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The molluskのブログ

10年目を迎えた家庭生活の記録

穏やかな天候の土曜日。でも心はざわめいていた。なぜなら、一年前のこの日イケメン君とランチデートして、キスしてしまったんだったからだ。(そしてその日から一年口を聞かなかった。)

昨夜夫は急に休日出勤になり、娘は友達と約束で出かけて行った。こんな日に、一人急にぽっかりと取り残されてしまった。思い立って、なんとなく、去年と同じ場所に行ってみた。彼と歩いた道を辿り、今年も同じように同じ花が咲いてるのを眺めた。今年は、一人だけど。もしかしたら彼がいたりして、なんて期待したけれどそんなドラマチックなこともなく、ゆっくり思い出に浸ろうにも、今日は小春日和で人出がものすごくて落ちつける感じでもなかった。過去なんだな、もう終わったこと。時は流れてて、あれは思い出の一ページ。ものすごく特別な思い出だけれど、もう、拘らなくていいんだ。なんとなく、自分の中で区切りがついたかもしれない。周りは夫婦やカップルばかりで、ちょっと死にたくなりながら帰宅した。

3人で夕飯を食べながら、娘が夫のスキーの指導がスパルタで嫌だと文句を言い始める。夫は俺はスパルタにしてるつもりはない、と言うので、それは個人の感じ方次第なんじゃない、と口を挟んだら、夫は、お前がスパルタだからな、と訳の分からないことを言ってくる。夫のスキーの指導と、私の性格。全く関係ないのに、また私を非難して自分に落ち度がないことにしようとする。いつもこうだ。責任転嫁と、話のすり替えと、人格否定。俺が普通だといえば誰にとっても普通なんだ。他人の基準で俺を批評することは許さない。本当に幼稚な思考。


不満を伝え、その後二人で話し合いをしようとしたが、私が何を聞いてもだんまり。娘が独立して定年した後、二人でどんな生活をしたいか、と聞いてもだんまり。10分経って返ってきた答えは、考えておく、だそうだ。想像力もなければ、なんの美学もビジョンもない。私のアイディアに賛同するでもなく否定するか、激怒するか。受け入れたとしても実現力もない。要するに生命力がないのだ。


残りの人生の全部をこの会話の成り立たない男と過ごさなくてはならないのかと思うと、気が狂いそうになる。他人に相談しても、あなたの仕え方が足りないのよ、歌の活動を辞めたら?と、死人を足蹴にするようなことしか言われない。


彼とは、年明けから2回顔を合わせて、一度こちらから連絡した。返事はくれたけど、すぐに会話は途切れた。適切な距離感がまだ掴めていない。少し距離を置いて、じっと見つめてくるだけの彼。私も、彼の視線を認めると笑顔で応えるけど、それだけ。諦めないといけないのに、こうして彼の笑顔を見ると忘れられない。

好きな人がいて、相手も私を想ってくれてる。それはすごく素敵で幸せだ。彼を苦しめてるんじゃないかと思うし、私も苦しいけど、たとえそうだとしても、これはお互いが成長して大人になるために必要な試練なんだと思う。好き同士だからって、うまくいくわけじゃない。肉体関係がゴールなわけでもない。

彼は灰色だった日常に色をつけてくれた。このまま終わっても、彼には感謝してる。彼の幸せのために、私ができることは、このまま綺麗な思い出になってあげることだろうなと思う。





イケメン君といろいろあって、やっぱり一旦家庭に帰ろうと思ったのが1月。友達なのかと思ってたイケメン君に、物欲しそうな欲求不満のオバさんと思われてたのかと思うと、死にたくなった。家庭で満たされないから、イケメン君がちょっと女性の扱いをしてくれただけで楽しくて舞い上がってしまったのは確か。夫との関係を改善しないと前に進めないだろうと、もう一度夫と向き合う決意をした。

