.156)


「そのコンピュータから見ればたんなる演算パラメータにすぎないものも、わたしごときには計算することさえかなわないでしょう。しかし、そのコンピュータを設計するのはこのわたしです。そのコンピュータにならば、究極の答えに対する究極の問いを計算することができるでしょう。

そのコンピュータは無限にして精妙な複雑さをそなえ、有機生物そのものが演算基盤を構成することになるでしょう。そしてあなたたちは新たな形態をとってそのコンピュータに降り立ち、一千万年のプログラムを誘導することになります。

そうです、このわたしがそのコンピュータを設計するのです。名前もつけてあげましょう。そのコンピュータの名は……地球です」

(P.245~P.246)



感想

ダグラス・アダムスのベストセラー作品で、書かれたのは1979年。

SF古典としても人気の高い作品で、映画化もされている。

ダグラス・アダムスはモンティ・パイソンに影響を受けているらしく、物語全般にブリティッシュ・ジョークが、余すところなく埋め込まれている。


まず、ストーリーについて。

アーサー・デントは平凡な英国人であり、その友人のフォード・プリーフェクトは宇宙人であり、「銀河ヒッチハイクガイド」の現地調査員である。

因みに「銀河ヒッチハイクガイド」は、現代で言うならWikipedia的な辞典であり、表紙には「パニクるな」と書かれてある。


或る日、地球上のあらゆる国の上空に堂々たる船が浮かび、人々はパニックに陥る。

銀河外縁部開発計画に基づき、超空間高速道路の建造が不可欠になり、地球は取り壊し予定惑星の一つであるというのだ。

そして、工事は二分足らずで終わるという旨のアナウンスが告げられる。

その後、人類の事など歯牙にもかけず「破壊光線作動」の合図で、地球はあっさりと破壊されてしまう。


そして、生き残ったアーサーと宇宙人フォードの二人は、奇想天外なヒッチハイクの旅を始める事になる。

また、銀河帝国大統領ゼイフォード・ビーブルブロックスも、アーサーやフォードと一緒に旅をする事になる。現代の大統領を愚弄するようなゼイフォードのキャラクター設定は、なかなか面白い。


とにかく、登場するキャラクターのほとんどが闊達で飄逸としていて印象的である。

また、各々がキャラ立ちしているのは、シリーズ化する上で重要な事だろう。

特に、重度鬱病ロボットのマーヴィンが良い味を醸し出している。

発言する事全てがいちいちネガティブなのだが、このロボットの懊悩が物語の後半に重要な役割を果たす事になる。


以下は、特に印象に残った物語の中核となる部分。


人々は常に宇宙の真理を渇仰していた。

それを解決するために、人々はスーパーコンピュータ、ディープ・ソートを作り出し解答を求めた。

しかし、ディープ・ソートは解答を750万年も待たせた挙句、「生命と宇宙もろもろの答えは42」と答える。

この意味不明な解答に勿論、人々は納得しない。そして、その解答が出来るコンピュータを設計する事になり、それが地球という事になった。

惑星マグラシアでは、銀河系のほとんどの惑星を製作している。

ディープ・ソートは地球を設計し、芸術家のスラーティバートファーストや、その他のマグラシア人が地球を建造した。

そして、地球人は破壊されるまで、そこに住んでいたという事だった。


この設定は、個人的に非常に感興を催す処だ。

地球は実験施設であり人類はとても愚かであり、それが独特の諷刺の効いた笑いに変換されている。

また、森羅万象を俯瞰的に諷刺している点も面白いのだが、我々の巷間をクリエイター的な視点で考察した場合、どうなるのだろうか?という点も興味深い。

基本的に小説自体、特に三人称で描かれる場合、神の視点から描かれていると言える。

そして、その視点からこの作品のように、劫初や世界についてユニークに思い巡らす事は、日常の瑣事に捉われている人々にとって、精神の陋劣を防ぐ手段として有効だと思える。

SF小説はこの作品のような世界観を描くのに、まさに打ってつけと言えるだろう。


ブリティッシュ・ジョークに触れる機会がまだまだ少なく、それは個人的な課題でもある。

しかし、この作品には、何回も読み返したくなるような眩惑的な魅力がある事は確かだと言える。

また、科学的な知識はあまり必要とせず、SFの枠に拘らずに万人が受け入れられる世界観である。

文学好きな人、またはカート・ヴォネガット等が好きな人にもお勧め出来る作品だ。