こんばんは、はるとです。
きょうも、ひとりぶんの転職の話をさせてください。
思い出したのは、27歳の男性のこと。
ゲーム会社でプログラマーをしていた人です。
子どもの頃からのゲーム好きが高じて、この業界に入ったそうです。
自分が作った世界で、誰かが遊んで喜んでくれる。それが、ずっと憧れだったといいます。
初めて大型タイトルの開発に加わったときは、本当に興奮したそうです。
有名シリーズ、大きな予算、発売を待ちわびる大勢のファン。
ただ、開発は当初の予定より遅れていきました。
仕様変更は続く。追加機能は増える。なのに、人は減らされる。
それでも発売日だけは、絶対に動かなかったそうです。
経営陣いわく、「延期は会社の信用に関わる」「何としても予定通りに出す」。
現場は連日、深夜まで残業する日々になりました。
会社に寝袋を持ち込む同僚もいたといいます。
シャワーだけ浴びに帰宅する。土日も出社。
社内では、それを「祭り」なんて呼んでいたそうです。
開発の終盤、深刻なバグが見つかりました。
特定の操作をすると、セーブデータが破損する可能性がある。
発生率自体は低かったものの、起きればプレイヤーの進行状況がすべて消えてしまいます。
彼は、チームリーダーに報告したそうです。
リーダーは表情を曇らせて、こう言ったといいます。
「今から直すと他に影響が出る」
「発売後のアップデートで直せないか?」
「発売前に修正すべきです」と伝えると、会議が開かれました。
経営側の担当者は、こう言い放ったそうです。
「そのバグ、何人に起きるの?」
「全員じゃないんだよね?」
「延期の損失と天秤にかけて考えて」
技術的な危険性を説明しても、結論は変わりませんでした。
「既知の不具合として記録し、発売後に対応する」
発売日、彼はSNSでユーザーの反応を追っていたそうです。
喜びの声に混じって、あのバグを踏んだ人の投稿も見つかったといいます。
「セーブデータ、消えた」
返信欄には、「よくある不具合だから問い合わせてね」の一文。
それが発売前から把握されていたバグだとは、誰も知らなかったんです。
修正パッチが配信されたのは、発売から3週間後だったそうです。
その間、同じ被害の報告は、じわじわ増え続けていました。
彼は、そのたびに画面を閉じていたといいます。
自分の書いたコードのせいで、誰かの何十時間分もの記録が消えている。その事実だけは、パッチが出たあとも消えずに残りました。
面談での第一声は、「報告する義務は、果たしたと思ってるんです」でした。
私は、こう聞きました。
「義務は果たした。それで、気持ちは軽くなりましたか?」
彼は、首を横に振りました。
——ここが、いちばんの分かれ目でした。
「損失と天秤にかけて」という言葉は、判断を先延ばしにするのに便利な言い回しです。
でも、正しく声を上げた人の意見を、天秤の上で無視できてしまう組織では、次に声を上げる人はいなくなります。
声を上げる意味そのものが、消えていくんです。
彼が次に選んだのは、小規模なインディーゲームのスタジオでした。
一人ひとりの判断が、そのまま製品に反映される環境です。
年収は、少し下がったそうです。
面接で前職の一件を話すと、担当者はこう答えたといいます。
「うちは、直すかどうかを話し合う会議自体しません。気づいたら直す、それだけです」
その言葉に救われたそうです。
報告した危険が、天秤にかけられて消えることは、もうありません。
一年ほど経って、彼はこう言っていました。
「規模は小さいのに、声が届く実感があります」
面接では、前職での一件も正直に話したそうです。担当者は、「損得より先に安全性を見る文化かどうか、面接では見えづらいですよね」とだけ答えたといいます。その言葉に、何か見透かされた気がしたそうです。
いま、正しく報告したはずなのに、握りつぶされている、あなたへ。
義務を果たしても気持ちが晴れないのは、あなたの感覚が正常だという証拠です。
声を天秤にかけて消せる組織にいる限り、その感覚は何度でも裏切られます。
声が届く場所を、選び直していいんですよ。
では、また明日。
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【今日のブログのおまけ】
「声が届く組織の見分け方」は、私が本業で運営しているサイトにまとめています。
元面接官として、転職サービスを実名で辛口レビューしています。
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