ハンブルク・バレエ団「ジョン・ノイマイヤーの世界」@東京文化会館 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付/演出/語り ジョン・ノイマイヤー

 

 2022/23年のシーズンを最後にハンブルク・バレエ団の芸術監督を引退することを発表したノイマイヤー。今回の来日公演は芸術監督在任50周年記念と銘打っていますが、芸術監督としてバレエ団を率いる最後の日本公演なわけですね。この「ジョン・ノイマイヤーの世界」は過去の来日公演でも観ていますが、今回はそのような事情から、とても感慨深いものがありました。が、感想は割とあっさり目です、すみません🙇‍♀️

 

 ノイマイヤーの分身はクリストファー・エヴァンスが演じ踊っていて、とてもフレッシュ且つ夢と希望に溢れる青年だった。以前に観たときのロイド・リギンズ(←たぶん)はノイマイヤーの精神/魂が抜け出たような存在だったけど、クリストファーはまさに若かりし頃のノイマイヤーという感じ。それゆえ、今回一番グッときたのは、彼とノイマイヤーが一緒に登場するときでした(たとえば「くるみ割り人形」のときとか)。2人が並んで目の前のダンスシーンを眺めるところは、過去と現在と未来の流れを感じさせ(今この時に、未来を予感するクリストファーと過去を思い起こすノイマイヤーがいる)、ここまで歩いてきたノイマイヤーの気持ちを想像してかなり感傷的な気分になってしまった😢

 

 胸躍るオープニングの「キャンディード序曲」から続く「アイ・ガット・リズム」まではショービジネスのテイストがいっぱいでアメリカ人ノイマイヤーの原点を垣間見る面白さがありました。躍る楽しさを身体から発散させ自由にステップを踏むダンサーたちに釣られて、こちらの気分もグングンと高揚していく。

 個人的には「アイ・ガット……」を踊ったイダ・プレトリウスに注目していたけど、この日は普通でした。彼女はデンマークロイヤルバレエ団時代の舞台を配信で観たときに気になっていたダンサーなんですよね(と言いながら「シルヴィア」は円加さんの回を取った😅)。

 アリーナ・コジョカルの神ダンスも堪能しました。「くるみ割り人形」では本当に12歳の少女だったし(なんて愛らしい✨)、「椿姫」では気高くも薄幸のクルチザン(幸せの絶頂にあるPDDなのに時々不幸の影に怯える表情……)。この180度異なるキャラクターの踊り分け演じ分け、素晴らしいですね。

 「クリスマス・オラトリオ」は音楽の神聖および祝祭性も手伝って深く感銘。ダンサーたちの躍る喜びをビシビシと感じ、生への活力みたいなものを浴びました。

 

 第2部は「ニジンスキー」から始まるのでいきなり重苦しい空気に包まれるんだけど、タイトルロールのアレイズ・マルティネスが純粋と破壊と強さと弱さの間を揺れ動きながらニジンスキーを渾身の演技で踊ってくれた。兄スタニスラフを踊ったルイ・ミュザンの狂気を孕んだダンスも圧倒的。抜粋シーンだけどいきなりここまで表現できるんだなあ。もう一度全幕で観たいと思いました。

 「ゴーストライト」は配信でフルヴァージョンを観たときはいまいちピンと来なかったけど今回の抜粋を観て、再見したら違う感想を抱くだろうなと思った。とても観念的だけど直接的でもある。マティアス・オベルリンダヴィッド・ロドリゲスのデュエットは配信で観たとき同様に面白かったし、シルヴィア・アッツォーニアレクサンドル・リアブコは時空から外れた次元で生きているような、(ロックダウン中に創作したということも重ねると)自由でありながら自由でない、確かなものを探し続けているような、不思議な空間を作っていた。もう2人がそこにいて動くだけで世界が創造されていく、さすがだなあと👏

 そして、待ってました!の「作品100 モーリスのために」。今回はリアブコエドウィン・レヴァツォフとのデュエット。リアブコとイヴァン・ウルヴァンのときは、2人のダンスからセクシャルな香りが感じられたけど、今回はそいうの無かった。エドウィンの身長が高いこともあり、師弟感がかなり強かったです。これは私の場合、ノイマイヤーがベジャール70歳の誕生日記念ガラのために創ったということを抜きにしては観られない。ノイマイヤーが師と仰ぎ友としても敬愛したベジャールは「この作品の中で生きている」というノイマイヤーの言葉に涙出ます😭 ダンスに同じ哲学精神を持ち、それを全く違う形で表現した2人、ここでそれを語ることはしないけど、この作品を見ながらずっとそのことを考えていました。

 

 今回の公演では菅井円加さんをフィーチャーしてくれていて、もしかしたら日本公演だから気を遣ってくれた?とも思ってしまうほどだったけど、それを置いといても、円加さん、とても良い踊りを全編通して見せてくれました。最後の「マーラー交響曲第3番」でもダンスのテクニックや存在感が光っていた。ここでダイナミックなリフトをこなすダンサーたちの踊りは華やか且つ崇高でもあり、次第に心を沸き立たせ歓喜の気持ちで満たしてくれます。

 終盤からダンサーが次々と去っていくところでジワジワと孤独感が襲ってくる。1人になったノイマイヤーは、舞台前方を横切る円加さんに向かって手を伸ばします。前回はあの女性はダンスのミューズかと思ったけど、今回は、ノイマイヤーの年齢などを思うと、ダンス界の未来に向かって歩いて行く若きダンサーというストレートな意味に取りました。そこに手は届かない…、追おうにも、もう追いきれない、という……😢 ちょっとネガティヴすぎるかな。

 そのあと再び「キャンディード序曲」でフィナーレだから、そんな寂しい気分が吹っ切れる。は~、尊い公演でした🎉 ノイマイヤーが去ったら、これはもう観られないってことなのでしょうか? 

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ バレエへ
にほんブログ村


バレエランキング

明日もシアター日和 - にほんブログ村