こんばんは、はるとです。
きょうも、ひとりぶんの転職の話をさせてください。
思い出したのは、食品工場で働いていた女性のこと。
スーパーに並ぶお弁当を作る工場だったそうです。
仕事は、細かく分かれていました。
盛りつけ。包装。検品。
ずっと同じ動きの繰り返し。それでも、嫌ではなかったといいます。
自分の手を通ったものを、どこかの誰かが食べる。
だから、衛生面にはとくに気を配っていたそうです。
研修でも、何度も言われていました。
「異常を見つけたら、必ず報告してください」
「小さな違和感を見逃さないこと」
彼女は、それを素直に守る人でした。
ある日のことです。
盛りつけラインの作業台の隅に、透明な破片が落ちていました。
小さなプラスチックのようなもの。
食品に入っていたわけではありません。でも、包装資材のどこかが欠けたのかもしれない。
すぐにラインリーダーへ伝えました。
リーダーの反応は、こうでした。
「こんな小さいもの、どこから来たか分からないよ」
同じ資材を点検してほしい。そう食い下がると、リーダーは時計に目をやったそうです。
出荷の時間が近づいていました。
「今ラインを止めたら、全部遅れる」
「破片は捨てて、作業を続けて」
それでも引かずにいると、リーダーの機嫌が変わりました。
「責任者は私です」
「指示に従ってください」
彼女は、いったん持ち場へ戻ります。
けれど、数分後。
またしても破片が見つかりました。今度は、包装容器の角が欠けている。
彼女は、非常停止ボタンを押しました。
ラインが止まり、機械の音が消えて、工場の中が急に静かになったそうです。
調べてみると、包装機の部品がずれて、容器を削っていたことが判明しました。
すでに何十個も包装されたあとでした。
該当する商品は全部回収して、一つずつ確認することに。
結果は、混入なし。大きな事故にはなりませんでした。
止めてよかった。彼女は、素直にそう思ったそうです。
ところが、その日の夜。
事務所に呼び出されて、管理者からこう言われます。
「勝手にラインを止めたそうだね」
経緯を説明しても、返ってきたのは別の話でした。
「結果として混入はなかった」
「出荷が遅れ、会社に損失が出た」
「もう少し冷静に判断できなかったの?」
彼女は、聞き返しました。
「もし混入していたら、どうするんですか」
管理者の答えは、これです。
「仮定の話をしても仕方ない」
翌週、彼女は検品から外されました。
倉庫で箱を運ぶ担当に。理由は「神経質で、ライン作業に向いていない」。
同僚からも、こんな言葉をかけられたそうです。
「余計なことをしたね」
「あれくらい、よくあるよ」
それから数週間後のことです。
別のラインで、本当に異物混入が起きました。
商品から金属片。出荷後だったので、大規模な自主回収になり、ニュースでも流れたそうです。
そして会社は、会見でこう説明しました。
「現場には異常を発見したら、必ず報告するよう指導していました」
その中継を見ながら、体が震えたといいます。
——ここが、いちばんの分かれ目でした。
面談での第一声は、「私の判断が、間違っていたんでしょうか」。
私は、こう聞きました。
「報告して、止めましたよね。間違っていたのは、その報告の扱われ方のほうでは?」
彼女は、しばらく黙っていました。
報告しろと教える会社は、たくさんあります。
でも、報告した人をどう扱うかまで決めている会社は、意外と少ないんです。
歓迎すると言いながら、報告者を静かに配置換えする。
それを一度でもやれば、次に気づいた人は口をつぐみます。
その後、外部調査が入り、社内の仕組みは作り直されました。
ライン停止の判断基準。異常報告の記録の残し方。報告者を不利に扱わないルール。
元の部署へ戻る話も出たそうですが、彼女は断りました。信用が戻らなかったからです。
いまは、別の食品会社にいます。
そこでは、異常を伝えるとこう返ってくるそうです。
「止めてくれて、ありがとう」
一年ほど経って、彼女はこう言っていました。
「あのボタンを押した自分を、やっと責めなくなりました」
いま、気づいたことを伝えて、責められている、あなたへ。
止めた損失は、数字になって表に出ます。
でも止めなかった損失は、数字になる前に、誰かの口に入るんです。
順番を間違えているのは、あなたじゃありませんよ。
では、また明日。
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【今日のブログのおまけ】
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