第十五話 「ついに、大物日本人プロレスラー登場!」
ドクターチェック後の試合再開からの、わずかな気の緩み。
それを見逃す長州ではなかった。
船木が目蓋に手をかけたその瞬間、長州が飛び込んできた!
カウンターの右ストレート!
船木がすかさず身をかわしたために、長州の右腕は船木を巻き込むように、それはまるでリキラリアットのような形で、強引に船木をダウンさせた。
半身の状態でダウンする船木。
再び目蓋からは鮮血が噴き出す。
そして、そのまま長州は再び脇固めに入った。
今度は長州の全体重を船木の脇一点に乗せ、身動きひとつ取れない船木。
完璧なまでの脇固めに、湧き上がる東京ドーム。
そして、試合タイムは残り10秒を告げた。
船木がねばるか…!?
「ストップ!!」
誰もが1ラウンド終了を予想したその瞬間、船木がマットをたたき、ギブアップの意思表示をしたのだ。
「勝者、維新軍・長州力!」
あまりにも壮絶で、あまりにも劇的な幕切れに、6万人超の観衆が一気に沸き上がった。
そして、冷めやらぬドームの中央、リングのなかでは死闘を戦い抜いた長州・船木の両雄が固い握手を交わしていた。
これは、後日取材でわかったことだが、長州は激闘を共にした後輩に、リング上でこうささやいたという。
「ヒクソン戦、頼むぞ!お前ならできる」と。
たった2試合で観衆を完全に魅了した「日本人最強決定戦」。
そして、長州対船木の激闘の余韻冷めやらぬまま、「日本人最強決定戦」は、運命の第3試合を迎えることになる。
場内が暗転し、アナウンスが轟いた。
「日本人最強決定戦 第1回戦・第3試合を始めます。
テロリスト・藤原喜明対…」
ドームは一瞬の静寂に包まれ、藤原の対戦相手にその耳目を集中させた。
そして、次の瞬間、ついに日本人最強決定戦15人目の戦士がコールされた。
「テロリスト・藤原喜明対最強プロレスラー・ジャンボ鶴田!」
まさかの鶴田の登場に、ドームが揺れた。
第十六話 「最強戦士」 に続く…
第十四話 「長州力対船木誠勝 死闘2」
長州の右腕をガッチリと極めた船木。
試合ストップか!?
誰もがそう思ったとき、ドームに居合わせた6万人超の観衆は驚愕のシーンを目にする。
両腕でしっかりと極めている船木を圧倒するかのように、長州はうつぶせのまま右腕一本で、腕ひしぎ十字を強引に解きほどいたのだ。
日本人には考えられない腕(かいな)の力。
そしてその動きのまま、長州の腕にしがみついていた船木の左腕を、長州は脇固めに捉えた。
その瞬間、長州のセコンドについていた藤原喜明の姿が大型ビジョンに映し出される。
大歓声に包まれる東京ドーム!
最大のライバルであった両雄が、共に初の総合格闘技進出に向けて、手を結んだのか!?
一気に形勢逆転!
しかし、船木のディフェンスも神業である。
極められた左腕を軸に、長州の体の上を半回転し、脇固めから逃れることに成功。
再び横四方の形で長州のマウントを取った船木。
瞬く間に入れ替わる上質の攻防に、ひと時の余所見さえ許さない緊迫の試合展開が続く。
「これが今世間で噂になっている総合格闘技というやつか…」
その男はうつぶせの状態で、弟子が懸命にマッサージをしていた。
「この男の腕(かいな)の力はすごそうだな」
その男はつぶやいた。
「長州力というプロレスラーですよ」
弟子が丁寧に答える。
「長州…変わった名前だな…」
「本名ではないみたいです。…しかし、ここに横綱が出ていれば、誰も勝てませんよ」
弟子が答えた。
「ふふふ。…わからんぞ、我々相撲取りでも、こういう技術は別物だからな…」
テレビ越しに、数々の歴史を築いてきた大横綱・千代の富士の眼光が鋭く光った。
一進一退の攻防を見せた長州対船木戦は、1ラウンド9分過ぎ、船木の出血が激しく、ついにドクターチェックが入った。
船木の返り血を浴びた長州が、反対コーナーで待機する。
目蓋は人間の体のなかで最も弱い皮膚と言われている。
鍛えようがない箇所なのだ。
観衆からは、ドクターストップだけは避けたいとの願いからか、大きな船木コールが巻き起こる。
約1分間の中断。
ようやくドクターがGOサインを出した。
「ファイッ!」
試合再開である。
やや目蓋を気にしながらファイティングポーズを取る船木…。
しかし、その一瞬の緩みを長州は逃さなかった!
