小林紀子バレエ・シアター「アシュトン/マクミラン・プログラム」@新国立劇場 | 明日もシアター日和

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 イギリス人振付家のバレエ作品を上演してくれる小林紀子バレエ・シアターの公演は、密かに楽しみにしています。バレエ作品としての評価は別にして、めったに観られない作品に触れられるのがいいんですよね。

 

「ソリテイル」

振付 ケネス・マクミラン

音楽 マルコム・アーノルド

 

 マクミランの作品、というだけで、気持ちは前向きモード。「solitaire」は「一人で遊ぶゲーム/トランプの一人遊び」から派生して「ひとりぼっち」という意味もあるようです。

 幕が上がると、淡いピンク&モーヴ系チュチュ姿の少女が一人、寂しげな表情で座っている。ふっと立ち上がって後方のカーテンを上げると、そこにはカラフルな衣装を着た男女が。少女はその「仲間」に誘われて一緒に踊るんだけど、肝心なところでタイミングが合わなかったりして、どうしても仲間から外れちゃう。結局、その仲間たちは去っていき、一人取り残される少女。これは少女が心に描く空想の世界です(たぶん)。

 

 マクミランの全幕もの作品は、悲劇性や感情のうねりが強く表現されていて、全体に陰りがあるんだけど、本作のような小品になると、そのカラーがずいぶん薄味になります。マクミランもこういう作品で息抜きをしていたのかな。

 それでも、人間の心理の、さらにひとつ奥にあるヒダに分け入って、心の闇部分をさらけ出す非情さが感じられる。人と上手くやっていけないひとりぼっちの女の子の、心情や本音がちらちらと見え隠れします。大勢の友だちと遊びたいけど、彼らからは煙たがられるし、時に彼らは残酷だし、本当は一人の方が楽しいのかも、そんな風にも見えるのです。メランコリックで孤独な余韻が残る、少し切ないエンディング。そこがマクミランだなーと思いました。

 

 少女を踊った真野琴絵さんは小柄で可愛らしい容姿。表情が豊かで、少女の純粋な雰囲気が伝わる、丁寧な踊りです。両手の甲を頬に添えるポーズに寂寥感があり、印象的でした。ソロパートを踊る男性2人のうち、特に上月さんの踊りが綺麗。少女とPDDを踊った望月さんは安定感があり、とても端正な踊りでした。

 ユーモアを感じさせる振り付けも多く、全体的にホンワカした感じでもある。女性が男性群にリフトされていくところ、女性が男性に引っ張られるようにして床を滑るところなど、その後のマクミラン作品を彷彿とさせる振りも見られました。

 

 

「二羽の鳩」

振付 フレデリック・アシュトン

音楽 アンドレ・メサジェ

 

 少女と若者2人の愛の行方を、2羽の鳩になぞらえて描いた全2幕の作品。鳩は離れてもすぐに仲睦まじく寄り添うことから、愛と結婚のシンボルなのだとか。

 若者が好きでたまらない少女、そんな少女を友だちとしてしか見ていない若者。若者は外の世界に憧れ、たまたま出会ったジプシーの一団を追って(その中の一人の女性に魅せられて)外に飛び出します。結局、若者はジプシーたちに好きなように弄ばれ、傷心状態で帰ってきて少女に温かく迎えられる。と、まあ、可愛らしくロマンティックな物語です。

 

 少女を踊ったのは高橋怜子さん。1幕は「リーズの結婚」を思わせるコミカルなダンスが多く、純粋さや可愛らしさが、キビキビとした動きから感じられます。ジプシーの女が若者に色目を使うと、嫉妬してダンスで張り合って見せるところも、その意地っ張りぐあいが自然。2幕では、若者と離れていた分、少し大人に成長していて、流れるような振りも丁寧に、しっとりとした雰囲気を見せていました。

 若者役はゲストのエステバン・ベルランガというスペイン人ダンサー。わざわざゲストを呼ぶほどの役かなーと思ったけど、バレエ団に主役を踊れる男性ダンサーがいないってこと? 彼は、突出して素晴らしいという感じではなくて、普通によかったです。高橋さんとはまだ息が完璧に合っていなくて、手探り感あり。

 2幕後半、再開した2人が踊るPDDがすごく美しくて感動。寂しさに震えるようにうずくまる少女を、戻った若者が、謝罪の気持ちを表すように後ろからそっと包み込み、そこからゆっくりと心を開き合い、やがて大きなリフトを通して気持ちを通わせていく。振付は繊細で、複雑な足さばきもいっぱい。ときどき、腰に当てた腕を震わせる、鳩の羽ばたきのような振りをするんだけど、「白鳥の湖」の腕の動きからヒントを得たのかな。2人は鳩の化身というわけじゃないから、ちょっと違和感ありました。

 

 2幕の前半はジプシーの野営地みたいな場所で、彼らが情熱的な踊りを繰り広げます。かなりダイナミックで楽しい。でも、この2幕のストーリー展開って、どうなのかしら。ジプシーの男が自分の恋人をけしかけて若者を誘わせる理由、途中からジプシーたちが急に若者に乱暴を振るう理由、わかりませんでした。最初からローグ集団だったわけ?

 で、若者とジプジーの男が戦うところで、腹ばいになって、う、腕相撲って……。そのあと、ロープで若者を縛って翻弄し……、もう、わけわかんない。

 

 そうそう、本物の白い鳩が登場します。1幕で、外の世界を知りたい、冒険したいという若者の心情を表すかのように、窓の外を白い鳩が1羽横切ります。ジプシーたちにボコボコにされた若者は、その鳩を抱えて帰還し、椅子の背もたれの上に止まらせます。

 最後、2人が仲直りをすると、もう1羽の鳩が上手から飛んできて、残念ながら、舞台奥の床に着地。本当ならこの鳩も椅子の背もたれに止まり、2羽に寄り添って欲しかったはず。調教した鳩とはいえ、そこまで上手くはいかない。観ていてヒヤヒヤし、気が散るので、本物の動物の登場は好みません。