カクシンハン 薔薇戦争「リチャード三世」@シアター風姿花伝 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

原作 ウィリアム・シェイクスピア

演出 木村龍之介

 

 「ヘンリー六世」を観た同日、引き続き「リチャード三世」まで一気見しました。

 プロローグ、背後のスクリーンに子宮内をイメージさせる映像が映り、その奥から、逆子のように脚から先に出てくるリチャード。産み落とされたリチャードが舞台前方へハイハイしている間、舞台奥で赤子を抱いた母はそのあまりの醜さに震え上がり赤子を床に落とす。リチャードは腰に付けた銃でその母を射殺。衝撃的な幕開けですー😱  呪われて生まれてきたリチャードと、「ヘンリー六世」第1部で側近たちの暖かい目に見守られて生まれたヘンリー、この強烈な対比。でも2人とも善王にはなれなかったんですよね😔

 個人的にはリチャード三世って母親に憎悪され愛されずに育った子という既成概念があり、同情や共感を覚えることも多いんだけど、今回は違ったな。生まれた瞬間に自分の母を殺したことが印象付けられたせいか、母の愛を求めているという感傷じみたものは感じなかった。劇中、母親に疎まれ毒づかれるシーンはあるけど、そのときもリチャードは無関心で冷めた風に見えました。河内リチャードは唯一自分だけを愛し、その自分の中にある何か黒い塊と葛藤し、結局、愛憎相克する中でもう1人の自分に負け、持っていた全てを手放してしまったように見えた😖

 

 リチャード即位を市民に認めさせる茶番劇シーンは圧巻でしたね。民衆の気持ちを煽り操るところには、ある種のポピュリズムに通じる怖さが潜む😨  役者たちが市民役になって客席に降り、観客を市民として駆り立てるイマーシヴっぽい演出で、通路側に座っていた私は、市民の役者さんが「リチャードが王位を承諾してくれて良かったね!」と大喜びして握手を求めてきたので、思わずその手を握ってしまった😩  いや、そうじゃないのに💦

 そのあと休憩になり、日本の国旗がスクリーンに映し出されたときは、そうだよな〜と悔しくなる。いまの私たちも、候補者の嘘を見抜けず、その謙虚な芝居に「良い人だ」と思い込み、賞賛者の巧みな言葉に洗脳され、サクラ達の拍手に流されて一票を入れてしまう。そうしてまんまと成り上がった為政者に支配されているんだと痛感しました。

 

 悪夢の中でリチャードが呪われるところは面白い演出でした。殺された人たちがパーティーでも催しているかように浮かれ騒いでいて、その中で呪いの言葉をリチャードにぶつけるのね。やがて死んでいくリチャードを予測して喜んでいるのか、俺たち死んだあとはここで楽しくやっているけどお前はここには来れないよと言っているのか、演出意図は正直言ってよく分からなかったけど😅  行われていること(呪詛)とのギャップに寒気がしました。

 最後まで忠誠だったケイツビーを誤って殺しちゃうのも、容赦ない演出だなって感じだった。あのときのリチャードの、最後の綱を断ち切ってしまったかのようなショックと絶望、空虚な顔が忘れられない。ところでその時のリチャードの「俺の右側に立つなと言っただろ……」というセリフ、テキストでは他所で言っていたのかな? 

 

 河内大和が自身とリチャードの間をシームレスに行き来しているみたいで素晴らしい。そして説得力のあるセリフ術。独白で、観客につぶやき掛けるときも、虚空に向かって吐くときも、思わずウンウンとうなずきそうになってしまいます。

 だから、夫の棺の前でその夫を殺したリチャードの求婚に受けてしまうアンや、自分の息子たちを殺したかもしれないリチャードに娘との結婚を承諾してしまう未亡人エリザベスには、まあ、そうなっちゃうよねーと納得😔  もちろんシェイクスピアの美しい詩のよう言葉の力もありますが。

 

 鈴木彰紀はヘンリー六世とはガラリと違うバッキンガム公役で、硬軟を演じ分ける多才ぶり。3人の女性の、互いに憎しみを抱きながらも背負った運命の重みを感じて共感し慰め合うシーンもよかった。エリザベスの宮本裕子は、色っぽくて気高く芯がありちょっと計算高いところも見せていて、後半の壊れそうな感じも良かった。マーガレットの真以美は眉を潰したメイクが巫女でした😑  セリフの独特のイントネーションが耳に心地よく響きます。ヨーク公爵夫人の長内映里香は老母にはやや無理があったけど、逆にその母性を感じさせないところが、リチャードのマザコン味を消すことになっていたと思います😬

 

 瀕死のリチャードは最後まで「馬をくれ……」と声にならない声を上げるんだけど、それが次第に「馬‥‥」「うま……」「ンマ、ンマ……」と、赤ちゃんが甘える声に変わっていくのね(そう聞こえた👍)。こうしてリチャードは胎児に回帰するんだけど、最後に母の暖かい身体に包まれるというより、これって、これから先もまた新しい「リチャード」が産まれてくるぞっていう暗示じゃないかと深読みしてしまいました🙀  終演後の場内に流れるトーキング・ヘッズ「サイコ・キラー」が、もう最高ぉー🎉

 

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