乳がんになられ、完全に無治療を貫かれる方が居られます。
ある意味で「自然」な生き方に見えます。
でも、最期まで自然のまま迎えられる方はそう多く無い様に思います。
抗がん剤等を用いた積極的治療は望まなくとも、胸水や腹水が溜まって苦しくなれば、抜いて楽になる事を望まれるかと思います。
局所が進行し、滲出液で服がベトベトになったり、悪臭や出血が酷くなれば、それだけでも何とかして欲しいと望まれます。
痛みが酷くなれば、せめて痛みだけは取って欲しいと望まれます。
これらの治療をするな、受けるなと言っている訳ではありません。
ただ、これらの方々にとって、抗がん剤治療とこれらの対症療法とは一体何が違うのでしょう。
私はそれが理解出来ずにいます。
「抗がん剤の様な身体に悪い、辛い治療までして生きていたくない。」
と言う考え方があるのかもしれません。
しかし私の長年の経験からは、最も身体に悪いのは、進行し全身転移し、生きている限り広がり続ける乳がんそのものと思っています。
私の所にお越しになられる多くの進行乳がん(切除不能・転移・再発乳がん)の方々は、初診時はとても辛そうに見受けられます。
それは身体的なものだけでなく、精神的な辛さも含まれているのかもしれません。
そして、抗がん剤を含む全身治療を始めますが、病巣が小さくなればなる程、たとえ抗がん剤を続けていたとしても、ほとんどの方が元気に明るく生き生きとされてきます。
もちろん我慢されている副作用が皆無、と言う訳では無いでしょう。
それでも、全身にがんがあり、徐々にそのがんが全身に広がっていく状態よりも、抗がん剤をされながらも、全身のがんが徐々に消えていく状態の方がはるかに元気に居られる様に見えます。
その代わり、医師は副作用に対して自らの出来る限りの対処を行い、苦痛を取り除かなければなりません。
また、そもそも可能ならば、医師は出来るだけ辛い治療を選択しない様にする事も心がけるべきと思っています。
固い意志を持って、
「酸素につながれてまで私は生きていたくない。」
と仰られる方が居られます。
一見素晴らしい生き様の様に見受けられます。
しかし、そもそも肺転移、がん性リンパ管症を完全に寛解させてしまえば、酸素につながれた生き方をしなくてすむのでは、と私は思います。
「抗がん剤はひどくて辛いもの。
そこまでして生きていたくはない。」
と言う意見は確かにあるかと思います。
でもそれは、最期の最後でも選べる生き方なのではないか、と私は思うのです。
昔むかし、抗がん剤を最期の最後に選択され、
「こんなに楽なら最初からやっておけば良かった。」
と笑顔で仰られて、3日後に亡くなられた方が居られました。
しつこく何度も言ってしまいますが、
「その方の命はその方のものであり、その生き方は誰にも強制されるべきものではない。」
とは思います。
でも、頑なになられず、少し柔軟に人の話に耳を傾けて、正しい情報を少しでも自分の思考の中に付け加えて、改めて考え直す事は悪い事ではないと思います。
少なくとも、進行乳がんであっても根治を望まれる方には、柔軟な考えをお持ちいただければと願っています。