こんばんは、はるとです。

 

きょうも、ひとりぶんの転職の話をさせてください。

 

思い出したのは、28歳の男性のこと。

 

建設会社で、現場監督をしていた人です。

 

 

彼には、現場でひとつだけ決めていた場所がありました。

 

資材置き場の、裏側。

 

誰も通らないところです。

 

 

そこでヘルメットをかぶったまま、下を向く。

 

つばの影に入ってしまえば、顔は見えません。

 

「あれ、そのためにあるんだと思ってました」

 

そう言って、少しだけ笑っていました。

 

 

もともとは、憧れて入った仕事だったそうです。

 

紙の上の図面が、少しずつ形になっていく。

 

何十人もの職人と、ひとつの建物を立ち上げる。

 

その一点で選んだ会社でした。

 

 

朝は6時に現場入り。

 

作業前の確認。

職人への指示。

安全の巡回。

写真の記録。

資材の発注。

翌日の工程調整。

 

職人が帰ってから、やっと書類の時間になります。

 

会社を出るのは、日付が変わってから。

 

現場が動く週は、土曜も日曜もありません。

 

 

上司の口ぐせは、これだったそうです。

 

「若いうちは、現場で寝るくらい働け」

 

 

ある日、彼の現場の工期が縮みました。

 

施主の都合です。

 

人は増えない。

予算も、そのまま。

 

完成の日だけが、前に来ました。

 

上司は「現場の工夫で吸収して」と。

 

……工夫という言葉で埋まったのは、彼の夜と休日でした。

 

 

職人からは「この工程じゃ無理だ」。

 

会社からは「何としても間に合わせろ」。

 

彼は、そのちょうど真ん中に立っていました。

 

無理を頼む。

断られる。

上司に怒られる。

組み直す。

また遅れる。

 

 

ある日、この道20年というベテラン職人に、彼は頭を下げに行きました。

 

その人は彼の顔をしばらく見てから、こう言いました。

 

「兄ちゃんのせいじゃないのは、分かってる」

 

そして、続けたと言います。

 

「けどな、無理なもんは無理だ。ここで急いだら、誰か落ちるぞ」

 

 

彼は、その言葉をそのまま上司に伝えました。

 

返ってきたのは、これでした。

 

「職人に言い負かされて、どうするんだ」

 

 

睡眠は、3時間になりました。

 

そしてある朝、安全ミーティングの場で、彼の言葉が止まりました。

 

伝える内容は、頭の中にある。

 

なのに、口が動かない。

 

職人たちが、こちらを見ている。

 

 

その日の午後、作業員が足場でバランスを崩しました。

 

けがは、幸い軽いものでした。

 

でも彼は、直前の確認をひとつ飛ばしていたんです。

 

時間がなくて、別の対応に走っていたから。

 

 

これ以上の短縮は危ない。

 

そう訴えた彼に、上司はこう言いました。

 

「事故は君の管理不足だろ」

 

 

面談に来たとき、彼の第一声は謝罪でした。

 

「僕が、もっと要領よくやれてれば」

 

私は、彼に紙を渡しました。

 

一日にやることを、全部書き出してもらったんです。

 

確認項目、書類、立ち会い、写真、発注。

 

数えたら、六十を超えました。

 

 

「これは、要領の問題ではありません」

 

私は、そう伝えました。

 

「一人が一日にできる量を、超えているだけです。段取りの上手さで、時間は増えません」

 

 

彼は黙って、それから聞きました。

 

「でも、現場を止めたら、みんなに迷惑がかかりますよね」

 

——ここが、いちばんの山でした。

 

現場監督は、止めない人が偉い。

 

そう教わってきたそうです。

 

 

でも私は、逆だと思っています。

 

「危ないと言える人がいる現場だけが、事故を防げます。止められることは、能力ですよ」

 

 

それでも、彼はすぐには動けませんでした。

 

「現場しか知らないので、外に出ても何もできないと思うんです」

 

私は、さっきの紙をもう一度、彼の前に置きました。

 

工程を組む。

何十人もの段取りをつける。

予算を見る。

図面を読む。

 

その全部を、同時に回す。

 

「これができる人、現場の外にもそんなにいませんよ」

 

 

彼が選んだのは、職種を捨てない転職でした。

 

建物の知識も、職人と話せることも、彼のいちばんの財産だったから。

 

移ったのは、建材メーカーの技術サポート。

 

現場を分かっている人間が、図面の段階で無理を見つける役目です。

 

 

年収は、ほとんど変わっていません。

 

数万円だけ上がって、それでおしまい。

 

でも、勤務は日中です。

 

土日は、現場が動いても呼ばれません。

 

 

半年ほどして、彼から写真が届きました。

 

夕方の、建ちかけのビルでした。

 

「今は、これをきれいだと思えるんです」

 

現場にいた頃の彼には、その同じ景色が、まだ終わらない工程としか映らなかったんだそうです。

 

 

もうひとつ、彼が言っていたことがあります。

 

土曜の朝に、電話が鳴らない。

 

それだけで、金曜の夜の眠り方が変わったと。

 

 

いま、工期に追われて、誰も来ない場所で下を向いている、あなたへ。

 

弱音を飲み込めることは、強さではありません。

 

それは、危険が見えなくなっていく途中です。

 

止めていいんです。

 

止める判断ができる人がいる現場だけが、明日も全員そろって家に帰れるんです。

 

では、また明日。

 

 

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【今日のブログのおまけ】

「経験を捨てずに、働き方だけ変える」やり方は、私が本業で運営しているサイトにまとめています。

 

元面接官として、転職サービスを実名で辛口レビューしています。

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