ナショナル・シアター・ライブ「ストレイト・ライン・クレイジー」(2022年5月) | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 デイヴィッド・ヘア

演出 ニコラス・ハイトナー

レイフ・ファインズ

 

 20世紀前半にニューヨーク州の都市インフラを創造した行政官ロバート・モーゼス。彼のキャリアのうちロングアイランド都市計画に焦点を絞り、1幕=1920年代後半(彼の権力の台頭)、2幕=1950年代半ば(彼の権力の腐食化と大衆の抗議運動)を切り取った作品です。残念ながらこの作品は not my cup of tea でした😔

 

 ネタバレあらすじ→ニューヨーク州の建設担当官モーゼス(レイフ・ファインズ)はロングアイランドを人々の憩いの地にするため、州立公園や道路や橋などの建設計画を立て、富豪たちから強引に土地を買い占めてプロジェクトを推進。しかしそれは、道路建設予定地区に住む人々(スラムの住人、ヒスパニックや有色人種など)を立ち退かせ、障害となる木を伐採し、車社会を信奉する彼ゆえ車を持たない人たちに必要な公共交通機関には興味ない=鉄道もバス道も作らないという偏った都市計画でもあった。しだいに彼の事業に批判が集まるが彼は耳を貸さず、自らが描いた都市の実現のために権力や有力者のコネを駆使して邁進。しかし1950年代になると住民たちの反対運動が活発化し、更なるインフラ改革を計画していたモーゼスは時代の流れに取り残されていく。おわり。

 

 タイトルの訳「直線狂」どおり、モーゼスが固執したのは直線道路。曲がらず迂回せず直線で街を形成していく、その線の障害になるものは排除しながらね。その執着心がすさまじい。そしてその「直線狂」という言葉はそのまま、信念を曲げず雑音に左右されず、まっすぐ前だけを見て進んでいく、彼自身の生き方も表していますね

 

 正直なところ、途中から字幕を追うのすら疲れてしまった😑 車を持てないような貧しい人は視野に入っていない、市民の考えや意見など関係ない、自分は導く者であり、誰かに従う必要はない、自分は間違えないという自信を糧に突き進む彼の生きざま、その内面に惹かれるものはなかったな。彼を客観視できず、お話を俯瞰的に捉えられなかったです。

 さらにいえば、古くは、成田空港建設時の住民排除、オリンピック施設の建設における環境破壊、今現在なら、東京で問題になっている「都市整備のための樹木大量伐採」、随所で起こっている「再開発のためと称して切り捨てられていくモノ」のことなど、身近な問題と重なり、そういうところにもモーゼスみたいな人がいるんだろうなあなどと、不快感を何度も覚えました😖(違う見方もできますが、私はそのように観たということですよ)。まぁ、伝記=事実を元にした戯曲ということで、彼の功罪や人物像についてあーだこーだ言っても始まらないので深くは追求しまい。

 

 デイヴィッド・ヘアとニコラス・ハイトナーのコンビによる作品ということで楽しみだったんだけど、脚本としてどうなのだろう。モーゼスが1人で喋っている、という印象が強かったな。他の登場人物もいるんだけど、彼らとの会話があまり成り立っていなくて、問いかけに対してモーゼスが一方的に自己主張しているだけ、まるでレイフ・ファインズの一人芝居みたいだった。会話のキャッチボールからモーゼスという人物が浮かび上がってくることがなく、それゆえとても一面的な人物造形に思えてしまいました

 

 でも、レイフ・ファインズの見事な怪演を見られたことで良しとします。それがお目当てだったわけだし~😊

 1幕から2幕へ、活力みなぎる壮年期から、30年の年月を経て初老に差し掛かった時期へ、声や話し方、姿勢、顔のちょっとした角度や手足の動きなどによって、年齢的変化をまずきちんと見せているのがすごい。特に2幕での、ややモッサリした感じの佇まいがとてもいい(彼の実年齢に近いということもあるけど)。

 レイフのモーゼスは、最初から少し変質者気味で、後半になるとしだいに狂気染みていく感じになり、最後には狂気と紙一重のところでかろうじて立っているようでしそれが彼の終焉に結びつていくのか? 彼が向き合っているのは一般市民ではなくロングアイランドの地図というキャンバス、そこに直線(道路)で「芸術作品」を描こうとしている。その地図を見るときのレイフの目の輝き!

 レイフ・ファインズは、若き頃はちょっとヌメッとした、正統派イギリス美男子だったんですよね。円熟したいま、悪人すら魅力的に見せてしまう役者になっていて、それはそれで魅力的~☺️ 今回も、骨太さと繊細さとを巧みに演じ分けながら、パワハラ全開のモーゼスになりきっていました。

 

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