「夜の来訪者」@俳優座劇場 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 J.B.プリーストリー

演出 西川信廣

柴田義之/古坂るみ子/尾身美詞/深堀啓太朗/脇田康弘/有賀ひろみ/瀬戸口郁

 

 イギリス人の作家プリーストリーによる1945年初演の戯曲で、原題は「An Inspector Calls」。舞台は1912年(第一次大戦前夜)のイギリス中部の工業都市だけど、今回の芝居は1940年(太平洋戦争前夜)の日本を舞台に翻案したものです。支配階級一家の欺瞞・偽善を鋭く暴くミステリータッチの作品だけど、会話の滑稽さに客席から笑いが何度も起こり、すごく楽しく観られました🎊  むか〜し「インスペクター・コールズ」のタイトルで観たことがあり、渡瀬恒彦が警部を、佐藤慶と岡田茉莉子が実業家夫妻を演じていたなあ。

 

 ネタバレ粗筋→大手工業会社の経営者である倉持家の居間。倉持その妻娘の沙千子息子の浩一郎、そして沙千子の婚約者である黒須が晩餐を終えてくつろいでいる。黒須は倉持の同業者の息子で、2人が結婚すれば業界での支配力が増大する。そこに一人の警部が来訪し、ある「女」が自殺したことを告げ、彼ら一人一人が彼女の自殺に責任があることを暴いていく。警部が帰ったあと警察や病院に問い合わせると、そのような警部も自殺者も存在しないことが分かる。自分たちは謎の男にからかわれただけだ、自分たちがが「女」にしたことは事実だがもう終わったこと、「女」はどこかで生きているだろうから気にすることはないと彼らは言い合う。しかし、彼らの本音や人間性が露わになった今、一家はギクシャクした雰囲気に。そのとき電話が鳴り「たった今、女性が自殺を図って病院に運びこまれた。いくつか質問があるので警部がお宅に向かっている」と言う。間もなく女中が一人の警部の来訪を告げる😱……終わり。

 

 彼らが犯した罪を書くと、「女」は倉持の従業員だったが、ストに参加した彼女を倉持は「アカ」と決めつけて解雇。「女」は洋装店に転職するが客の沙千子が「女」の態度を誤解してクビにするよう洋装店に強要。その後、秘密売春を行うクラブにいた「女」を黒須が見初め、気まぐれで付き合ったのちに捨てる。再びクラブで働く「女」を今度は浩一郎が誘い妊娠させる。「女」は慈善団体に助けを求めるが、対応した倉持の妻が嘆願を拒否する。そして女は自殺した……。ちなみに皆「女」が倉持の元従業員だとは知らずに接していました。

 強者が弱者を、富める者が貧しい者を、男が女を、搾取し、ないがしろにする。その現実を私たちに突きつけます。警部は去り際に「人間は……全体が絡み合い、助け合っている……だから、人間は他の人間全部に責任があるんです」と言い残します。その言葉を笑い飛ばす人、見えていなかった何かに気づく人……。

 

 何と言っても、警部の追求で各自の隠し事が暴かれ、罵り合ったり庇いあったりという本音ドラマが面白い😅  倉持は息子が「女」を妊娠させたことが公になったら、来年の叙勲が受けられなくなると心配しつつ、他のことはなかったことにしようとする。妻は、労働者階級の「女」を「ああいった女は……」と蔑みの言葉で吐き捨て、自分は何一つ間違ったことはしていないとキッパリ。黒須も事なかれ主義を貫き、保身の術に長けた彼らの姿は滑稽です。一方、沙千子と浩一郎は「女」の人生を狂わせた責任を感じ、リベラルな考え方に目覚めて親たちを非難する。

 特に倉持を演じた柴田義之さんが良い味でした。軍事産業を思わせる大企業の社長としての威厳と古狸っぽい胡散臭さがあり、名誉欲、権力欲にまみれ、世間体を保つのに必死。家族の言動に狼狽し、その場を丸く収めようと必死になる。そのあたふたぶりや、本音と建前の露骨な使い分けが絶妙👏  警部役の瀬戸口郁さんも得体の知れなさがプンプン。無表情に淡々と喋るときの冷徹さ、声を荒げて彼らを糾弾するときの威圧感(みんな、怖〜い先生に叱られた小学生みたいだった😆)など、巧みなセリフ術で聞かせてくれました。

 それはそうと、あの警部はなんだったのか?という謎が残りますね。個人的には、超自然的な何かかなと緩〜く思いました。真実を覆い隠すヴェールを剥ぎ取るため、人知の及ばない力が具現化されたもの、イリュージョンとしての存在……。でもそのことよりも、彼らが審判の永遠のループに陥っていくことを思わせる終わり方にゾゾッとしましたよ💦

 

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