マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」@シアターオーブ | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

原作 ウィリアム・シェイクスピア

音楽 セルゲイ・プロコフィエフ

演出/振付 マシュー・ボーン

パリス・フィッツパトリック/モニーク・ジョナス/アダム・ガルブレイス

 

 2020年にシネマ上映で観た時その翻案の斬新さに驚き、ぜひ生で観たい!と思ったんですよね。なので来日公演が発表になって以来ずっと楽しみにしていました。意外だったのは、いざ生舞台を観てみると感動は最初に観た時ほどではなかったこと。何故?🤔 原作の登場人物やシチュエーションやプロットをモチーフにして、新たな物語として構築した作品なので、一応あらすじを書きます。

 

 ネタバレあらすじ→社会の一般的価値観に適合しない若者を収容する矯正施設。そこに収容されているジュリエット看守ティボルトに執拗にレイプされている。他の若者たちはそれを止めることができず、ジュリエットは精神的に傷ついているが黙して耐え、皆の前では気丈に振る舞っている。マキューシオバルサザーは男性同士で愛し合っている。新たに入所してきたロミオはジュリエットと恋に落ちる。仲間たちは2人を祝福し、遊びで結婚式を挙げて祝っているところに、酒瓶を手にティボルトが現れる。酔った勢いでジュリエットに愛を乞うところを若者たちに笑われたティボルトは取り乱し、嫌悪しているゲイカップルの1人マキューシオを怒りに任せて撃ち殺す。若者たちは騒然となり、ロミオとジュリエットが中心になってティボルトを絞殺。ロミオは自分1人の犯行だったことにし、隔離される。ジュリエットはロミオがいる部屋をこっそり訪れるが、そこにティボルトの亡霊が現れる。レイプのトラウマが蘇ったジュリエットは錯乱。(亡霊が見えてない)ロミオが制止するのも聞かず、ティボルトを短剣で刺すが、刺されたのはロミオだった😭 我に返り絶望したジュリエットはロミオの亡骸に寄り添い、短剣で自死する。終わり。

 

 ジュリエットがロミオの後を追って死ぬラストは原作通りだけど、マキューシオ、ティボルト、ロミオの死の形はボーンのオリジナル。特に、ジュリエットがティボルトの死に加担することや、彼女がロミオを(ティボルトと見間違って)刺し殺すというのは、かなりショッキングな展開です。

 自由を奪われ抑圧された若者たちと、彼らを管理・支配する大人たちの対立、という物語構造は現代性がありとても面白い。ただ、後半からその社会的対立という焦点がぼやけるように感じたりも……。悲劇の原因は、基本的構造である「抑圧される者と支配する者」という社会的対立ではなく、ティボルト個人の気質およびジュリエットの心理面の問題になっている印象を受けたんですよね。

 でもまあ、ティボルトは「抑圧者」の象徴であり、若者たちが彼を殺すことは圧政に対する反逆の証であること、ジュリエットがロミオを刺殺する原因となったのは彼女がティボルトの亡霊に錯乱したからで、ティボルトという「権力」がジュリエットに対して行った性暴力のせいで彼女の精神が壊れる寸前にあったことを思えば、やはり個人の問題以上に社会的問題による悲劇として捉えればいいのかな🙄

 その、支配側の代表であるティボルトには暗い過去がありトラウマを抱えているという設定らしいです。時々PTSDに襲われて苦悩したり、酔った勢いでジュリエットに愛を乞うという弱い部分を見せたりするけど、彼のそういう心理は十分には語られていなくて😔(ソロのダンスシーンがあればよかったかも)、そこはちょっと残念です。

 

 ジュリエットはハラスメントに負けない強い女性として描かれていて、踊ったモニーク・ジョナスはそのイメージにぴったり。いつも気を張っている人にありがちな、何かあったとき(ここではティボルト殺害で)精神がポキッとなって心を乱すのも納得できる造形だった。一方、ロミオとのデュエットでは情熱的ではあるけど柔らかさも見え、人を愛することで変わっていく姿もしっかり感じ取れました。

 ロミオはシネマ上映のときと同じパリス・フィッツパトリックで、あのヒョロッとした身体のせいもあり、繊細でナイーヴ、内向的な青年そのものです。入所した日に施設の衣装に着替えるため裸にされ怯える姿は雨に濡れた野良子犬のようだった。その彼がジュリエットに惹かれ愛を知ることで、覆っていた殻を脱ぎ捨て自信を身につけて成長していくところがよかったな。ジュリエットをリフトするところでは力強さが見えました。

 2人は互いの中に自分に無いものを見つけて惹かれ合う。「片割れ」を見つけて一つになろうとするかのようなとても自然な流れを見せます。だから死ぬ時も一緒、1人残されて生きるなど考えられない。そんな2人のPDDは時に甘く時に情熱的。バルコニーシーンは2階の回廊とその両側の階段をうまく使ったダイナミックなダンスで素晴らしかったです🎉

 

 ダンス振付は “ボーン節” 健在という感じ。若者たちの、怒りを発散させるようなステップ、監視下で見せる機械的な、あるいは痙攣するような動き、エネルギーがぶつかり合うダンスなど、群舞やアンサンブルの踊りはパワフルだったりロマンティックだったりで、とても生き生きとしている。終盤での、鎮静薬を投与された彼らがジュリエットの幻想の中でゆらゆらと踊るシーンは、ダークだけど美しくもありました。マキューシオバルサザーのデュエットも光っていて、彼ら2人だけのダンスシーンをもっと見たかったかも。それにしても、ボーンの作品ってダンス作品というよりミュージカル味が濃く、時々無言劇ふうにもなりますよね。そのあたりは好みが分かれるかもねー。私は好きですが。

 

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