いろいろやっていた歌の活動を、主催側として関わるもののみに絞り、いち生徒程度の関わりだったところは3月末までに全て辞めた。折しも春。ベランダにいろいろと植物を置き、家を片付けて快適に過ごせるようにした。
夫は、綺麗になった家を見て俺の居場所がない、と言い、娘が宿題をするのを嫌がったという理由で前日に買ったばかりの娘と私のアジサイの鉢を捨てようとした。今まで料理を捨てたり、ガラス瓶を壁に投げつけたりはあったが、これは本当にドン引きだった。あなたのしたことは、娘が気に入らないことをしたから、かわいがってるペットの猫を殺そうとしたことと同じだと言った。
風邪をひいて寝込んでいる時、何を食べたい?と聞かれたので煮魚と炊き込みご飯が食べたい、とリクエストした。とても嬉しかったのに、夫が買ってきたのは半分脂身の豚ロースの生姜焼きだった。ごはんも白いご飯で、「娘と二人で食べて、私は食べたくない」と言ったらキレて私の分をゴミ箱に捨てられた。いつも私が体調を崩すと大げんかになる。

6月。免許更新の帰りに、ふと飛び込みで入った美容院で、ショートカットを勧められてばっさりとイメージチェンジ。前から短くして欲しいとずっと言っていた夫は、新しい髪型が気に入ったようで少し態度が軟化する。ちなみに6末にイケメン君と半年ぶりに現場でばったり…お互い目も合わせない。”俺に失恋したせいでショートにした”と思われてんじゃないだろうかと危惧。別にそうじゃないんだけど。あの自信満々のイケメン君は絶対そう思ってそうだ。

7〜8月は現場がいっぱいで、イケメン君とはしょっ中顔を合わせるも会話はゼロ、挨拶もしない。私の歌の先生が来日、イケメン君の前でたっぷり親密なところを見せつける格好に。ちなみに夫は一切見にきたりしない。馬鹿じゃないのか、恥ずかしくないのか、普通にできないのか。それが夫のコメントだ。

9月、新たな学びを始め、だんだんと自分がやっていることへの自信と確信を深める。イケメン君がわざわざ私のいる現場へ来るようになり、私が避けてるのを知っててテリトリーを守らないなんて、こいつは私をコミュニティから追い出そうとしてるのかと思う。イケメンの辞書に気まずいという文字はないのか。

10月、イケメン君からまた話したいと連絡。夫は会社の業績不振と、私からの離婚提案にパニックになり号泣。これ以降、物を捨てたり等の暴力はなくなった。

12月、イケメン君と仲直りして、友達に。イケメン君よりさらに歳下の美容師君にまで、仕事中にど直球に口説かれる。夫は媚びるような態度をとってくるが、”好きな女性に対しては、男性は興味関心を持ってくれる”という事実に、美容師君との会話やイケメン君とのやりとりを通じて気付いてしまい、夫が私を愛しているわけではなく幼稚な自己愛しか持っていないことを再確認。
止まない夫のモラハラ。チュートリアル徳井の脱税騒ぎで、社会的経済的制裁を受けたんだから逮捕までされなくてもいいんじゃないかと言ったら、ブチ切れてお前は金を稼いでないから経済観念がなくてそういうことが言えていいよな、と罵倒される。自分の精神を守るため、夫に対して完全に心を閉ざす。


もう忘れようと思っていたイケメン君から、9ヶ月ぶりに連絡が来た。普通に話したいって…なにそれ。普通?いまさら、普通にしろって?普通にしてたんだから、そっちが手を出さなければ今でも普通にしてたのに。身勝手なやつ。保身でも考えてるんだろう。一生懸命忘れようとしてたのに、やっと、彼がいても話もしない距離感に慣れてきたところだったのに。あいつは、いまさら普通にできるんだ。私のことなんて、なにも考えてないんだ。ものすごく悲しくて、涙が溢れて止まらなかった。…何故こんなに悲しいんだろう。それは自分でも驚くほどの感情の揺れだった。でも、家にも外にも一人になれる場所はなくて、声を出して泣くところもなかった。

