こんばんは、はるとです。
きょうも、ひとりぶんの転職の話をさせてください。
思い出したのは、26歳の男性のこと。
午前4時のオフィスは、蛍光灯がジー、と鳴るそうです。
その音以外は、何も聞こえない。
彼は、その時間まで資料を直していました。
でも、タイムカードはもう押していない。
「深夜の打刻は印象が悪いから」
先輩に、そう言われたからだそうです。
だから記録の上では、彼は22時に帰っている。
実際は、まだ会社にいる。
新卒で入ったのは、「急成長」を掲げるベンチャーでした。
求人には、まぶしい言葉が並んでいたそうです。
圧倒的な成長。
普通なら10年かかる経験を、1年で。
面接で役員が熱く語るのを聞いて、
「ここで人生を変えたい」と思ったと言っていました。
でも、入社してすぐ仕事は溢れました。
マニュアルはない。
聞く相手も、みんな忙しい。
返事を待てば「指示待ちだね」。
自分で進めて間違えれば「確認不足だよ」。
……どちらに転んでも、彼が悪いことになる。
深夜に社長から「明日の朝までにお願い」とメッセージが来る。
断る人を、誰も見たことがなかったそうです。
こわいのは、その会社では眠らない人が称賛されたこと。
「昨日3時間しか寝てない」
「今月まだ一日も休んでない」
それが、武勇伝として語られる。
体を壊した同期には、こう言われたそうです。
「自己管理も、成長のうちだよ」
彼は、その言葉を信じようとしました。
眠いのは、自分の能力が足りないから。
つらいのは、まだ成長しきっていないから。
そう思えば、つじつまが合うから。
でも、体のほうが先に音を上げました。
メールを読んでも、意味が入ってこない。
同じ一行を、何度も読み返す。
電車を二駅も乗り過ごした。
家の鍵を、冷蔵庫の中で見つけた日もあった。
それでも彼は、会社へ向かいました。
「休む」という発想が、頭から消えていたんです。
面談に来たとき、彼が最初に言ったのは、この一言でした。
「僕が、まだ弱いだけなんです」
追い詰められた人って、最後には必ず、
自分を責める側にまわるんです。
その方が、話が早く終わってしまうから。
私は、彼の一週間を書き出してもらいました。
始業前の朝会。
日付をまたぐ残業。
土曜のチャット対応。
計算すると、月の残業はゆうに100時間を超えていました。
「これは、成長ではありません」
私は、はっきり言いました。
「成長は、あなたの中に何かが積み上がること。
これは、あなたから何かが削られているだけです」
彼は、しばらく黙って、小さな声で聞きました。
「でも、辞めたら逃げになりませんか」
——ここが、いちばんの山でした。
彼の周りには、辞めた人を笑う空気があったそうです。
覚悟がない。根性がない、と。
でも私は、こう伝えました。
「火事の家から出ることを、逃げとは言いません。
それは、身を守るという当たり前の行動です」
そのうえで、私が頼んだのは、たった一つ。
記録を、取ること。
パソコンのログイン時刻。
オフィスの入退室。
社長から深夜に届いたメッセージ。
「消される前に、全部スクショで残しておいてください」
打刻していない残業も、証拠があれば「なかったこと」にはできない。
それが、辞めるときに彼を守る盾になるからです。
数週間後、彼は退職を決めました。
引き止めは、もちろんありました。
「今が踏ん張りどころだぞ」と。
でも彼は、そこで初めて、自分の側に立てました。
残した記録は、二つの場面で効きました。
退職の話し合いを、こじらせずに済んだこと。
そして後日、その記録を労働基準監督署へ持っていったこと。
彼の告発をきっかけに、会社には是正の指導が入ったそうです。
辞めて、しばらく経った頃。
彼から、短いメッセージが来ました。
「最近、朝の音が聞こえるんです」
カーテンの隙間から入る光。
窓を開けたときの、鳥の声。
会社にいた頃は、朝に音があることさえ、忘れていたそうです。
年収の話は、あえてしません。
彼はまだ、次の一歩の途中にいます。
でも、夜は眠れる。
翌朝、頭が動く。
それだけで、人はこんなに変わるのかと、毎回おどろきます。
いま、「成長のため」と言い聞かせて、深夜のオフィスにいる、あなたへ。
眠らないことは、優秀さの証明ではありません。
逃げていいんです。
それは、あなたが自分の命を、いちばん大事にしている証拠だから。
辞める前に、記録だけは残しておいてください。
それが、いつかあなたを守ります。
では、また明日。
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【今日のブログのおまけ】
「潰れる前に環境を変える」具体的なやり方は、
本業で運営しているサイトにまとめています。
元面接官として、転職サービスを実名で辛口レビュー中です。
・「まず、この環境から抜け出したい」という人は
・自分に合う職場を、じっくり見比べたい人は