第十五話 「ついに、大物日本人プロレスラー登場!」 に続く…
第十三話 「長州力対船木誠勝 死闘」
日本人最強決定戦 第1回戦・第2試合
「維新軍・長州力対パンクラス・船木誠勝」
同じ新日本プロレスの同門対決ではあるが、両者にはほとんど対戦上の接点はなく、また総合格闘技に関しては後輩に位置する船木に一日の長があるこの試合。
試合開始とともに動いたのは驚くべきことに、長州だった。
船木がボクシングの構えを見せる間もなく、突っ込んできた長州。
体格差は歴然だ。
あっという間にコーナーに押し込まれる船木。
素早く右へかわそうとした次の瞬間、長州の右フックが火を噴いた。
間一髪かわす船木。
湧き上がる東京ドーム。
スタミナの配分は無視しているのか、なおも長州は猪突猛進船木に詰め寄る。
長州のリズムを読んだか、船木のカウンターの左が長州のこめかみに軽くヒット!
しかし、何事もなかったかのように、さらに船木との間合いを詰めていく。
次の瞬間、それまでとは打って変わって長州が素早いジャブを3連打見舞った。
船木、ダウン!
セコンドのパンクラス勢が声を荒げる。
上から覆い被さる長州に対して、脚力だけで長州を跳ねのけた船木。
これまで見たこともない先輩の姿に目の色を変えて、今度は舟木がパンチのラッシュだ。
まだ防御がままならない長州めがけて、船木が襲いかかる。
そして、意識が顔面のみに向かっていた長州の脇腹に強烈なミドルキック。
さすがの長州もダウンを喫した。
そのまま背面からチョークを狙う船木。
いつしか船木の目蓋からは鮮血がしたたり落ちていた。
試合開始わずか2分間の攻防に、既に観衆は魅了されていた。
そこから、ややスタミナが切れたのか、船木をグランドに誘い込んだ長州は、その体格差を利用して、船木を圧倒するものの、さすが試合巧者の船木。
一切の決定打を許さない。
グランドでの硬直が続いた5分過ぎ、レフェリーのブレイクの合図で再び試合が動き出した。
ここで船木は“構え”を変える。
封印していた骨法スタイルだ。
長州の左右のパンチをかい潜りながら、パンチ以上のスピードと威力を持つ掌打がヒットした。
たまらず崩れ落ちる長州。
再び長州の背面を支配した船木は、バックから左右のパンチを打ち降ろす。
そして、まるでヒクソンを彷彿させるスリーパーを仕掛ける船木…と思った瞬間、目にも止まらない速さで船木は長州の右腕を十字に捕えていた。
丸太のように太い長州の右腕が伸び切る!
十字を逃れようと、体を半回転する長州。
しかし、これが総合の常套手段とばかりに、船木もその回転に合わせて半回転。
さらに長州の右腕は伸びきってしまった。
一気に盛り上がる東京ドーム。
プロレスルールならロープブレイクを狙うところだが、ここは総合格闘技のリング。
レフェリーが試合を止めるために船木の肩に手を触れた。
第十四話 「長州力対船木誠勝 死闘2」 に続く…