1ヶ月前より右乳房の発赤および腫脹に気付き、近医を受診され、局所進行乳がんの診断で、私の所に紹介受診されました。
胸部造影CTです。
上の矢印が原発巣です。
乳房中央に大きな腫瘍があり、乳頭や皮膚に浸潤して、広範囲に皮内リンパ管を広がっている像を呈していました。
下の矢印は皮下の脂肪組織です。
左右比べると、広範囲に浮腫んでおり、がんの広がりを疑いました。
針生検で、浸潤性乳管がん、ER+ (80%), PgR- (0%), HER2+ (3+), Ki67 35%でした。
これまで免疫染色の結果の見方を詳しく説明した事がありませんでしたが、乳がんを治療する上で、私はとても大切に考えています。
それは、細かい部分まで、がんの状態を読み取れるからです。
例えば、「ER+ (80%), PgR- (0%)」
乳がんが悪環境となり、EMT(上皮間葉移行)が進行していくと、ER, PgRの発現は低下していきます。
Cancer Letters, 44-58, 2015.
よって、この方はERが低下し始め、PgRはゼロになっていますので、かなり悪性化が進んでいるかもしれない、と私は考えます。
余談ですが、外部の検査機関で、染色されているがん細胞の比率が100%でも50%でも10%でも「10%以上陽性」と報告してくる所があります。
乳がんの悪性化に全く興味が無いのかと疑ってしまいます。
「Ki67 35%」
Ki67は正確にはKi67 Labeling Indexの事です。
中にはMIB1で表記する場合もありますが、同じです。
G0期(静止期)以外のがん細胞、つまり分裂期に入ったがん細胞が免疫染色で細胞核が染まってきます。
がん細胞1000個のうち、何個が分裂期に入っているかで、がんの増殖の速さを表して、がんの悪性度を判断します。
ある程度、がんの増殖速度を判断し得ます。
厳密には、分裂期に入っても、途中で、例えばG1期で分裂が止まっている細胞もあり、Ki67が高いからと言って必ずしも増殖が早いとは限りません。
さらに厳密に分裂期、増殖速度を見る方法はあるのですが、ここでは省略させていただきます。
この時点で、
「原発巣が増大に伴ってEMTが進行した事によって、細胞がばらけて広範囲に浸潤、広がっている。
これは遠隔転移しているかもしれない、いや遠隔転移している可能性が高い。」
と判断して、全身の検査を進めました。