新国立劇場バレエ「ジゼル」@新国立劇場オペラパレス | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付 ジャン・コラリ/ジュール・ペロー/マリウスプティパ

改訂振付 アラスター・マリオット

演出 吉田都

音楽 アドルフ・アダン

小野絢子/奥村康祐/福田圭吾/寺田亜沙子/池田理沙子/速水渉悟

 

 初日に観てきました。新演出&改訂振付による新プロダクションは、リアリズムに寄った舞台美術と、それにふさわしい演劇的表現、特に1幕は感情を表す細かなマイムからセリフが聞こえてくるようで、都さんがおっしゃる通り「イギリス・スタイルを踏襲した」「翻案するのではなく正統派としての形はキープしたまま」の新ジゼルでした。さらに小野さん奥村くんペアはダンスやマイムによる感情表現も雄弁ゆえ、すごく濃いドラマを観た気分に🎊

 

 1幕の小野さんのジゼル、人物造形は古典通りだけどアルブレヒトへの気持ちの見せ方がとても繊細かつクリアだった。ヒラリオンがそっと置いた花とは知らずに、そこから1輪抜いて花占いに使ってしまったときは、ヒラリオン気の毒😓って思ったけど、この無意識の残酷さをはらんだ無邪気さは、純粋すぎるほど疑いもなくアルブレヒトに想いを寄せる姿に繋がる。笑顔には曇りがなく、“好き”と“愛してる”の違いにまだ気づいていない感じ。そして錯乱してからはヒステリカルに狂乱するのではなく、事態が飲み込めずに何か確かなものを探すように彷徨い→しだいに心が崩れ→幻影や思い出にしがみつこうとするけど→心がどんどんバラバラに砕けていく風だった😭 楽しかった時と同じように踊ろうしても型が崩れ、目の焦点も合わず、ウィリのような動きもすでに見せていましたね。

 

 奥村くんのアルブレヒトは、ジゼルとは遊び風ではあったけどプレイボーイというほどの感じはしなかったな。ジゼルも自分と同じようにひとときを楽しく過ごしたいという思いで自分と会うのを喜んでくれているんじゃないか程度の、人の複雑な感情や心理とは無関係に生きてきた公国の王子らしい天真爛漫さがあった。でもって“好き”アピールが積極的なのに笑っちゃう😅 隙あらばジゼルにキスしようとするのは、彼にとってこの時はまだ、キスは愛ではなく好意のしるしなのかな。そしてジゼルの錯乱を見て、深く愛していたことに気づくパターン。1幕でのアルブレヒトのダンスは比較的難易度が高い感じで、奥村くんはノーブルにきっちりと見せていました。

 個人的に好きなシーンは、アルブレヒトが、バチルドが差し出した手に礼儀上キスしようとする前に一瞬ジゼルを見て少しとまどうところ、でも結局キスをする。そこまでを不安な面持ちで注視していたジゼルが、その瞬間に心が壊れるという流れです。こういうちょっとした動きに物語上の説得力が凄くあるんですよねー👏

 

 村人と狩の一行すべての登場人物が、場面に応じて会話をしているようなマイムを見せていて、個が際立って見えました。村人の女性たちの衣装は色が少しずつ違っていて、それぞれに生活があるということを感じさせる。ダンスは賑やかで楽しい。ペザントのPDDを踊ったのは池田さんと速水くん。ステップが細かくて速くて、それを正確に綺麗に踊る速水くん、バネが効いた柔らかなプリエの着地が好き。池田さんも溌剌としたダンスで、とても見応えあるPDDでした。

 

 2幕のセットは、森の中にジゼルのお墓がぽつんとあるのではなく、にわか作りのような十字架が乱立していて、そこは、正式に埋葬されなかった乙女たちが眠っている場、裏切られて死んだ乙女の霊が出てきそうな異様な空気が漂っていました。いつも、他のウィリのお墓がないの不思議……と思っていたので納得の舞台セットです。ジゼルの十字架にヒラリオンが花輪をかけるとケルト十字みたいになり、さらに異教感が増しましたねー。

 

 小野さんジゼル・ウィリは聖母のようでいて、ほんの微かだけどアルブレヒトへの愛を感じさせる人間的温かみを見せるときがあるの良かった。無表情だった目ががふっと和らぐんですよね。それは、なりたてほやほやのウィリでまだ人間の心の部分が残っているというふうにも感じられた。倒れたアルブレヒトを抱き起こした時、白い歯を少しのぞかせて安心したような笑みを浮かべた表情、美しかったな✨ ダンスには透明感と空気感があり、そこは期待通りです。奥村くんアルブレヒトは1幕とはガラリと違う佇まいで、後悔に苛まれていた。ダンスはエレガントで空中に漂うジゼルのサポートも優しい。最後の渾身のダンスでは連続アントルシャそしてプリゼへと、まさに過酷な試練ですね。

 

 寺田さんのミルタは非常にクールで怖くて女王感十分でした。ウィリたちのフォーメーションも、対角線状になって左右から交差していくなど新しいアイディアが入っていた。ミルタを囲んで円形になるとか、ミルタを軸に放射線状になるとか、ミルタを最前ではなく中央に配するというのとても象徴的で面白いです。

 ヒラリオンが下手端っこではなく中央やや高みから落ちていくのもドラマティックで衝撃度が高かった。いつも、なぜ隅っこの方でひっそり落ちるのだろう、あれはアルブレヒトもいずれそのように死を迎えるという暗示なのだからもっと目立つように見せてもいいんじゃないの?と思っていたので、これは良い演出だと思う。ウィリたちがヒラリオンを突き落とすときのシャープなマイムに強い憎しみが感じられてゾッとしました。

 

 多くの方が言及していたけれど、私も2幕のアルブレヒトの動きでちょっと???と思うところがあったんですよね。1つはジゼルの墓を訪れてマントを脱ぐとき無意識にスルリと外すのではなく、十字架の後ろ、舞台の袖近くに片づけるように投げ入れたこと。段取りめいていて不自然だった。もう1つはジゼルが彼の前にハラハラと落とした花を拾うとき、大急ぎで1本ずつかき集め茎を揃えてまとめ持ったこと。音楽に遅れないよう手早く後片付けしているみたいに見えて興醒めでした。そっと手ですくうように集めて胸に抱いてほしかったなあ。この後の回で変わったかしら? でも、良いプロダクションですごく楽しかったです!

 

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