【時代劇局長のズバリ感想文】
今回のタイトルは『本能寺の変』。『天地人』を語る上で欠かせない出来事だが、このタイトルを聴いた時、『信長が主役の回なの?』と疑問を持った。そりゃ、重要な出来事なのかしれないが、タイトルにするという事は、本能寺そのものを描くという事になる。そんな必要があるのか?と思ったのだ。まぁ、何はともあれ見て、感想を書く事にしよう。
①本能寺の変
冒頭の言葉は『本能寺の変』。いつもならここで森本アナのナレーションとともに物語の背景説明があるが、今回はすぐにオープニングテーマに移行した。これはどうしたのか?もう本能寺の変に説明はいらないという事か。確かに本能寺で誰が誰に殺されたかは誰でも知っている事実だが、ここまで同じスタイルを通してきたのだから、説明をして欲しかった。でも、これは何か狙いがあるのでは?と思い、見終わってから筆者の結論を出そうと思っていたが、物語は決して本能寺だけを描いていたわけではなかった。やはり筆者はいずれかの話を入れるべきだったと思う。ズバリ!入れなかった理由は、本編の時間が長すぎて冒頭の言葉をカットせざるを得なかったのでは?単純な推測だが、同業者として言わせてもらえば、そういう事は意外にあったりするものである。
②正式な夫婦になった兼続とお船
仲間を残して魚津城を後にした兼続に、三国峠で味方の大勝利の報が入った。森長可には、あと一歩のところで逃げられてしまい、悔いを残しながら春日山城に戻った兼続。そこで結婚後、はじめてお船と対面したが、『お船殿・・・』と呼んだ兼続に対して、『お船とお呼び下さい』とお船。ここは原作通りに進む。そんな中で、仲間を残して去ってしまった事に『ひどい仕打ち』と男泣きする兼続のシーンは原作には描かれていない。『もう泣かない』と言いながら相変わらず泣く兼続だが、この泣いたシーンは、流れ上とても良かったと思う。仲間を見殺しにしてしまった兼続の悲しみが、お船にそのまま伝わったからだ。こういう泣きはあってもいいではないか?
その後、兼続は眠ってしまうが、ここで一呼吸、間を空けられたのも良かった。そして、目を覚ました後、『強引なやり方で婿になって・・・』とお船に侘びつつ、お互い最初からひかれあっていたと告白して、兼続とお船は正式な夫婦になれたのである。この流れは非常に良かったと思う。
③唐突すぎる本能寺
明智光秀より書状が届いた。『無二の馳走』なる表現が使われていたが、それをどう理解すれば分からない兼続。罠か?謀反か?そうこうしているうちに、京の都にいる明智光秀の『敵は本能寺にありぃ~!』のシーン。物語の背景もしっかり説明せず、いきなりではあったが、光秀を演じる鶴見辰吾さんの掛け声は見事であった。ほんの数話の出演が残念である。そして、ここで信長が今回初めて登場!おっと、今回のタイトルは『本能寺の変』。それなのに光秀が挙兵してから登場するとは・・・。個人的には、本能寺入りしてからの初音と会話するシーンを入れて欲しかった。ここは、『なぜか胸騒ぎがする』『わしにもしも何かあった場合、そなたは織田を離れろ』というような会話があっても良かったのでは?
④謙信に殺された?信長
信長の思いが何も表現されないまま、寺に火を放ち、自刃する手前の信長。このまま死んでしまうのか?と思ったら、謙信の亡霊が現れた。『謙信入道か?』『いかにも・・・』で始まった2人のやりとりは、『人の心は力では動かせない(謙信)』『きれいごとではこの世は直らない(信長)』などと続き、信長は炎に包まれてこの世を去った。謙信が信長の死に水を取ったカタチになったが、天国にいる謙信が信長に天罰を下した格好になった。これはもちろん、義を貫いた上杉家と直江兼続の物語であるから・・・という理由もあるだろうが、謙信が最後に信長に言い放った『で、あろう・・・』は効いた!信長の『で、あるか・・・』を奪うかのようであった。
でも、欲を言えば、これほど毎週無理に?出演していた信長に、最後はもう少し語る時間をとってやって欲しかった。それと、初音が完全に信長びいきになっていたが、今後はどうするのであろうか?なぜ信長に付いていたのか?光秀を襲ったのはどうしてか?その理由などを今後しっかり表現して欲しいものだ。これがないと、全く初音が信長に付いていた意味がない。
⑤あと1日早ければ・・・
織田信長の死は、まだ春日山には伝わっていなかった。その頃、魚津城では柴田勝家方の総攻撃が行われていた。魚津城は陥落し、吉江宗信、安部政吉ら十三将は自刃して果てた。十三将は自刃する際、小刀で自分の耳に穴を開け、自分の名前を書いた木札をつけて切腹したと言われている。これは本能寺の変の翌日に起きたもので、信長が光秀に討たれた報が柴田勝家に入ったのは、落城の翌日6月4日であった。この報があと1日早ければ、この悲劇は起きなかった事になる。ちなみに、兼続が『じんすけ・・・』と悲しんでいたのは、安部政吉(仁介)の事である。なお、一般的に魚津で最期を遂げたのは”十二将”と言われているが、ここでは火坂先生の”十三将”に統一させて頂いた。
⑥堂門冬二先生原作の『直江兼続』
火坂先生は、詳しく書いていなかったが、堂門冬二先生原作の『直江兼続』には、魚津城で自刃した上杉家の武将をじっくり描いている。簡単に紹介すると、『皆の最期を見届ける』と、吉江宗信以外が自刃。そこに、城内に入ってきた織田方の黒崎左馬介の前で、『上杉魂を見せつける』と言って吉江が死んでいった・・・。こんな話だ。実にリアルに描かれているので、是非、ご一読あれ!
⑦タイトルの意味
『本能寺の変』というタイトルだったが、それは単なる出来事であり、実際の内容は兼続とお船の夫婦愛が中心だった。それじゃぁ、本能寺以外のタイトルをつけても良かったのでは?とも思ったが、実は謙信を出したところに、『本能寺の変』とした意味があった。信長を毎週しつこく登場させていたが、これは上杉との違いを明確に表現しようとする制作者サイドの意図だったのかもしれない。だからこそ、亡霊とはいえ謙信を出し、謙信との戦いに決着をつけ、奇しくも同じ49歳で亡くなった・・・というナレーションでシメたのでは?兼続の物語を展開させる上で、”本能寺”はなくてはならない出来事だが、制作者自身の強い意志が今回のタイトルになったのでは?
【来週の展望】
光秀は”中国大返し”の秀吉に討たれ、世は秀吉の天下に変わろうとしていた。そして、石田三成(左吉)も登場!本能寺の変によって九死に一生を得た上杉は、新たな展開へと動く事になる。筆者のキーポイントは初音だ!今後は初音次第と言ってもいいのではないだろうか?