こんばんは、はるとです。
きょうも、ひとりぶんの転職の話をさせてください。
思い出したのは、26歳の男性のこと。
ある朝、彼の口から音が出なくなりました。
起きて、いつもどおり「おはよう」と言おうとした。
口は、ちゃんと開いた。
でも、声だけが出てこない。
異動して、2か月目のことだったそうです。
もともと彼がいたのは、企画部でした。
文章を作る。
数字を整える。
資料を組み立てる。
時間はかかるけれど、丁寧で、間違いが少ない。
上司からも、そこは認められていたと言います。
彼は昔から、人の声色に敏感な人でした。
電話の向こうで、相手の機嫌が少し曇る。
それだけで、胸のあたりが硬くなる。
話し声が重なる場所では、頭がうまく働かない。
不便だと思ったことは、何度もあったそうです。
でも、細かい違和感に気づけるのも、その敏感さのおかげでした。
数字のずれ。
言い回しの誤解。
まだ誰も気づいていない、ひっかかり。
一度、印刷の直前に、資料の数字がひとつ合わないことに気づいたそうです。
全体で見れば、ほとんど分からない程度のずれ。
それでも気になって、元の資料まで戻って確かめた。
結果、出す前に直りました。
そのとき上司は、こう言ったそうです。
「君がいてよかった」
ある日の会議で、彼はひとつだけ意見を言いました。
新商品の売り方について、こう。
「この伝え方だと、お客様が誤解するかもしれません」
会議室が、静かになりました。
部長は笑って、こう言ったそうです。
「君は、本当に細かいね」
その場は、それで終わりました。
異動が告げられたのは、翌週です。
行き先は、電話営業の部署。
一日に100件以上、知らない相手にかける仕事でした。
理由を、部長はこう説明したそうです。
「繊細すぎる性格を、直すためだよ」
「社会人として、強くなってもらわないと」
彼は、断れませんでした。
苦手だから嫌ですと言えば、甘えていると思われる。
そう思ったからです。
初日、席に着いた瞬間、音が押し寄せてきたと言います。
断られる声。
怒鳴られる声。
受話器を置く音。
後ろから飛ぶ、上司の叱責。
最初の電話は、数秒で切られました。
二件目は「忙しいんだよ」。
三件目は「二度とかけるな」。
仕事上の拒絶であって、自分が否定されたわけじゃない。
頭では、彼も分かっていたそうです。
それでも、言葉はひとつずつ刺さっていきました。
管理者からは、こう言われたと言います。
「悩む暇があるなら、次にかけろ」
「相手の気持ちなんて、考えるな」
彼は、自分を変えようとしました。
声を気にしない。
断られても、何も感じない。
切られた瞬間に、次の番号を押す。
……できませんでした。
夜、家に帰っても、耳の奥に声が残るんです。
そして、あの朝が来ました。
病院で調べても、体そのものには悪いところが見つからなかったそうです。
医師からは、少し休むように勧められました。
診断書を出したとき、部長はこう言ったと言います。
「ほら、やっぱり弱いんだよ」
彼はその日から、しばらく仕事を離れました。
面談での第一声は、これでした。
「僕が、弱いから続かないんだと思います」
私は、少しだけ意地の悪い質問をしました。
「企画部にいたとき、褒められていたのは何でしたか」
彼の答えは、こうです。
誰も気づかないミスに、気づける。
相手がどう受け取るかを、先に想像できる。
「それ、今の部署で直せと言われているものと、同じですよね」
彼は、はっとした顔をしました。
——ここが、いちばんの山だったと思います。
同じ性質が、片方の部屋では長所と呼ばれて、
もう片方の部屋では欠点と呼ばれていた。
変わったのは彼ではなく、置かれた場所だけなんです。
「あなたが直すべきものは、たぶん一つもありません」
私は、そう伝えました。
「必要なのは、その敏感さが仕事になる場所に、座り直すことです」
そのあと彼が選んだのは、表記や品質をチェックする仕事です。
説明書や広告の文章に、誤解を生む表現がないかを見る役目です。
2か月で潰れたあの部署で「細かい」と笑われた力が、そのまま評価の対象になりました。
面接では、正直に話したそうです。
電話の仕事が続かなかったこと。
声が出なくなって、休んだこと。
担当者は、こう返したと言います。
「うちは、気づける人がいないと事故が起きる仕事なので」
その一言で、決めたそうです。
年収は、前の会社とほとんど同じ。
ただ、かけた電話の件数を人に数えられることは、もうないそうです。
一年ほどして、彼はこう言っていました。
「静かな部屋で仕事ができるだけで、こんなに違うんですね」
いま、「性格を直せ」と言われている場所にいる、あなたへ。
その性質は、たぶん直りません。
そして、直す必要もないと思います。
短所に見えているのは、置き場所が合っていないから。
人を作り替えるより、座る席を移すほうが、話はずっと早いんですよ。
では、また明日。
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【今日のブログのおまけ】
「その特性が長所になる仕事」の探し方は、私が本業で運営しているサイトにまとめています。
元面接官として、転職サービスを実名で辛口レビューしています。
よかったら、のぞいてみてくださいね。
・自分に向いている環境が分からなくなっている人は
・静かに集中して働ける職場を、じっくり見比べたい人は