転移するためには、先ず、到達した臓器に乳がん細胞が「接着」する必要があります。
しかし通常、細胞は、同じ種類同士しかくっつく事が出来ません。
例えばお腹の中には、様々な臓器があります。
しかし通常、肝臓の細胞は肝臓の細胞同士しかくっ付く事が出来ません。
同様に腸は腸同士しか、くっ付く事が出来ません。
なので、お腹の中の臓器が一塊にならずに済んでいます。
同様に、乳房でも、乳管上皮は乳管上皮としかくっ付けません。
同じ乳房でも、脂肪と乳腺はくっ付いていないので、容易に剥がれます。
乳がんの多くは、乳管上皮から発生します。
なので基本的に、乳がん細胞は、乳管上皮としかくっ付けない為に、たとえ全身の臓器に飛んで行ったとしても、転移する事が出来ないのです。
でも、実際には転移する乳がんはあります。
転移する乳がんとしない乳がんの違いは何なのでしょう?
それは、
「乳がん細胞が、他の臓器に接着する(くっ付く)能力を獲得したかどうか」
に尽きます。
肺転移、肝転移については、以前にもこのブログで取り上げました。
では、骨転移の場合はどうか。
骨転移するためには、乳がん細胞が骨の何処かにくっ付く為の、接着出来る物質を産生する必要があります。
また、乳がんと接着出来る場所が必要です。
乳がん細胞側の接着出来る様になる物質が、「オステオミミクリー」と言う物質であり、接着出来る場所が「造血幹細胞ニッチ」です。
骨転移する為のニッチは、元々末梢血を作る為の、造血幹細胞が骨髄中に居る場所(家)です。
オステオミミクリーを発現して、骨転移出来る様になった乳がん細胞は、造血幹細胞と言わば競合して、乗っ取る形で入れ替わって、造血幹細胞ニッチに結合します。
これが、「骨転移の成立」です。
因みに、化学療法で好中球減少症の治療や予防に用いられる、ジーラスタ等のG-CSF製剤(顆粒球コロニー形成刺激因子製剤)は、骨髄中の造血幹細胞ニッチに結合している造血幹細胞を血液中に放出する作用があります。
つまり、安易なG-CSF製剤の投与は、骨髄中の造血幹細胞ニッチに言わば「空き家」を作ってしまう可能性があります。
そのため、骨髄に到達したオステオミミクリーを発現している乳がん細胞は、造血幹細胞と競合する事なく、造血幹細胞ニッチに結合し易くなります。
つまり、G-CSF製剤の投与は、骨転移を進行させてしまう可能性がある、と言う事です。
実際に前立腺がんでは、G-CSF製剤を投与することによって、骨転移を増悪させる事が報告されています。
これらの理由から私は、術前・術後補助化学療法時や転移・再発乳がん治療時に、G-CSF製剤を安易に投与する事はしません。
また、その様な必要のある治療は、余程のメリットがない限り、私は選択しません。
これが私がdose dence ACや dose dence EC、dose dence PTX (パクリタキセル)療法等を行わない最大の理由の一つです。