東京バレエ団「M」@東京文化会館 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付・演出 モーリス・ベジャール

音楽 黛敏郎

出演 池本祥真/柄本弾/宮川新大/秋元康臣/樋口祐輝/金子仁美/上野水香/沖香菜子/政本絵美/伝田陽美/南江生/ブラウリオ・アルバレス/大野麻州

 

 堪能しました〜🎊  三島由紀夫没後50周年の今年、よくぞ上演してくれたと感謝。最後は不覚にも涙が……😭  三島由紀夫の生きざまと作品が溶け合って生まれた本作、ベジャールがイメージした三島という一人の人間が蘇り、舞台上に生きていました。

 遠くから潮騒とともに、能楽の「呂の音」が聞こえてくる。ライトが照らされると波色の衣装の女性群舞が坐像のポーズで瞑想していて、やがて波の動きになります。そこに学習院初等科の制服を来た少年三島(大野麻州くん)が祖母に手を引かれて登場。こうして物語が始まります。

 少年三島はこれから自分が書くであろう様々な作品=築き上げていく自分の未来の中を旅しながら、自らの作品を紡ぐように自分の存在を確かめ、死/自決に近づいていく。ベジャールが想を得た三島作品は「仮面の告白」「禁色」「鹿鳴館」「鏡子の家」「午後の曳航」「金閣寺」「憂国」「行動学入門」「豊饒の海」で、それらの中のイメージが断片的に表現されます。ちなみに、上記の作品はすべて読んだことがあるくらいには三島ファンで〜す😊

 

 舞台には三島を体現する4人の分身が。それぞれ、「言葉」「精神」「力(肉体)」「行動」のメタファーらしい。中でも「行動/シ」は「イデオロギーと肉体のトータルな意味での行動=死」という重要なパートで、狂言回しであると同時に、少年三島の祖母や小説の中の人物にもなり、最後には少年三島を死に導く。

 そして、完全なる純粋性を備えた存在、三島が到達できない理想のシンボルとしての聖セバスチャンもキーキャラクター。聖セバスチャンは「仮面の告白」で三島が言及している、グイド・レーニによる聖画「聖セバスチャンの殉教」(1615年頃)の中の殉教者で、体に矢を射られた姿で描かれている。三島はこの絵に圧倒的な官能、美、生、デカダンスを感じたそうです(実際には、聖セバスチャンは矢に射たれて殉教したのではないんだけど💦)。

 さらに、「海上の月は母として少年三島に常に寄り添い、「は生命と再生の源=輪廻転生のシンボルとして登場します。

 

 「シ」を演じた池本さんが期待以上に良かったー👏  余計な作り込みをしていないというか、とても自然体に見える踊りと動き、情景の中に溶け込んでいてすごく綺麗。他の3人の分身は柄本さん、宮川さん、秋元さんで、鉄壁のテクニックと表現力でした。

 「海上の月」の金子さんが透明感のあるしなやかな踊りで優しさもあり、まさに母親そのもの。抽象的な役「女」を踊った水香さんは無機質な中に時々感情のようなものを見せていてよかった。水香さんと柄本さんのPDDは東バのトップとしての貫禄がありました🌟

 

 前回上演から年月が経ってベジャール垢が取れたような印象も受けたけど、それはそれで良いのかな🤔  例えば象徴的に登場する聖セバスチャン(樋口さん)は三島が絵画から感じたであろう溢れるエロティシズムは薄味、むしろ純粋無垢なイメジャリーになっていて、三島が行き着く先が違って見える気がしました。

 聖セバスチャンが踊り始めると、上から大きな円形の鏡が降りてきて、彼を映し出します。私たちが見ているのは三島の理想の美でありながら、鏡の中の彼は三島が乗り移った像のように見えたり、全てが幻であるかのような錯覚を覚えたりするのでした。

 

 終盤の自決シーンは神聖といってもいい美しさだった✨ 扇が置かれた三方の後ろに少年三島が座ると、三島が結成した「楯の会」の制服姿の群舞が登場して桜の枝を手に並び、波色の群舞も現れる。少年三島が手に取った扇を開いて顔を隠した=割腹自殺をした💥その時、上からドバッと桜吹雪。ベタな演出だけど、有無を言わせぬ様式美の極致で息を飲みました😳  その後すべての登場人物が現れ、死んだ少年三島の体から伸びた血の糸に繋がれて静かに奥に消えていくのも印象的だった。

 最後、プロローグと同じ潮騒の音と群舞による波の動き……物語は円環を結び、それは、再びの生の始まりでもあるわけです。三島は自決の美学を全うしたけど、その死を輪廻転生という形で永遠の美に転化したこと、そこにいつも母なる海があるというのがベジャールらしい

 照明が消えた後、舞台上手に残された黒板に、「シ」が一筆ずつ書いていった「死」の文字が白くぼーっと浮かび上がっていて、その残像がしばらく脳裏から消えなかった😢

 

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