誰にも言わないから、もう私を気にする必要ないよ。話したくないから、放っておいてくれればいいから。

未読無視されて、3日後にたまらず長文で追撃してしまった。

ごめんね。私夫にずっとストレスのはけ口にされててあまりにも心が空っぽで、それをあなたに都合よく縋ることで埋めようとしてた。あなたに失礼だった。友達に戻れるならそうしたいけど、うまくできる自信がなくて。自分でもどうしたいのかよく分からない。

これも未読無視。やっぱり、重い話なんて受け止めてくれないんだね。また会うのに。こんな生々しい弱みを見せてしまって、どんな顔して会えばいいの。悲しかったけど、すっきりもした。向き合ってくれない人なら、夫と一緒だもの。何年経ってもそういう人は変わらない、それは体験的に学習した。

その後未読無視されたまま現場で会ったけれど、話しかける勇気はなかった。仲間と談笑しながらふと入り口を振り返ると、こちらを見てる彼と目があった。すごく、情熱的な目で、心臓が跳ねた。怖くなって目を逸らし、何もなかったかのようにまたおしゃべりを続けた。

その後MCマイクを持って、にこにこしながらふと客席を見やると、カメラを手にした彼が私を見ながらすごいふやけた笑みを浮かべているのが目に入った。なんだろう、子猫がすり寄ってきたから思わずにやけちゃったみたいな感じの、無条件に愛おしそうな、無防備な表情。いつもかっこつけなのに…。こんなに人がいて、こんなに離れていても彼の視線は目に飛び込んでくる。いつもとても印象的だ。

その日の私たちの上着は、同じメーカーので色も被っていた。私はちょっとラフなイメージの衣装にして裾を片方だけ捲っていたのだけど、片付けの最中ふと見たら彼も真似をしてた。なんぞこれ…可愛すぎるし。真似すんなし。え?何アピール?わざと?無意識?訳がわからない。

あらかた片付けが終わっても彼は帰らずに、椅子に浅く腰掛けて、折れそうなくらい項垂れてた。前にもあのポーズを見た…知ってる。私と話したくて待ってるんだ。ドキドキする。彼も私を好きなんだ…不倫の恋でも、まだ諦められないんだ。少なくとも私にそう思われることを彼は望んでる。でも、ずるくない?トリガーを引くのは私なの?彼への罪悪感がちくちく刺激される。心を鬼にして突き放すのが彼のためなんじゃないの?友達になって、その先の進展を期待してる?でもそれって、体だけの関係なんだよね?それとも、今度こそ寝てそれをネタに確実に揺すろうとしてるわけ?ああもう、分からない。何がしたいの。私そんな、一時の情動に身を任せられるような年齢じゃないわ。

今じゃない気がする。私は踵を返してその場を後にした。

次の現場は屋外のステージだった。もう、メールを送ってから3ヶ月経っていた。300人からの観客、TVカメラも入ったステージより、彼に話しかけるかどうかの方が、よっぽど緊張した。なかなかチャンスは訪れなかったけど、終演直後、私は隣にいた彼に声をかけた。…お疲れ様。彼は被っていたニットキャップを勢いよく脱ぎ去りながら、すごく気持ちよさそうに叫ぶ。あー、疲れた!その少年みたいな笑顔に、こちらも思わず微笑んでしまった。

夜になって打ち上げがあるというので合流してみたら、彼もいた。カラオケ店を改装した、薄暗い狭い個室のソファ席。隣に座って目線をやると、彼はしきりに髪をかき上げて、ニットキャップ被ってたから髪がぺったりだと言い訳している。いいのに、そんなこと気にしなくても。彼の汗の匂いがした。頑張って走り回っていたものね。なんだか、少し雰囲気が変わったな。頑張ってることへの照れが無くなってるというか、相変わらず斜に構えようとしてはいるんだけど、少し角度が真っ直ぐになってるような気がした。そういう方が好きだよ。分かるよ、本気出す対象が見つからないんだよね。でも、あるよ。大丈夫だから、それで、あってるよ。
交互に写真を取り合う女性たちに対し、彼は写真には写らない。君が撮ってくれればいいんじゃないの?とつっこむと、今日は疲れたんで、と返してくる。今日はもう閉店なのね?ずっとしたかった、たわいない会話。ポリゴンショックの話になったときに、君も運ばれたクチ?と聞いてみた。運ばれてないし、とムキになって否定している。子供扱いしちゃったかな、可愛いとこあるのね。内心にやけてしまった。しれっと無視したけど。
二人でふと目があって、同時に吹き出してしまう。一年口を聞かなかったなんて、信じられないくらい、空白と蟠りは一瞬で溶けて消え去った。

