SPAC「人形の家」@静岡芸術劇場 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ヘンリック・イプセン

演出 宮城聰

たきいみき/bable/葉山陽代/加藤幸夫/武石守正/森山冬子

 

 SPAC(Shizuoka Performing Arts Center)は独自の劇場や稽古場を拠点に、専属の俳優&スタッフ(劇団SPAC)による上演活動や、国内外のアーティスト&劇団の招聘などを行っている公立の文化事業集団です。今回は「人形の家」を観てきました。1879年初演のイプセンのこの戯曲を、昭和10年(1935年)の日本に舞台を置き換えたということで、どんなふうに仕立てたのか楽しみだったけど、残念ながら期待外れでした😔

 

 ザッとあらすじ→ノーラは夫トルヴァルと子どもたちと共に幸せな家庭生活を送っていたが、かつて夫の命を助けるために、亡き父のサインを偽造して借金をしたことが露見する。夫のためにした行為だし夫は自分を守ってくれるとノーラは思ったが、妻の「借金」「公文書偽造」によって自分の地位が危ないと怯えた夫は保身に走りノーラを糾弾する。自分は夫にとって都合の良い所有物(=人形)でしかなかったと気づいたノーラは、一人の人間として生きようと決意し家を出る。終わり。

 

 舞台を日本の昭和10年にする意味や効果がまったく分からなかったです😑 演出家によると「本作で扱われている家庭はいわゆる核家族で、日本で核家族が映画などで見られるようになるのは昭和10年頃と思われるので、舞台をそこに置き換えた」と。でも、それに準じた翻案では全くなく、ノーラが和服を着ていることと通貨が当時の日本円であることを除けば、ほぼ原作どおりで、実にオーソドックスな舞台でした。

 ノーラは家父長的な社会に従属する妻であることを止め、人間として自立する道を選ぶ……このようなことは日本でも考えられ得ることを伝えたいとしても、だからといってわざわざ昭和を舞台にする必要はないと思う。その当時の日本社会における「家庭」「家族」「いえ」が抱えた問題も一緒に炙り出すとかしないと、置き換える意味はないのでは? あるいはノーラの造形を思いっ切り変えるとか、いっそのこと、2023年現代の日本に設定した方がまだ面白かったのではないでしょうか。家庭や家族が夫/男に支配されているという意識や価値観は今の日本にもまだ深い根を張って繁茂しているしね。

 

 演出で特徴的だったのは、舞台の後方に複数のパネルが組み合わされて1枚の大きな背景パネルになっていること。各パネルには、テレビ、炊飯器、ミシン、トースター、車、掃除機、ピアノ、ミキサーなど昭和の「満ち足りた家庭を構成するモノ」が描かれている。彼らがいる居間の床にもそれと同じパネルが畳のように敷かれているらしい(私の席から床はよく見えなかったんだけど)。

 で、お話が進むにつれて、娘が床パネルを1枚ずつ取り除いていくのです。パネルの下には小さいボールが敷き詰められていて、パネルが1枚外されるとそのスペースがフリーになるから、残された床パネルに人が乗るとそこがグラグラ揺れ滑るんですよね。「幸せな家庭」の金箔が剥がされていく、家の土台が揺れ家庭が壊れていくという象徴的な演出は分かりやすかった。

 

 また、部屋を囲むように積み木のようなブロックが積まれているんだけど、それも娘が遊びながら1つ1つ奥の方に持っていき、最後は無防備な感じの部屋になります。幸福な家庭の象徴であるモノや、家を守るように囲んでいた物を取り去っていくのが子どもであるというのは、未来を担う世代はそのような因習から自らを解放してほしいということなのかな。

 舞台下手側の前方に立方体のオブジェがあってそれだけは取り去られないんだけど、最後にそれがぼんやりと白い光を放ちました。ノーラの、あるいは今もいる多くの「ノーラ」たちの、未来への道標なのかなと理解しました。

 

 演技ですが、夫トルヴァルを演じた役者さんの演技がどうしても受け入れられなかった〜💦 リアリズムから離れた大仰で技巧的な動きやセリフ回し。そこにいるのは現実に生きるトルヴァルではなく、様式化された嘘っぽい「夫」だった。ノーラ役の役者さんも「可愛い従順な妻」の演技がちょっと作りすぎだったような。

 それに対してリンデ夫人(ノーラの旧友)とクログスタ(ノーラが借金をした相手)のお2人はナチュラルな演技がとても良く👏 特に終盤の、2人が語り合うシーンはとても見応えがあり、2人の心情が胸にしみてきましたトルヴァル役の人の演技が完全に異質で浮いているのは稽古時点でも明らかなはずなのに、なぜリンデ夫人&クログスタの演技スタイルで全体を統一しなかったのだろう🙄

 

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