四月大歌舞伎「於染久松色読販」@歌舞伎座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

玉三郎/仁左衛門/錦之助/彦三郎/橘太郎/中村福之助/松三/千次郎

 

 ここんとこ毎年4月の歌舞伎座は仁左玉祭りで(以前は6月だったよね)春にふさわしくて大変よろしいです😊 昨年10月御園座「錦秋特別公演」で、お二人の「神田祭」を、心の中でキャーキャー言いながら観まして、観終わった直後に、ああまた観たい!すぐ観たい!と念じるような気持ちになったのですが、その半年後にこうして歌舞伎座でそれが実現するとは~😭 あのときは最初の演目が「東海道四谷怪談」でしたが、今回は同じ南北作品でも軽めのこちらにしたのは、お二人の体力的なことを配慮したのでしょうか。

 

 この「於染久松色読販」は通しだと、油屋(質屋)の娘お染と丁稚久松との悲恋劇に、お家騒動(盗まれた名刀が油屋に質入され、責任とって家老のお家は断絶……その汚名を晴らすために……)を絡ませた、南北らしい構成のお話なんですよね。通称「お染の七役」と言われるように、1人の役者さんが、お染、久松、芸者小糸、奥女中竹川、お染母貞昌、お光、土手のお六、を早変わりで演じるところが見どころのひとつだけど、今回のように、お六と喜兵衛夫婦のゆすり部分(柳島妙見~小梅莨屋~瓦町油屋という3つの場)を抜き出した見取り上演も多いよね。主筋とは絡まないぶん、気楽に楽しめます。

 

 幕開きの「柳島妙見」は、油屋の番頭善六が質種だった名刀の折紙を盗んで悪巧みをモノローグする、それを聞いた丁稚久太が追い払われる(その後フグを食べて中毒)、折紙は野菜売り久作(橘太郎)の売り物の野菜束内に隠し、その取り合いで久作は手代久助に打たれて額に傷を負い……という展開です。通しだとここでお染の七役早変わりを見せるんだけど、それはありません。そもそも玉さま出ないし。でもそのあとの「小梅莨屋」での仁左さま「瓦町油屋」での玉さまが絶品でございました。

 

 まず「莨家」。お六(玉さま)喜兵衛(仁左さま)は、それぞれの思惑から、名刀を取り戻すための百両がどおっしても必要なんですね。そこに訪れた野菜売り久作髪結亀吉(中村福之助)の雑談から、久作が油屋の手代に殴られたことと、預かっていた早桶の中の死体(フグに当たって死んだ丁稚=実際には気を失っただけなんだけど)を結びつけ、死体をお六の弟と偽って油屋に運び、油屋をゆすって百両をせしめようと画策する

 キセルでタバコを吸いつつ、タニシの木の芽和え👍を肴にお酒を飲みかわす仁左玉ご両人、夫婦という設定が全く違和感なく自然体です。でもって、久作と亀吉の話を何気なく聞くうちに名案(=ゆすり)を思いついていく2人の演技、セリフは全く発せず、表情が少しずつ変わっていく過程がすごく良い👏 ん……? 何だって……? 待てよ、これは……? もしかしたら……、そうだ……!って感じで、最初のリラックスした表情が最後にはキッと引き締まった顔になっている。久作と亀吉の話が終わる頃には、2人からきっぱりした決意が感じられるわけですよ。

 

 そのあとの仁左さま喜兵衛がもう凄かった~🎊 死体を久作に仕立てるためその前髪を剃り落とそうと剃刀を研ぎながら悪事を算段してるときの、あのドロッとした闇の雰囲気、鋭い目つき、乱れ毛を1本取って剃刀の切れ味を試すときのゾッとさせる仕草、花道まで出て行って周りの様子をうかがうコソッとした動き。セリフは一言もないのに所作と目の動きだけでその場の空気を冷たく変える。舞台にも客席にもシ~ンとしたものすごい緊張感が生まれていました。早桶を逆さにしてその上に座り片脚を組んだ形の良さもね~😆

 

 次の「油屋」では玉さまお六のゆすりのセリフと所作、啖呵を切るところが最っ高にカッコいいんです🎉 店に入ったところでは上品にしてるけど、(自分の弟と偽っている)久作の頭を殴ったのがこの店の手代だと聞いた途端に、態度がガラリッ。お前んとこの使用人のせいで弟が死んだと言いがかりをつける。高く張ってドスを少し利かせた声になり、言葉遣いが荒っぽくなり、態度が大きくなり、アゴを上げ気味にしてキッとした顔で迫る。それがまた粋で、聞いていてスカッとするのですね。仁左さま喜兵衛を呼んで死体を店にゴロンと転がせてからは、煙草スパスパと姉御風。一緒になって凄みを利かせる仁左さまも小悪党ぶりが板についていました。ま、そのあとすぐに、本当の久作が現れ死体の久太が息を吹き返したんで、全て嘘だとバレ、2人はケロッとして帰っちゃうんだけど😅

 

 中村福之助が髪結亀吉で出ていて、玉さまの推薦なのだろうか。セリフもますます上手くなっています。彼はいま26歳。二十代の立役では(橋之助、歌之助ほか)團子、鷹之資、虎之介などがいるけど、良いお役がもっと付くといいなあ(何気に成駒屋3兄弟応援)。そして、山家屋清兵衛の錦之助が落ち着いた知性的な男を見せていてとても良かったです。野菜売り久作の橘太郎番頭善六の千次郎も達者で、お話の展開の肝がよく分かる舞台でした。

 そんなわけで、鬼門の喜兵衛と土手のお六を仁左玉で観られたのは嬉しかったけど、やはり、できれば通しで観たいなと思いました。で、最後に通しで観たのはいつ?と思って調べたら、2018年の歌舞伎座で(お六は壱太郎、喜兵衛は松緑)、そんなに昔じゃないのに、ほとんど覚えてない……🙇‍♀️

 

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