『チェイス〜国税査察官〜』 | Down to the river......

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「なんだぁ、この終り方は!?」

珍しく TV ドラマの話です(^^ゞ。

「あぁ~」と観ている者の気持ちが高まった瞬間——それこそ、「どうしようもなく悲しい」と感じざるを得ない瞬間——に、プッツリと画面がブラック・アウトして物語が終るのです。

ある意味僕の好きなこの終り方は(^^;、瞬時に「ロス・マクドナルド」の小説の終り方と似ている、と連想させました。

っていうか、このドラマはロス・マクドナルドの作品の焼き直しではないか?

脚本を書いた「坂元裕二」さんは、ロス・マクドナルドを強く意識してこのドラマを作ったに違いない、とすら感じてしまいましたね(^▽^;)。

勿論真偽を確認したわけでなく、個人的な思い込みにすぎませんが……(^^;。

最近のエントリー」でロス・マクドナルドを採り上げたので、このドラマに関して少し言及することにします。



$Down to the river......-チェイス~国税査察官~




NHK のドラマ『チェイス~国税査察官~』(全6回)。

「カリブの手品師」と称される天才脱税コンサルタント「村雲修次(ARATA)」と、脱税の首謀者として彼の影を追い続ける国税査察官「春馬草輔(江口洋介)」との攻防を描いたドラマです。

「社会派エンターテイメント」として、物語序盤から息もつかせぬスピーディーな展開で、視聴者を引き付けます。

が、終ってみれば、親と子の愛憎劇、家族の悲劇をテーマにした人間ドラマだったことが分かります。

一見謎解きのエンターテイメントのようでいて実は……、という構成・世界観も非常にロス・マクドナルド的であり、最終回に至ると、結局は「エディプス・コンプレックス」(マザコン)に翻弄された男の話、とも解釈することが出来ます。

実際「村雲修次」は、擬似的に「父親殺し」を実行するのですからね(^^ゞ。

ドラマ全体を観ての個人的な感想ですが、エンターテイメントとして「スピーディーな展開」を優先したために、細部(背後)の描写・説明が切り捨てられたのが、このドラマの欠点と言えるでしょう。

その部分(空白)は視聴者の想像に委ねられることになるので、人によっては全く別な感想を持つかもしれませんね。

ただ、毎回とても印象的で示唆的なセリフが散りばめられていて、それだけでもこのドラマを観る価値はあると感じていました。

このドラマのキャッチコピー、「あなたには、この世界を憎む権利がある」もそのひとつでしょう。

では次に、最終回の中で僕の心に響いたセリフをご紹介します。

ネタバレになるかもしれませんが、このドラマの本当のテーマを表していると感じさせます。


僕は絶望していないし、誰も怨んではいない。
ただ、ただ……もうひとつの人生を想像してしまうんですよ。

あっちとこっちに、どんな違いがあるんだ?

抱きしめられる子供と、腕を切り落とされた子供に、どんな違いがあるんだ?
いくら想像しても、違いが……分からないんだよっ!

だから「希望」を持ってしまう——。
あり得たかもしれない人生に……「希望」を持ってしまう。

ねっ、ねぇ、春馬さん、そう思いませんか?

ねぇ、人を狂わすのは、いつも、そういう「希望」なんだ。
眩しくて、眩しくて、目を細めて見つめる「希望」の灯火なんだ……。


このドラマでは主に「子供からの視点」で構成されています。

事の発端は過去に起きた「誘拐事件」なんですが、概略を説明するだけで、その背後関係や当事者たちの描写が不足しています。

つまり「親からの視点」が描かれないので、視聴者の想像(妄想)次第でいくらでも解釈出来てしまいます。

番組の公式 HP の掲示板では、この親のことを「鬼畜」と表現している投稿者がいましたが、そんなに簡単に結論付けて良いものでしょうか?

親がどう考えていたかは説明不足なのですから。

あくまでも僕の想像(妄想)にすぎませんが——もしかしたら、この親も幼い頃は「抱きしめられることがなかった子供」だったかもしれません……。


ドイツのある哲学者──ニーチェだったと思うけど──歴史はくり返す、といったわ。すりきれたレコードが同じ部分をくり返すように、すべてが同じ話なのよ。

——『眠れる美女』:ロス・マクドナルド(菊地光 訳)


このドラマを観て感銘を受けた方は、是非ロス・マクドナルドの作品を読んで欲しいと思っています。

(実は、今回これが言いたかっただけです(^^;)。

細部の描写不足があるとはいえ、このドラマは映像だけでなく、音楽も良かったのが特徴です。

担当したのは「菊地成孔」さん。

エンディングの歌の歌詞およびタイトルは、このドラマを象徴しています。


退 行
作詞・作曲・歌:菊地成孔

夜のヤミが言わせる
聞いてはいけない事を
ねえ どうして
あなたはアタシの罪をさばかないでいるの
胸が割れそうよ
泣いて泣いて泣いて
赤ちゃんに戻ったの
天使でももう悪魔でもいられない

最後のキスが言わせる
言ってはいけない事を
もう一度だけ愛して
ほしい





菊地成孔 - 退行(チェイス -国税査察官- エンドテーマ)





ジャズ・ファンなら「チェット・ベイカー」の歌い方に似ている(真似ている)と感じるかもしれませんね(笑)。

ちなみに、最終回のエンディングにはなぜか、この歌が流されません。

歌詞の最後の部分は、このドラマのラストとシンクロしているのに、残念というか不思議です(>_<)。

このドラマ『チェイス~国税査察官~』は、6月2日と6月3日に「一挙再放送」されます(詳しくは「番組公式 HP」を参照して下さい)。

……といっても深夜なので、録画予約するのが賢明でしょう(^▽^;)。

わざわざ予約してまで……という方もおられるかもしれませんね。

僕は普段はあまりテレビを(真面目に)観ないタチなので、ドラマ関係は「こちら」とかで観ています(^^ゞ。

ご参考までに(^_^;)。