彼がテーブルの下でこっそりと、膝をくっつけてくる。なにこの状況。バレたらまずいのに…でも、離せない。一年前は抱きしめられても何も思わなかったのに、今は膝がくっついてるだけで胸が苦しい。

お手洗いに立ったのを機に、私は彼のま隣に座るのをやめて、入り口のそばの、荷物を挟んだ反対側の隣に移動した。彼は少しむっとしたようだけど、私のいなくなった隣に腕を伸ばして、リラックスしている。さっきまで、そこにいたのに…肩を抱かれているところを想像して、頬が熱くなるのが分かった。思わず彼をちらちらと盗み見てしまう。なんなのそれは?合コン用のお持ち帰りテクですか?癪に触るけど、お前は俺の女だろと言わんばかりの彼の態度に、ドキドキが止まらない。独占欲と、支配欲。この段階で、露骨すぎやしない?私が警戒するとか思わないの?なんでそんなに自信満々でいられるのよ。
その時唐突にドアが開いて、店員と共に隣の部屋のカラオケの爆音が飛び込んできた。思わず小さな悲鳴を上げて怯えてしまう。大きい音は苦手だ。

ねぇ、お水とってもらっていい?私は彼に声をかけた。私その席には戻らないわよ。彼は応じたふりで、タンブラーを寄越すけれど、持ち方がおかしい。違和感を感じつつタンブラーの下を掴むと、彼は離すと見せかけた手に力を込めて、意地悪をしてくる。声でおどかすのも、忘れない。さっき、大きな音に怯えたから、さっそく取り入れたわけね。よく見てるのね。…夫は、20年一緒にいても私の好きな食べ物も知らないわ。そうね、君は全部知ってるのね、私の弱点。半年放置して、あのタイミングでメール寄越して、しょげたふりして、全部全部、君の思惑通りなんでしょう。

ねぇ。ほんとにやめて?こぼれるでしょ?
え?こぼれてもよくない?…あ、でもこのケータイ高かったんだよな
そうなんでしょ?

そっちだって、バレたら困るんでしょうが。向こう見ずにも程があるわよ。無鉄砲で、アウトローで、破滅的。しょうがないだろ、が口癖の夫とは、全然違う。私を自分の思い通り、好き勝手にしたいのね。彼なら、誰も理解してくれなかった私の隙間を把握して、全部満たしてくれるんじゃないか、そんな期待をしてしまう。こんな危ない、私の手には負えない男…でも気になって仕方ない。どこまでが演技でどこからが本心で、どこまでが小手先のモテテクなの?そんなの本人にも分からないんだろうけど、知りたくて仕方ない。彼の一番美味しいところ、心の奥底、情動に突き動かされた獣みたいな姿が見たい。
溺れるのは分かってるのに、かろうじて捕まってる木片からもう手を離してしまいたい…今の私はまともじゃない。


帰国から3年が経った。娘は12歳になった。夫とはまだ、離婚していない。別に劇的に夫婦関係が良くなったわけではない。つい先日も、お前といるのは時間と金の無駄だ、と言われた。私はしごく冷静に、そうだよね、私たち根本的に合わないもの。離婚するのがお互いのためだと思う。今までありがとう。今後どうやって離婚するか、親権はどうするか、話し合いましょう、と返した。夫は布団を引っ被ってスマホをいじりはじめる。
それはないんじゃないの?いつも人のこと幼稚園児なみだとか言ってるくせに、今日疲れてて話したくないなら、いつなら話せる?それとも、着の身着のままでてけと言ってるの?と問うが、答えはない。
夫はとうとう泣き出した。なぜ泣くの?と問うと、怖い、と答えが返ってきた。私がいないとダメなの?と言うと、泣きながら何度も頷いている。

