三月大歌舞伎 菅原伝授手習鑑「寺子屋」@歌舞伎座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

菊之助/愛之助/新悟/梅枝/東蔵/鷹之資/橘太郎/萬太郎

 

 配役が発表された時はびっくりで、菊之助=松王丸、愛之助=源蔵というのは、ニンが逆じゃないの?🙄と思いました。愛之助の源蔵は2度目だそうで、前回(2018年)は南座なので、東京では初源蔵。ちなみに松王丸は2005年に演っていて、それは大阪松竹座なので、意外にも東京では「寺子屋」にご縁がなかったんですね。そして菊之助の松王丸は初役。まー、兼ねる役者としてはこれも演らなくてはならない大役なのでしょうか。菊五郎さんは千代や戸浪はもちろん勤められてるけど「寺子屋」松王丸は演じてないそうです。

 

 とにかくね、愛之助の源蔵がとても良かったんです🎊 セリフ回しに調子があって声も太く低く、ちょっと重い感じはしたけど、聴かせる見せる源蔵でした。花道を思案しながら暗い面持ちで歩いてくるところから源蔵でした。寺子のうちの誰かを身代わりにしなければならない…という苦渋の、しかしキッパリとした覚悟、小太郎(丑之助)を見た時の驚き、「身代わりにできる子が見つかった」という喜び、その後に襲う辛さ、それらが、妻戸浪(新悟)との会話や表情からストレートに伝わってくる。

 松王丸との対峙も堂々としていて立派。首実検を見守るときの、腰を浮かしてキッと見つめる殺気立った眼差しが、その場の緊張感を煽ります。松王丸の「……相違ない」の言葉で大袈裟すぎずに力を抜き、安堵で一瞬目を閉じるところに心の内が垣間見えた。その後に現れた千代(梅枝)の「小太郎はお役に立ちましたか(←大意です)」というセリフに愛之助源蔵はハッと声を出しました。「え?まさか……」という驚きと動揺で思わず声が出たという感じが良かったな。この辺りになると、最初に思った、源蔵にしては重い……みたいなものが気にならなくなっていた。そして、やはり愛之助の松王丸を見たいなどと思ってしまう、そういう貫禄が感じられました。

 

 菊之助の松王丸、声を低く太くそして少しガラガラ風にして、もともと丁寧なセリフ回しに定評あるゆえ、松王丸として聴かせていた。でもやはり、敵役らしい大きさ重さ骨太さはなく、菊之助の端正な雰囲気が前面に。お芝居の方も全体的にサラサラした感じで、(良い意味での)大袈裟な演技はしてなかったな。例えばカゴから降りて玄蕃との会話での咳き込みは激しくも長くもなく、むしろ弱め。え、それで終わり?と思ったくらい。

 首実験が終わり再び現れてから源蔵夫婦や千代とのやり取りでは菊之助の持ち味である柔らかさや優しがが溢れ、しっとりとした舞台になっていました。千代に「泣くな」と諭す声が優しくて妻への思いやりを感じる😢 「桜丸が不憫でござりまする」のところでも大泣きはしないけど、却って切なさが感じられた。ところでここは「小太郎」を「桜丸」に置き換えて息子の死を悲しむのではなく、本当に弟の桜丸の不憫を嘆いているわけですが、今回、小太郎は丑之助なので、実際の父子で演ってるんですよね。演じている際に現実と重ねてしまわないのかな?と思ってしまった。総じて菊之助の松王丸は、子想いの父、兄弟思いの長男、忠義心と私人との間で揺れる1人の男に見えました。

 

 千代の梅枝戸浪の新悟が、愛之助や菊之助と並んで全く対等、引けを取らない演技でした。まあ、梅枝が良いのは想定内です(褒めてます👏)。我が子を思い、堪えきれずに泣くところが切なく胸に沁みました。そして新悟がすっかり落ち着いていて、しっとりとした感じが出ていて良い。いつの間にかこういう世話女房役がぴったりはまるようになっていて素晴らしい~。愛之助とちゃんと釣り合いの取れた夫婦に見えましたよ。

 萬太郎の玄蕃は頑張っているのは分かるけどサスガに無理、ニンじゃなさすぎる😔 萬太郎は時々こういう赤っ面の憎まれ役をやるけど、資質としては真逆の感じなので、なんか気の毒です。涎くりの鷹之資はとても達者でした。

 

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