映画「キング」(2019年) | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

監督 デイヴィッド・ミショッド

出演 ティモシー・シャラメ/ジョエル・エジャトン/ショーン・ハリス/ロバート・パティンソン/ベン・メンデルソン/トム・グリン=カーニー/アンドリュー・ヘイヴィル

 

 旬の俳優ティモシー・シャラメが、15世紀前半のイングランド王ヘンリー五世を演じた作品。父王ヘンリー四世の晩年から、即位後フランスに進軍し、アジンコート(フランス語読みアジャンクール)の戦いで圧勝して、フランス王の娘を娶るまでの話。

 シェイクスピア戯曲「ヘンリー四世」「ヘンリー五世」のプロットや史実をベースにしながら大胆に脚色した、新しいヘンリー五世のドラマになっていました。展開は割とゆっくりで、終始ドヨ〜ンとした音楽が流れ、ちょっとダークで重い作品だったな😓

 

 ここで描かれるヘンリー五世(以下、ヘンリー)は内省的でナイーヴ、悩みを抱え込んだメランコリックな青年でした。ほとんど笑顔を見せないのね😔  最初、線の細いティモシーがどうしてもキングに見えなかったんだけど、こういう性格付けなら彼の雰囲気にぴったりだわ。

 史実では、王位要求のためのフランス進軍に父王は慎重だったがヘンリーは積極的だったと書かれているけど、本作でのヘンリーは真逆。進軍に消極的で戦争を回避したがっている。彼は、臣下や民衆が無駄に命を失うような無意味な戦いを嫌う、平和主義者という造形です。そもそもこの映画では全体的に、戦争の虚しさを訴えるシーンがかなり頻繁に出てきて、そこは現代風な演出です。

 その意味でヘンリーは、父王とは違う生き方をしようとするんだけど、もうひとつの本作のテーマは、父と子の関係、その対照性と愛といえるかな。ヘンリーは父王が王位簒奪者であることを負い目に感じ、父王を避けて外で遊び歩き、だから関係は険悪。でも彼は心のどこかで父の愛を必要としていて、その父の代わりを、遊び仲間の騎士フォルスタッフに求めるんですよね。

 他にも、映画の序盤に登場するノーサンバランド伯父と子(ホットスパー)、終盤に登場するフランス王と王太子、家臣の父子のシーンなど、父子関係を強調するシーンが多いように感じました。

 

 で、その、ヘンリーの精神的父となる騎士フォルスタッフ(ジョエル・エジャトン)。彼はヘンリーの相談相手かつ助言者となり、ヘンリーを映し出す鏡であり、戦いの虚しさをヘンリーに説くものの、請われてヘンリーの片腕となって戦場に赴き、最後は自ら先頭に立ってフランス軍に立ち向かい、カッコよく戦死する。それこそヘンリーが父王に求めた「父親」としての理想像だったのかな😢

 

 一方、フランス王太子(ロバート・パティンソン)は、狂気じみたイヤらしさを見せる、徹底的にアブナイ男に描かれていました😂  イングランド軍が野営している森で薪を拾っていた幼いイングランド兵を残酷に殺し😱  ヘンリーとの一騎打ちではぬかるみに足を滑らせて何度もブザマに転ぶ。この映画はフランスではすっごく不評らしいけど、こりゃ納得ですね😆

 映画の山場、アジンコートの戦いシーンはかなり長く、リアルに描かれていて、ロングボウの使用や、ぬかるみでの泥まみれの戦いなども史実を取り入れていた。でもそれだけに、戦争のバカバカしさ、虚しさ、悲惨さが伝わりすぎて、そのグロテスクさにちょっと目を閉じてしまいました😖

 

 本作で最も現代版らしいと感じたのは、女性が分別あるキャラに描かれていたこと👍  ヘンリーの妹は、即位したばかりの兄に「宮廷では誰1人として真実を語らない」「正しい道を選んで」と助言する。

 政略結婚でヘンリーと結婚させられたキャサリンも聡明で思慮深く、最初に「私は服従しない、(でも)私が尊敬できる男になって(←意訳)」ときっちり意思表示をします。ヘンリーが、フランスと戦争を始めた理由を「あなたの父(フランス王)の統治は非合法だからだ」と言うと、キャサリンは「すべての君主制は非合法です。あなた(ヘンリー)も簒奪者の息子でしょ」とピシリ👏  悪事や陰謀が跋扈する王宮にあって、本当に彼のことを思って意見してくれるのは女性だけというところは、いかにも21世紀版ですね。

 

 ちなみに、戦いを好まないはずのヘンリーがフランスに攻め込む決意をしたのは、フランス王が密かに自分の暗殺を企てているという密告を聞き、ある側近に「この噂が民衆に知れたら王の権威が揺らぎ、フランスへの敵意が高まって治安が悪化する」と言われたからなんだけど、実は、それは王を焚きつけるための側近の策略だったという話になっていてビックリ😳  でもこの脚色は、ドラマとして面白かったな。

 先の助言をした妹はヘンリーの弱点を見抜いていたのね。結局、ヘンリーは側近の嘘を見抜けずに道を誤って、全く根拠のない戦いを始め、多くの兵士の命を無駄に奪ってしまった。ここにも強烈な戦争批判が伺えるのでした。

 最後、ヘンリーはその側近を怒りに任せて?殺します💥  ヘンリーは王として成長したのかな、それとも? 史実ではこの数年後にヘンリーは病死しちゃうんですよね。34歳💦

 

 

ブログランキング・にほんブログ村へ

にほんブログ村


観劇ランキング