私は転移乳がん(ステージ4)で根治を望まれる方には、ほぼすべての方に、最終的に原発巣の根治切除を行っています。
そのためには、どの様なタイミングで行うか、がとても重要です。
それを考えるには、そもそも、「何故乳がんは転移出来るのか」、を知っておかなければなりません。
乳がんは多くが乳管上皮から発生します。
しかし、乳管内にいる間は転移する事が出来ません。
この段階の乳がんを「非浸潤性乳管がん」と言います。
やがて、乳がんの増大に伴って、浸潤能(乳管を破って周りの組織に広がる能力)・遊走能(原発巣から離れて移動する能力)を獲得していきます。
この段階の乳がんを「浸潤性乳管がん」と言います。
乳がん細胞が血管やリンパ管に到達し、その中に入ると、血管内をぐるぐる周り始めます。
この状態の細胞が、CTC(循環腫瘍細胞:Circulating Tumor Cells)です。
しかし、この状態の乳がん細胞の多くは血管の中をぐるぐる回っている間に死滅します。
やがて、ぐるぐる回っているだけでなく、血管壁にくっついて、血管から外に出る事ができる乳がん細胞が現れます。
それが、肺や肝臓、骨などに到達します。
この時点で、転移してしまい、全身病になってしまうから治らない、と思う方、先生もおられるかもしれません。
しかし、実はこれらの細胞の多くは、臓器転移する事が出来ません。
臓器転移する事なく、これらの乳がん細胞もまた、その多くが死滅してしまいます。
乳がんは乳管上皮細胞から発生するために、乳管上皮細胞の性格を色濃く持っています。
ここで最も重要な事ですが、身体中の様々な細胞は、同じ種類の細胞同士しか、くっ付く事が出来ません。
乳管上皮細胞は、乳腺にしかありません。
従って、乳がん細胞が肺に行こうが、肝臓に行こうが、転移巣を作りたくても、くっ付ける細胞が無いために、基本的には転移する事が出来ないのです。
これは、乳がん細胞だけではなく、胃がんも大腸がん等も基本的には同じです。
ですから遠隔臓器に到達したがん細胞も、血管の中でぐるぐる回っている多くのがん細胞も、浮遊しているがん細胞は、基本的にはその多くが、数日以内にすべて死に絶えてしまいます。
なので、全身にがん細胞が回っても、ほとんどの乳がんは転移しません。
では、なぜ実際に転移する乳がんがあるのでしょう?