夫と私はお互い、初めての交際相手だった。二人とも外見はまあまあよく、高学歴。でも自信がなくてコミュニケーションが苦手という、似たもの同士だった。私は夫に依存して、彼しかいないと執着の極みを尽くし、夫はその関係に甘えて一切私と人間関係を築くことを放棄した。苦手な会話や自己開示をしなくても、セックスの相手がいつも側にいるのだ。夫にとってはある程度居心地の良い関係だったのだろう。私と結婚してくれた。

娘が生まれたとき、目を背けていた現実がやってきた。育児という共通の課題に取り組み、家族にならなければならないのに、私たちには基盤になる愛情や信頼関係がなかった。娘の1歳の誕生日、パーティの準備を一切手伝わず、ずっとサッカー中継をみ続け、準備ができてもテレビから目を離さずそのまま食卓に来て、乾杯もおめでとうも何も言わずに食べようとした夫にキレて、じゃがいもを投げつけた。夫は逆ギレして出て行った。駐在時代を経て、帰国後も私たちは一切会話がなかった。話をしたいと言うと、激怒された。俺は会話が苦手なんだ、なぜ俺に苦手なことを要求するんだ。娘が旅行や、海の話をしても激怒された。俺が海が嫌いなのを知ってるのに、娘が海の話をするのを止めないなんて、お前はおかしい。もう収入が下がって旅行に行けないのに、旅行の話をするなんて、お前は俺をバカにしてる。

お前を愛してないし、お前からの愛情も必要ない。

それが20年一緒にいて、夫から言われたことだった。別の日、また喧嘩になって、深夜に車で家出をしたけれど、2時間経っても夫からは電話はおろかLINEの一通も来なかった。深夜1時に帰宅すると、夫は普通にベッドで寝ていた。

今年の初め、私はふと仲良くなった、若い男の子とデートのようなものをした。友達だからいいんだと自分に言い聞かせて出かけたけど、彼が手を出してきた時、私は彼を冗談めかして睨んだだけで、クスクス笑いながらあっさり受け入れた。彼は背が高くて王子様みたいで、夫が絶対してくれなかったことをいろいろしてくれた。子猫みたいとか言われて、映画みたいなロケーションで恋人同士みたいに見つめあって、スリリングな会話を楽しみ、抱きしめられて俺に甘えていいよ、と囁かれて…。でも、全部フェイクだった。要するにお金が欲しかったみたいだ、自分の趣味に使うお金。あとから調べたのだが、ママ活と名称まであるらしい。世の中なかなか狂っている。

寝てもいないのにお金をせびられて、私はフワフワ浮ついた気分だった背骨に氷を流し込まれた気分だった。そんなに、脅迫されるほど悪いことをしてたのか。その瞬間まで全く悪いと思ってなかった…だって、夫をこれっぽっちも愛してなかったのだから。彼は結婚願望がない、彼女はいないと言ってたから、寂しい人妻と暇つぶしに遊ぶのは需要と供給が合致してるでしょうと、軽く考えていた。遊ばれてるなら、遊ばれてやればいいやと、投げやりな気持ちもあった。
人妻と承知で手を出してくるんだから、当然秘密は守ってくれるんだろう、そんな憶測もあっさり裏切られた。旦那さんに言うよ?と、ニヤニヤ笑いながら脅し文句を言う彼に、いいよ言っても、こんなの、まだ遊びの範疇でしょ?と啖呵を切って帰ってきた。ほんとに、私は可愛くない。あとから、君のやったことは恐喝未遂罪って刑法に定められた立派な犯罪だからねって送ってやろうかと思ったが、あまりに可愛くないのでやめといた。共通の知り合いもいっぱいいるのに、住所だって辿れるのに、これからもあちこちで会わないといけないのに…何を考えてるんだろう。

