映画 Amazon Prime Video「ソルトバーン」(2023年) | 明日もシアター日和

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脚本/監督 エメラルド・フェネル

バリー・キョーガン/ジェイコブ・エロルディ/ロザムンド・パイク/リチャード E.グラント/アリソン・オリヴァー/アーチー・マデクウィ

 

 いや~、なんか凄い映画でした。数々の賞レースで、作品、監督、そして役者たちがノミネートされてる。メジャーなところではゴールデングローブ賞でバリー・キョーガン、ロザムンド・パイクが、BAFTAではイギリス作品賞、バリー・キョーガン、ジェイコブ・エロルディ、ロザムンド・パイクなどがノミネート。ところがアカデミー賞では完全に無視。保守的なアカデミーには刺激が強すぎたのかも脚本&監督のエメラルド・フェネルはマルチな才能の持ち主のようです。映画監督デビュー作はキャリー・マリガン主演の「プロミシング・ヤング・ウーマン」で、アカデミー賞脚本賞とってる。

 

 ネタバレあらすじ(長い🙇‍♀️)→2006年イギリス。オックスフォード大学に入学したオリヴァー(バリー・キョーガン)は上流階級の息子フェリックス(ジェイコブ・エロルディ)と思いがけず親しくなる。オリヴァーは、自分は労働者階級出身の奨学金生で両親は薬物依存症であり、その父が最近亡くなったことを話す。フェリックスはそんな彼に同情と興味を示し、夏休みにオリヴァーを自宅である豪奢な屋敷ソルトバーンに招く。そこにはフェリックスの父ジェームズ卿(リチャード E.グラント)母エルスペス(ロザムンド・パイク)姉ヴェネシア、フェリックスの従兄弟ファーリーがいる。オリヴァーは彼らと打ち解けていき、特にフェリックスへの執着心を募らせる。

 オリヴァーの誕生日パーティーが計画され、フェリックスは偶然知ったオリヴァーの実家を2人で尋ねるというサプライズを決行。そこで、オリヴァーの家庭は品の良い中流階級で両親は優しく、父親は死んでいないし薬物依存でもないことが分かる。フェリックスはオリヴァーへの不信感と嫌悪を抱き、ここから出ていけと告げる。翌日フェリックスの遺体が薬物中毒死状態で発見される。彼に薬物を与えたのはファーリーだとオリヴァーが仄めかしたことでファーリーは一族から追放される。さらに、オリヴァーを怪しみ非難したヴェネシアの遺体が自殺状態で発見される。

 それから6年後、ジェイムズ卿が死去。オリヴァーとエルスペスは偶然に再会し、エルスペスはオリヴァーをソルトバーンに住まわせる。彼女は屋敷を含む全財産をオリヴァーに遺贈する契約書を書き、やがて末期の病に倒れる。昏睡状態の彼女にオリヴァーは自分がしてきたことを告白し、彼女の生命維持装置を外して殺害。全てを手に入れた彼は裸で屋敷の中を踊り回る終わり。

 

 最初にフェリックスに近づいたのも、終盤でエルスペスと再会したのも、すべてオリヴァー自身が偶然を装って仕組んだこと。フェリックスに薬物を混ぜたお酒を飲ませて殺し、ファーリーに罪を着せて一族から追い出し、ヴェネシアを自殺に見せかけて殺したのもオリヴァーがしたことです🥶 でも、ソルトバーンに招かれたことや、ジェイムズ卿やエルスペスの病は計画したものではない。オリヴァーは偶然の出来事をチャンスにして、自分の望むものに徐々に近づき手にしていった感じです。なぜ?

 

 オックスフォードで初めてフェリックスを見た瞬間に一目惚れしたのね、きっと💓 裕福な中流階級出身で成績も優秀なオリヴァー。その自分に無いもの=長身で美貌というキラキラの容姿、気さくで優しく時々ハメを外す愛嬌、いつも男女の友達に囲まれている粋な性格、上流階級特有の罪のない上品さ、それらを持っているフェリックスへの愛憎入り混じった切ない感情、彼のそばにいたい、彼を独占したい、なんなら彼に同化したい、彼の一部になりたいという異常な欲……かな。

 最初はフェリックスに対するそういう願望だけだったのに、ソルトバーンを訪れて彼ら一族を知り、ぬるい世界に甘えて生きている上流階級種族に対して嫉妬と羨望と憎悪がつのり、征服し捕食してやろうという欲が沸いたのか? 確かに彼は、上流階級特有の秩序を内側から崩壊させていくのです。

 

 フェリクスの同情心をくすぐるため貧しくすさんだ家庭の出だと嘘をついたのがバレて、フェリックスに愛想尽かしをされた時オリヴァーは彼に「捨てないで。欲しいものは全部あげただろう……僕が君をどれだけ好きかわかって欲しい……」と懇願します。フェリックスは「医者に見てもらったほうがいい……君はおぞましい」と突き放す。フェリックスがそう言うの当然だし、一方、彼に捨てられるくらいなら殺して自分だけのものにしようと思うの、あのオリヴァーならね……と納得してしまいました😓

 

 バリー・キョーガンのサイコパス演技がとにかくすごい。決して美しいとは言えない彼が、年齢に関係なく男も女も、性的にあるいは精神的に虜にしていく。不思議な、いや不気味なオーラを放っていました。湖の底を思わせる沈んだブルーの瞳、感情を読み取れない表情、それらが強烈なインパクトを放つ俳優さんです。そんなバリー・キョーガン、いやオリヴァーに惚れ込まれたフィリックス役のジェイコブ・エロルディが、いかにも上流階級のボンボンって風の甘々の美青年。特権階級ならではの自信に満ち、ちょっと傲慢な感じも見せる、まさに適役でした。ソルトバーンのロケ地になったドレイトン・ハウスに観光客が押し寄せていて(一般公開はしていないため)実際の持ち主が困惑しているとか。

 

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