「冬のライオン」@東京芸術劇場プレイハウス | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ジェイムス・ゴールドマン

翻訳 小田島雄志

演出 森新太郎

佐々木蔵之介/高畑淳子/加藤和樹/永島敬三/浅利陽介/水田航生/葵わかな

 

 12世紀後半のイングランド王ヘンリー2世とその家族+フランス王も加わっての、愛憎入り乱れる人間模様。むか〜し観た、ピーター・オトゥール主演の映画版や平幹二朗&麻実れいの舞台版は重厚な歴史劇という印象だったけど、森新太郎さんの手にかかると、王冠とフランスの領土と結婚相手を巡る骨肉相食む争いが、ブラックで皮肉に満ちた、恐ろしくも悲しく可笑しい家庭内不和ドラマになる。すごく見応えがありました🎊

 

 舞台は1183年、フランスのシノン城。王ヘンリー(佐々木蔵之介)はイングランドとフランスに広大な領土を持つ君主。その妻エレノア(高畑淳子)は王に反旗を翻したためイングランドに軟禁中。クリスマスを控えたこの日、王は家族会議を開くため、妻の軟禁を一時的に解きシノン城に呼び寄せる。そこに、長男リチャード(加藤和樹)次男ジェフリー(永島敬三)三男ジョン(浅利陽介)フランス王フィリップ(水田航生)、ヘンリーの愛人アレー(葵わかな)も集まってくる。

 王には決着をつけたい問題があった。後継者を誰にするか、領土アキテーヌを誰に譲渡するか、アレーをどう処遇するか……。王は末っ子ジョンを溺愛し、王妃は長男リチャードを後押しし、真ん中のジェフリーは誰からも相手にされない。フランス王は有利な相手を見定めイングランドをおとしめようと画策し、アレーは政略結婚のコマにされる……とここまで書いたけど、対立と共謀、信頼と陰謀が入り乱れ、騙し騙され二転三転。ややこしいので書きませんが、実は何も事件は起こらず、だから何も解決しないんですよ〜😅

 

 タイトルのライオンはヘンリー王のことで、「ヘンリーはライオンのようによく吠える」とフランス王が言うシーンがあった。50歳を過ぎた今も彼は活力や精神力が衰えるどころかパワーみなぎり、すべてを操り支配しようとする王者そのもの、ということかな。

 舞台転換で使われるブレヒト幕(転換のたびに舞台袖からシャーッと勢いよく引かれたり戻されたりするカーテン)に描かれているのがバイユーのタペストリーの絵柄、石造りの城内をイメージさせる冷たく硬質な無装飾の空間、そのヴィジュアルを目にした途端、気持ちは一気に中世へ飛びます。

 でも衣装は現代風で、この話が今にも通じるものであることを感じさせます。しかも人物の性格を視覚化した衣装になっているリチャードは知的なトラッドの出で立ち、ジェフリーは影の存在であること(あるいは陰謀を巡らす邪心?)を暗示する黒いスーツ、革ジャンを着たジョンは虚勢を張っているみたい。フランス王の白いスーツは、色がない=心の内を計り知れない人物を思わせます。アレーは純潔イメージのウェディングドレス風衣装。ヘンリー王は毛皮のコートで威厳を見せ、王妃は「嫉妬の色」と言われる緑のドレスをまとっていた。

 

 事件は起こらないけど物語が大きく動くときはあって、それは息子たちとフランス王が結託してヘンリー暗殺を画策するとき💥  王冠、領土、愛……ほしいものは王の手中にあるからね。結局それは未遂に終わるけど、その過程で、対峙する相手ごとに彼らの言動がコロコロ変わり、そこに支配欲や所有欲が加わるから益々腹の探り合いになり、別の相手が現れるとさらに複雑になる。だから、その言葉が真実や本心なのか、騙すための方便なのか、言われている相手も聞いている観客もわからなくなるのね。おそらく本人にも確かなことは分からず、状況によって自分の立ち位置を変えているのかも。そしてふと、みんなヘンリー王の愛を求めているんじゃないか?と思えたりします。

 

 7人の役者さんそれぞれ、キャラを自分の中に落とし込んだ的確な演技で良かったです👏  何と言ってもヘンリー王を演じた佐々木蔵之介が素晴らしい。セリフの緩急、強弱、間の取り方……言葉の操り方が巧みです。相手によってセリフ回しも態度も変わり、冗談で言っているのか大真面目なのか、腹の中が読めない。うぬぼれが強く悪賢くちょっと抜けていて愛情深く、何故かチャーミングに見えてくるんですよね。

 その彼と丁々発止のやりとりを繰り広げる王妃エレノアの高畑淳子が、蔵之介さんに負けず見事な王妃像を造形していました。策略家で行動派、王がアレーに愛情を注ぐのに嫉妬し、息子たちに父への叛逆をけしかける。もう痛快ですね😆  2人の言葉の応酬、相手への罵詈雑言が笑っちゃうほど酷いんだけど、喧嘩を楽しんでいるように思えるときもあり、酸いも甘いも嚼み分けた夫婦の味を感じました。

 

 加藤和樹リチャードは、母に愛されたばっかりに父から危険視され、愛し合っていたはずのフランス王からはつれなくされ💦  かなり屈折した心の持ち主だったかも。和樹くんの憂いある表情はそれにぴったりで、やり場のない気持ちを発散させるかのような勇猛さもあった。

 両親の視野にすら入っていない永島敬三ジェフリー😢  物事を俯瞰的に見ている冷めた目と、真ん中に立ちたい欲が見え隠れする表情、斜に構えた態度、皮肉なセリフ回しがとても良かったです。

 浅利陽介ジョンは、帝王学を身につける才覚のない惜しい三男なのに、何をやってもパパには叱られないという強み(勘違い?)から無鉄砲ぶりを発揮し、舞台狭しと飛び回る「動」の演技で、ジョンの性格を見事に表していましたね。

 フランス王の水田航生は、フランス人らしいスマートな佇まいと本心を隠すような無機質な雰囲気で、自分の得を計算しつつヘンリーの家族混乱させる、どこか得体の知れなさを上手く出していた。

 葵わかなアレーは政治の道具として扱われる弱き乙女風ではなく、誰に対しても思っていることを真っ直ぐぶつける芯の通った演技が爽快、キレのある発声がぴったりでした。

 この時代の英仏の歴史は込み入っているけど本当に面白い。良い舞台でした🎉

 

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