こんばんは、はるとです。
きょうも、ひとりぶんの転職の話をさせてください。
思い出したのは、33歳の男性のこと。
ディーラーの整備士さんです。
機械いじりが、昔から好きだったそうです。
故障の原因を突き止める。部品を交換する。エンジン音が正常に戻ったときの達成感。
自分の手で直せることに、誇りを持っていたといいます。
国家資格も取得済み。命を乗せる車だから、手抜きはできないと考えていたそうです。
でも、現場はいつも時間との戦いでした。
車検、点検、修理、タイヤ交換。1台にかけられる時間は、細かく決まっています。
予定をオーバーすると、工場長から釘を刺されるそうです。
「利益出ないだろ」「完璧主義すぎ」「お前は職人じゃなくて会社員なんだから」
その一方で、事故やクレームが起きたときの責任は、整備士個人にのしかかります。
スピード、正確さ、丁寧な説明、追加整備の提案。全部が求められていたといいます。
ある日、ブレーキ周りに違和感のある車が入ってきました。
お客さんの希望は、最低限の点検だけ。
確認してみると、部品の摩耗が進んでいたそうです。
すぐに事故になるレベルではないけれど、早めの交換は必要な状態でした。
工場長に「時間をもらえますか」と申し出たそうです。
返ってきたのは、予定表を見ながらの一言。
「今日はもう詰まってる」
「記録だけ残しといて、次回に回して」
不安を抱えたまま、彼はお客さんに交換を勧めたいと伝えたそうです。
工場長からは、こう言われました。
「余計な不安を煽るなよ」
「今日の売上にならないことに時間使うな」
数週間後、そのお客さんから連絡が入ったそうです。
ブレーキから異音がする。別の工場で見てもらったら、こう言われたと。
「前回、指摘されなかったんですか?」
摩耗が進んでいたこと、交換を勧めたかったこと。記録には、ちゃんと残していました。
でも、記録が残っているだけでは、目の前で鳴っている異音は止まりません。
電話口に出たのは、彼自身だったそうです。
「前と同じ工場で、どうして気づけなかったんですか」
その言葉に、記録の存在を言い返すことはできなかったといいます。
結局、部品は交換されました。
予定を無理やり空けてでも対応するしかなかったからです。
気づいた瞬間に直せば数分で済んだはずの作業に、数週間ぶんの不安と信頼を使ってしまったわけです。
工場長からは、それについて何のフォローもなかったそうです。
面談での第一声は、「僕がもっと強く言えていれば」でした。
私は、こう聞きました。
「危険に気づいて、報告して、伝えようとした。止めたのは、誰ですか」
彼は、しばらく黙っていました。
——ここが、いちばんの分かれ目でした。
「記録だけ残しておけ」という指示は、一見、責任の所在をはっきりさせるための言葉に聞こえます。
でも実際は、気づいた人間の判断をその場で無効にする言葉でもあるんです。
気づいた人が動けなくなる仕組みだと言えます。
彼が次に選んだのは、1台あたりの時間ノルマがない、中古車専門の整備工場でした。
必要な作業に、必要なだけ時間をかけられる職場です。
年収は、大きくは変わっていないそうです。
面接であの一件を話したところ、担当者は「うちは、気づいた作業をその場でやれるのが強みです」と答えたといいます。
それが決め手になったそうです。
危険に気づいたときに後回しにされることは、もうありません。
一年ほど経って、彼はこう言っていました。
「気づいたことをその場で直せるのが、こんなに気持ちいいとは思いませんでした」
面接では、前の職場での出来事も正直に伝えたそうです。担当者は、「そういう予定表の都合が、いちばん危ないんですよね」とだけ答えたといいます。分かってもらえたと感じたのが、決め手になったそうです。
いま、危険に気づいているのに、後回しにされている、あなたへ。
その違和感は、神経質だからではありません。
気づいたことをその場で扱えない組織は、いつか誰かに、あの一言を言わせることになります。
「前回、指摘されなかったんですか」と。
では、また明日。
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【今日のブログのおまけ】
「専門知識が正しく扱われる職場の見分け方」は、私が本業で運営しているサイトにまとめています。
元面接官として、転職サービスを実名で辛口レビューしています。
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