「男たちの中で」@座・高円寺 | 明日もシアター日和

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作 エドワード・ボンド

演出/上演台本 佐藤信

大森博史/松田慎也/真那胡敬二/服部吉次/内藤栄一/山口賢人

 

 エドワード・ボンドは現在80代後半のイギリス人で、劇作家、演出家、詩人、理論家、映像脚本家などたくさんの肩書きを持っています。戯曲に暴力的表現があったり演劇や社会について過激な発言をしたりと、割と物議を醸すタイプらしく、いわゆる反骨の士。芝居は50本くらい書いていて、本作は1987~88年の作品です。これは座・高円寺のレパートリーで、今回は2019年、2020年に続く上演。巨大軍需企業の買収と相続を巡り、6人の男たちが人生を掛けて、策を講じ、騙し、堕ちるバトル・ドラマです。

 

 あらすじ……を書こうと思ったけど、プロットがとっても込み入っているうえ、ビジネス用語や経営法律用語(←すごく苦手な世界💦)が飛び交って、まとめられない。とりあえず登場人物を。武器製造会社の社長オールドフィールドは世代交代の時期を迎えている。彼の老獪な秘書は裏切ってライバル企業と手を結ぶ。屋敷の使用人は過去に傷持つ卑屈な男。オールドフィールド社の買収を狙う大手スーパーマーケットチェーンの経営者ハモンド。別の中小企業の跡取り息子はギャンブルが高じ自社が倒産寸前で誰彼構わずすがりつく。主人公はオールドフィールドの息子レナードで、父の会社を相続する身のはずなのに、父は彼の手腕に懐疑的で取締役会に参加させるのを躊躇している。そこに目をつけたハモンドはレナードを操り、秘書を抱き込み、中小企業の跡取り息子を捨て駒にして計画を進めていく

 

 父と息子、社長と後継者、企業ファミリー内の確執とそこにつけ込む他社、飛び交うお金と契約書。信頼と欺瞞の間を行き来する駆け引きの中で、彼らの本心と本音がポロポロと露わになり、人間性は奪われ、負け犬たちは自己破綻する。

 ちょっと長いけどシリアスで骨太で重厚な舞台でした……が、正直言って、え?なんでそういうことになるの?と、展開がよくわからないところが多々あり😅  ビジネス業界の知識がほとんどないうえに、状況を語るセリフが遠回し・間接的・暗黙の了解的すぎるので、何がどうしてこうなったのか、???部分の空白を埋められない😖  それでも見応えがあったと思うのは、グイグイと進んでいく物語の力と、役者たちの手堅い演技とセリフ術のおかげですね。

 

 その代わりと言ってしまいますが、父と息子のドラマとして観ました🙇‍♀️  レナードはオールドフィールドの息子といっても、養子、それも、オールドフィールド家のドアの前に捨てられていたのを拾われたのです。それゆえ、父・息子の絆は強いとも弱いとも言えて、互いにどこか相手を信用しきれないところもある。レナードは自分を認めない父に業を煮やし(一度は殺そうとしたけど止めた)、甘い誘いに乗ってハモンドと手を組み、結局は会社がハモンドの手に渡るように契約してしまう

 乗っ取りを画策するそのハモンドは、オールドフィールド社の武器と自社の食料で、世界を支配するのが目的です。つまり、武器を売って戦いを起こし、それによって飢えた市民に食料を売り、満足した市民に再び武器を売って戦いを起こし……その連鎖。なぜなら「人は平和の時の方が不安なのだ、いつこの平和が崩れるのか心配で」だから武器を欲しがる、とハモンド。

 

 最後にレナードは首を吊って自死するんだけど、なぜ死を選んだのか分からなかったー😩(父親はその前に自然死?病死?している)。共犯者として彼らの世界にドップリと浸かり毒をあおっているレナードにとって、出口はそこしかなかったのかな。そうさせたのは彼の中に微かながら人間としての良心が残っていたからか? 彼が自分を捨てた母の痛みを思うとき、その片鱗が見えました。レナードは死ぬことで解放されるけど、生き続ける者がいる限り何も変わらない。レナードは虫の息の中でハモンドを道連れにしようと手に握っている銃で彼を狙うけど、弾は当たらず、何も成さないまま息絶えます。彼の命は、戦争で死んでいく人たちと同じように儚いもの……。

 

 芝居は、絞首刑の縄がプリントされた衣装の男たちが入り乱れ素手で殴り合うという暗示的シーンから始まりますが、実際には言葉での殴り合いによる緊張感に満ちた舞台。ボンドはイギリスでは劇詩人とも呼ばれているらしく、本作も、かなり過激なセリフがある一方、モノローグは詩のように美しく、そのへんはシェイクスピアを思わせます

 主役レナードを張った松田慎也さんは、さいたまネクスト・シアターの出身。オールドフィールドの大森博史さんとハモンドの真那胡敬二さんが出色で、特に真那胡さんの得体の知れないヌメッとした感触の存在感が不気味でした。

 

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