「延命・緩和医療は楽で身体の負担の少ない治療、無病状態を目指した治療は辛くてしんどい。」
と言うニュアンスで話される方がおられる様です。
確かに以前の様に、ルミナルタイプ (Luminal type, ER+, HER2-)の転移・再発乳がんに対して、内分泌療法のみを行った場合、ほとんど副作用なく過ごされる方は居られます。
しかしそれは期間限定で、ほぼ100%の方が最終的に、無病状態を目指す方同様に、いつか必ず化学療法を行なわれる時が来ますが、転移巣や局所病変は増悪し、5年以内に60%以上の方が亡くなられます。
この場合も、副作用の少ない方にとっては、「治療」は楽かも知れないですが、転移巣の増悪や原発巣の増大による症状は、徐々に悪化していきます。
まして、コメントいただいた如く、今はファーストライン(治療の第一選択)にCDK4/6阻害薬を併用される事が多くなってきており、下痢や骨髄抑制、その他の強い副作用が生じる方が増えています。
abemaciclib (アベマシクリブ、べージニオ)は下痢が必発ですし、間質性肺炎の副作用が生じる可能性もあります。
その後に選択される事が多くなってきているmTOR阻害薬も、間質性肺炎や糖尿病等、必ずしも安全で楽な副作用ばかりではありません。
また何故か再発治療の早い段階で、HER2 low (低発現)の方に対するT-DXd (エンハーツ)の治療が増えてきている印象があります。
T-DXdは10%以上の頻度で間質性肺炎が出現します。
時に死に至る事も報告されています。
それ以外にも強い全身倦怠感や嘔気、食欲不振も比較的多く見られます。
以上より、標準治療が身体に優しく、楽だと言う時代は既に終わっていると私は感じています。
またそれらの治療は一様にすべからく高額です。
ならば、
「いくら頑張っても治らない、いくら頑張っても延命・緩和しか望めない、高額で副作用も必ずしも楽ではない治療。」
をどれだけの方が心より望まれておられるのでしょう。
その先にどの様な幸せが待っているのでしょう。
自らの行っている治療で、長期無病状態、その先の根治、完治が望めないなら、その様なゴールを目指したい方々のために、無病状態を目指した治療を自ら研究したり、提供したり、たとえそれらが出来なくとも、それらを目指して治療している医師をご存知なら、その情報を患者さん方に隠すのではなく、一つの選択肢として情報を提供されても良いのではないかと私は思います。
少なくとも、実際に少なからぬ進行乳がんの方々が、無病状態に到達される現状から目を背けたり、知ろうともされず、頭から否定したり、その様な医師へのセカンドオピニオン受診を希望されて居られる方への紹介を拒んだりする事は、如何かと私は思います。
セカンドオピニオン受診は、あくまで患者さん方の正当な権利であり、それを主治医が妨害する事は、横暴ではないでしょうか。
私は延命・緩和医療を望まれる方には、可及的速やかに紹介状を作成させていただいています。
それは患者さんの権利だからです。
自分の患者さんへの想いが強い事は理解出来ますが、他の医師へのセカンドオピニオン受診の希望を拒んだり、その際にほとんど画像を提供しなかったり、急に患者さんに冷たくなられたりする事は、医師としてのプライドの置き場所が、少し違うのでは無いかと私は思います。