DVD視聴 パリ・オペラ座「ロミオとジュリエット」@パリ・オペラ座バスティーユ(1995年7月) | 明日もシアター日和

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振付 ルドルフ・ヌレエフ

マニュエル・ルグリ/モニク・ルディエール/シャルル・ジュド/リオネル・ドラノエ/ウィルフリード・ロモリ/ジョゼ・マルティネズ

 

 このあいだの「エトワール・ガラ」で、ヌレエフ版「ロミオとジュリエット」の3組によるPDD競演がとっても良かったので、久しぶりに全幕で観てみました。

 これ、何と言ってもルグリのロミオが絶品です。このときルグリ30歳くらい。テクニックの完璧さと表現の深さとが相まって、ダンサーとしていよいよ脂が乗っていく過程にあるルグリの魅力が全開しています。エレガントなんだけど勢いを感じるダンスは、純粋で真っ直ぐな青年ロミオをよく表しているし、サディスティックなまでに技巧的な振付を軽やかに踊り切るワザと安定感がある。動きはのびのびとしてキレがあり、ジャンプしたときの身体のラインの美しさに見とれます。

 対するルディエールのジュリエットも出色。ルディエール、このときなんと39歳ですよ。とってもそんなお歳には見えません。少なくともルグリと同世代に見える。初々しくて溌剌としていて、情熱のすべてをロミオに捧げ命をかけて愛に生きる少女そのままです。そして、年齢高めなのが却って、ほんの少しロミオより成熟して見える。

 でも残念ながら、ヌレエフ版は男性を見せるのがメインだから、ジュリエットのソロが少ないのね。だから、ルディエールの魅力は十分に発揮できているとは言い難い。ジュリエットの最初の登場シーンすら印象が薄くて、いつの間にか、いた。

 それでも、ロミオが町を去った後はジュリエットの独断場で、そこで見せるルディエールの、激しい悲しみの表現とか、薬を飲むときの恐怖や絶望感とか、感情のほとばしりをストレートに見せています。

 2人のパートナーシップはぴったりで、芸術的ともいえる美しいPDD。バルコニーのシーンでは、ロミオが少し遅れながら、ジュリエットと同じステップをなぞっていくところが好き。ジュリエットがほんの少しリードし、やがて2人の心が重なっていく感じです。教会での結婚式のPDDも素敵。

 

 ティボルトを踊ったジュドがすごい存在感。立ち姿が美しいし、決して大柄で威圧的というのではないんだけど、とても目立ちます。怒りや苛立ちといった感情の細かい起伏を丁寧に身体で表していて、とってもダンス表現が上手い。

 そして、マルティネズがパリス役で出演。パリスでもいいじゃん、とジュリエットに言いたくなるほど、品があって見栄えがする。仮死状態にあるジュリエットの寝室でソロをたっぷり踊ります。パリス役に見せ場を作っただけみたいなシーンで、不要といえば不要なんだけど、マルティネズのダンスは柔らかで瑞々しかった。

 

 ヌレエフの作品は、ステップが細かくて複雑で、その分、テクニックを盛り込みすぎている、言い換えれば、余分なステップが多くて表現として饒舌すぎると感じることがあります。ダンサーにとってはチャレンジングで踊り甲斐があるのかもしれないし、鑑賞者として、その部分を見るのは楽しいけど、とっても落ち着かなくて、観ていてせわしない感じがすることも。

 それと関連して、人物の感情の微妙な揺れ、高まり、不安や歓喜など、繊細な心の動きを表しきれていないと思うときもあります。PDDのような、ある情景をじっくり表現するところでは、ステップの流れに緩急がなくて最初からトーンが同じ感じなので、単調に見えることも。

 

 それ以上に、ヌレエフ版「ロミジュリ」で気になるのは、度を越した露骨な表現が多いこと。それがちょっと悪趣味に感じたりすんですよ。

 モンタギュー側の町娘たちをキャピュレット側の男たちがからかうところはとっても下品。男が腰を動かして娘たちを挑発したり、男が女の胸をモミモミしたり(そういえばロミオもロザラインの胸タッチありましたね)、乳母がマキューシオの股間を触ったり(マキューシオが乳母のベールを奪って自分の股の間でヒラヒラさせ、わざと触らせる)、なんかね、セクシャルというよりヤラシイという言葉がぴったりなんです。たまに愛嬌でやるのはアリかもしれないけど、too much。極め付けは、決闘シーンでティボルトがロミオを挑発するとき、唇キスしちゃうのよねー。

 寝室のPDDシーン前に、ベッドで呆然とするジュリエットの所に死神が現れ(ヌレエフ版では冒頭から死のイメジャリーが登場します)、ジュリエットの上に重なります。死神を登場させるのはいいとしても、ここでは甘いキスをする形の方が怪しげでロマンティックなのに、交わっちゃうって……。こういうところが、えげつない、over doなのです。

 ジュリエットのことを知らせにロミオの元に走る神父が途中で悪党たちに殺されるんだけど、その殺され方が不必要にすっごく残酷極まりなくて、見ていられない。普通にナイフでグサッで十分だと思うけど。

 一方、ジュリエットが死んだと早合点したベンヴォーリオが、追放先のロミオに伝えたところで、2人が意味なくPDDを踊っちゃうのには笑いました。そこまでさせなくても……。

 このヌレエフ版、どなたかの手でもう少しすっきりと整理して、改訂版を作ればいいのにと思ったりします。