- アンドロメダ病原体 (ハヤカワ文庫 SF (208))/早川書房
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あらすじ(裏表紙参照)
アリゾナ州ピードモントは、無人衛星の着地後、瞬時に死の町と化した。 現地で極秘裏に衛星の回収作業を行っていた回収班からの連絡も、やがてぷっつりと途絶えた。 どうやら地球外病原体-それも恐るべき致死性を持つ病原体が侵入したらしい。 ただちに最高の頭脳と最新鋭のコンピュータによる特別プロジェクトが発動されたが・・・。 地球が直面した戦慄の五日間を徹底したドキュメンタリー・タッチで描く衝撃の話題作! |
引用
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そのアイデアは、彼の論文の終わりにこう要約されていた。
以上から地球外生物との最初の接触は、種形成の既知の確率から決定されるだろうという結論が生まれる。地球上に複雑な生物が稀であり、単純な生物が豊富に存在するのは、否定できない事実である。 細菌は数百万種、昆虫は数十万種存在する。 いっぽう、霊長目は数えるほどの種類しかなく、大型類人猿は四種類に限られている。 (中略) これらの考察からして、人類と地球外生物の最初の相互作用は、地球の細菌あるいはウイルスと同一とはいわないまでも、それに近似した生物との接触から成るものであろうと思われる。 そうした接触の結果は、地球の全細菌の三パーセントが人間に有害な効果をおよぼしうる事実を想起するならば、けっして楽観を許さない。 (P.65~) |
だが、ほんとうの目的はまったく別物だった。 スクープ計画のほんとうの目的は、フォート・デトリック研究センターの開発プログラムに応用できるような新しい微生物を発見することにあった。早くいえば、新しい生物兵器を発見するためのプロジェクトだったのだ。 (P.78) |
地球上では、進化の流れが、つねにより大きい、より複雑な動物をめざしている。 しかし、地球の外ではそれが通用しないかもしれない。宇宙のかなたでは、生物が正反対の方向へ-より小さい形態、より小さい形態へと-向かっているかもしれない。人類の現代のテクノロジーが製品をより小さくすることを学んだように、ひょっとすると高度な進化の圧力は、より小さい生命形態をめざしているのかもしれない。 (P.181) |
感想
小説全般に言える事かもしれないが、SFに於いても文学的な作品は高尚とされている。 その為、文学性というよりは科学性とエンターテイメント性の強いマイクル・クライトンのSFファンの中での立ち位置はどうなんだろうと多々思う事がある。 しかし、SF作品の歴史の中でも「アンドロメダ病原体」の評価は高く、個人的にも知識小説の形式は悪くない感触だ。 物語は、宇宙人とのファーストコンタクトなどではなく、特定不可のウィルスが人々を次々と殺すところから始まる。 これは、地味ながらも非常にリアルな設定で、物語に独特の緊迫感を与えるのに成功している。 特に、病原の特定と対処の為に、血液検査や動物実験等、ロジカルな手順で分析していく作業や、詳細なデータが描かれている箇所は圧巻である。 オペレーション・リサーチの論理と軍事科学機関の統計的全体主義が見事に組み合わさっている。 論理的完成度の高いミステリーSF作品と言えるだろう。 印象に残る部分は、スクープ計画の本当の目的は軍事目的であったという箇所だ。 スクープ計画とは、宇宙機が地球に帰還した際、それと一緒に持ち込まれる可能性のある大気圏外生物の調査の事である。 しかし、これはあくまで表向きの目的であり、この計画自体は実は極秘裏に行われており、世界のトップリーダーのアメリカにとって要機密事項なのである。 科学やテクノロジーの発展は、常に人間の支配・征服の為に利用される危険性を孕んでいる。 その昔、鉄を生産し始めた頃から、人類はどんな変遷を辿ってきたのだろうかと考えさせられる。 また、地球外知的生命体が必ずしもヒト型に近い形態をしているとも限らず、ウィルスのようにミクロの形で進化していくという推論。これも、有り得なくもない発想だろう。 作品中で難を言うなら、人物描写が希薄な点が挙げられる。 スクープ計画に基づくワイルドファイアチームの五人は、選りすぐりの細菌学者や医者によって結成されている。 しかし、キャラクターの描写が直接的で尚且つ個性が感じられず、然程感情移入出来ずに物語が進行してしまう処がある。 これは、科学的詳細を述べる箇所が多いが故、話をコンパクトに纏める手段の一つかもしれない。
作品自体は、科学的知識が詳細ながらも、読みやすく誰にでもお薦め出来る作品である。 特に、哲学的なSFが苦手だと言う人には丁度いいかもしれない。 映画で言うなら、「X-FILE」辺りが好きな人には合う作品だと思う。 |