彼は彼なりに、外見でしか判断してもらえないことに傷ついてたのかもしれない。女なんて、ちょっと言い寄れば俺のことなんて何も知らないくせに簡単に手に入る、きっとそんな人生だったんだろう。簡単に呼び出せて、手を出しても怒らない人妻なんて、私もまた彼にとって最低の女のうちの一人だったに違いない。でも私は、彼の生き方が好きだったのだ。私があっさり諦めたことを、彼は同じ条件なのに形にしてたから。自由で若い彼が、単純に羨ましかった。だいたい初めて話したときには暗くて、背が高すぎて顔なんてよく見えなかった。
あっさり関係が壊れて、彼が一番驚いてるのかもしれない。何も始まってない上に、もう、何もかも手遅れだけれど。

内心軽蔑されていただろうに、一瞬とはいえその気になった自分があまりに惨めで屈辱的で、泣く気にもなれなかった。まぁ、おばさんが若い子と半日いちゃつけたんだからそれでいいや、寝る前でよかった、好きになる前でよかったと割り切って、彼とのことは忘れようと努めた。でも、彼に抱きしめられたせいで女性ホルモンが分泌されて恋愛体質になってしまったみたいで、夏以降、前から付き合いのあった独身男性二人から告白されてしまった。一人はイケメン君よりさらに歳下で、13も離れている。もう懲り懲りだけど。

イケメンの力はすごい。イケメンをただ顔がいいだけと侮ってはいけない。今まで男性に好意を見せられても、素敵な人ならからかってるか社交辞令、素敵でない人ならこの程度の男に釣り合うと思われてると、まったく心を開けなかったのだけれど、あの自信満々のイケメン君が、外でイチャつける程度には私をいいと思ってくれたんだというのは、根本的な意識の変革をもたらしてくれた。モテない女の体質改善に、イケメンのハグ。こっちの事情なんて一切お構いなしで、リスクを考慮せず手を出す彼は、慈善事業をやってるのだろうかという気すらしてきた。やっぱりお金を払うべきだろうか。

夫に対しても、お金をせびらず、逆に生活をさせてくれてるというだけで感謝の気持ちが溢れてきた。相変わらず会話はないけれど、夫が号泣した夜から、少しお互いを隔てる壁が壊れてきたような気もする。そんなわけで、今は恋人募集中、夫は恋人候補の一人、と思って生活している。
愛情とは、求めるものではない…大人の女になろうとする過程で、ようやくその言葉の意味が分かった気がする。











やっぱり心が死んだままである。

 

でももういいのだ、夫に執着するのはやめた。

開き直ってしまった。必要最低限のことだけ話して、笑顔も見せないし

触られたら迷惑そうに振り払っている。

いつでも離婚できるよう家は買いたくない、

お前の子供はもう生みたくない、とまで言ってしまった。

 

そうすると夫は休日に家事をしてくれたり

娘と遊びに行ってくれたりするようになった。

私も少し落ち着いて、夫に向き合えるようになった。

 

昨日、web記事で男性の女性に対する5つの距離感、というのを読んだ。

曰く

1、生理的に無理

2、好かれたいが肉体関係はいらない

3、肉体関係はほしいがステディな関係にはなりたくない

4、ステディな関係になりたいが、結婚したくない

5、結婚したいくらい好き

男性にとって女性は必ずこのレンジのいずこかに当てはまり、

女性は相手にとって自分がどのレンジにいるか見極めるのが重要なのだそうだ。

レンジを超えて近づこうとすると男性は逃げていく、と。

相手の望む距離から一歩下がり、男性に追わせるのが

関係をよくする秘訣なのだそうだ。

 

今まで私はしょっちゅう言葉で好きと言ってきたし、

スキンシップだってセックスだって好きだった。

でも毎度毎度夫に抱きつくたび、暑い、重い、

髪が当たってかゆい、恥ずかしい、と拒否されてきた。

結婚は男性が好きになってするほうがうまくいく、というのは

どうやら真実らしい。

私は夫の5レンジにいたのだけれど、だからこそ4レンジまで下がるべきだったのだ。

お前との婚姻関係はいつだって解消できるんだ、という距離感まで

私が下がった結果、私たちの関係は今すこぶる良好だ。


しかし面白いものだ。
こんな数直線みたいな物の上に立たされていたとは。