ロンドン観劇遠征② 英国ロイヤルバレエ「マノン」ローレン&マシュー@ロイヤルオペラハウス | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

ローレン・カスバートソン/マシュー・ボール/平野亮一/イツァール・メンディザバル/ギャリー・エイヴィス/トマス・ホワイトヘッド

 

 

 

 引き続き、ロンドンで観た2回目「マノン」の感想です。出産・育児休暇を終え、お久しぶりのローレン。お嬢さまっぽい品性が持ち味だと思います。冒頭シーンではマノンの持つ蓮っ葉な雰囲気がもう少し欲しかったけど、G.M.からの高価なローブを纏ってからはいい感じのコケティッシュな雰囲気を見せ、流刑地での心身ボロボロになった姿は無力で儚げで消え入りそうで哀れを誘いました😢

 出会いの場では、世間知らずの令嬢(実際には貧しい出自の少女なんだけど)が初々しい若者と出会い甘い恋を予感したような、何か純な花の開花を感じさせる表情だった。寝室では疑うことを知らない爽やかな笑顔が印象的で、恋に恋している風でもある。そのあとG.M.の情婦になる決心をするときは、デ・グリューと過ごしたベッドのシーツをそっと触って2人の思い出を噛み締め未練を残しつつも(あっさり💦)別れを告げているようだったな。2幕では華やかさを纏って眩しく輝いて見えたけど、何となく心ここに在らずといった目をしていたような。G.M.に囲われていることにも、デ・グリューと質素な生活を続けることにも馴染めない、自分の居場所を見つけられていないような、漠然とした不安……? そして、沼地での弱々しさといったらなかったです。何度も崩れ落ちながらかろうじて生きているような、デ・グリューの支えでのみ立っているような、まさに命、魂が風前で揺れているようだった。

 

 マシューはやはりあの目ですよねー✨ 翳りというか憂いというか、少し陰(イン)のニュアンスを湛える眼差しが印象的で、そのため彼のデ・グリューは最初から悲劇性を感じさせる。マノンを見初め惹かれて恋心を訴えながらも、笑顔からフッと真顔に戻ったとき「この胸の感覚は何だろう、なぜ目を逸らすことができないんだろう」って自問しているようでもある。もちろん寝室のPDDではその迷いみたいなのは無くなっていて、幸福の絶頂に浮き足立ち、それを謳歌しているマシューでした。しかし再び、娼家でのマシューデ・グリューは憂鬱の極み。そこにいる自分が場違いな存在であるかのような居心地の悪さを見せ、マノンをチラ見しながら苦痛で顔を歪め、ソロはマノンを失いたくない悲壮感に溢れていた。最後は、動かなくなったマノンを胸に抱いたまま泣くことも忘れたように呆然と空(クウ)を見つめていました。あの目、空洞だったよ😭😭😭

 

 ローレンのダンスはソフトでしなやか、マシューの動きはなめらかで軸が安定していて回転系が綺麗。PDDになるとその2人に勢いが出て、脚を強調したローレンのポーズや、リフトした時のマシュー自身の形が美しく、2人の心情も素直に伝わってきます。特に沼地のPDDでは、細っこい身体のローレンマノンはいまにも空に消えていきそうであり、その彼女を何とか地上(この世)に引き留めようとするマシューデ・グリューの苦痛感が痛々しく、2人の生と死が絡まり葛藤する絵図でした

 

 

 さて、10日ほどの間に英国ロイヤルとパリオペラ座の「マノン」を2組ずつ観ましたが、それぞれバレエ団の個性やダンサー独自のキャラ解釈があり、どれも素晴らしく良かったです。細かい部分での色々な違いは興味深く、以前にデボラ・マクミランさんが「マクミランの作品は全ての振付に意味があるので振付を変えて踊ってはいけない。でもそれ以外の部分はダンサー自身の解釈で自由に表現していいんです」(←大意)と仰っていましたが、そこにバレエ団やダンサーの個性が出ますね。

 

 今回のパリオペ公演、私が観た2回ともレスコー役のダンサーの演技と踊りが物足りなかったんだけど、一方、英国ロイヤルでは2回ともレスコーが平野さんで、それがものすごく良かったです。デ・グリュー役のボッレさまやマシューと身長が同じくらいなのがまず見栄え良く、ダンスの大きさが際立ってくる。1・2幕でマノンやデ・グリューだけでなくべガーたちやG.M.や男性客たちを操り動かしていくところも明確な演技で、その場を仕切ってるのがはっきり分かる存在感。ワルっぽさとアクの強さプンプンで、酔っ払ってのソロや愛人(イツァール・メンディザバル)とのデュエットは、本当にヨレヨレに酔っているんだけど軸足体幹しっかりしてるので崩れる姿すら綺麗だった。

 極め付けは射殺されるシーンで、ここではG.M.は2発撃つ。1発目を胸に受けた平野さんは、天を仰ぐように身体をのけぞらせて口から血をプシューッと宙に吐き出し、悶えているところにトドメの2発目を受けてドバッとまた口から血の塊を吐いて倒れる、それはそれはドラマティックで壮絶な最期でした😱 パリオペでは、撃たれたレスコーが腹部を抑えて前屈みになりそのまま倒れるので、仕組んでおいた血糊袋?を破って衣装を赤く染めるところが上手く見せられてなかったな。バレエでのこういうリアルな描写は観る人の好みもあるでしょうが、強烈な印象を残した平野レスコーでした👏

 

 群衆や娼家に集まる男女たちの小芝居は英国ロイヤルの方が細かくて、醜悪な部分までリアルに見せる。例えば、看守の部屋にマノンを連れてきた兵士2人が帰るときチラッと互いに顔を見合わせていた。「あの看守、これからお楽しみだぜ😏」と目配せしているような野卑な小芝居で、でもパリオペはそこまでせず2人とも前を向いたまま捌けていく。娼家の男客たちのメイクは、英国ロイヤルは顔の白塗りが濃く頬紅も赤く目立たせてケバケバしさを増長、パリオペはもう少し上品でしたね(むしろ美しくすらあった)。パリオペのG.M.は若く、放蕩を尽くす貴族のボンボンが金にものを言わせて遊んでいるという感じ。英国ロイヤルは年配男性が演じるためイヤラシさやセクハラ度が高く、マノンが受ける生々しい痛みを感じました。総じて英国ロイヤルは演劇的テイストが濃くて原作のもつ陰影や猥雑感があり、パリオペはそこに薄衣を纏わせてエレガンスな色合いを出しているといった感じ。もちろん、どちらも好きですよ!

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ バレエへ
にほんブログ村

バレエランキング
バレエランキング

明日もシアター日和 - にほんブログ村