カラ兄 | 日常蹴辺

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身辺雑記

日曜日に、はじめて文学フリマ に行ってきた。この手の、同人誌を販売するイベント自体がはじめてである。そういうものがどういう雰囲気かはメディアで流されている程度にしか理解していない(ってことは悪いイメージか?)のだが、今回は仕事でもお世話になったことのある白水Uブックス研究会 (略してU研)が出展しているので、安心して子連れで出向く。

しかし、だ。会場である秋葉原のビルに近づくと、500m手前から視認できる灰色のもんやりとしたかたまりが道を塞いでいる。近くまで寄ってみると、それはゼロアカ道場のための行列だった。5年前に講談社のファウスト刊行記念イベントというのに誤って行ってしまったときと同じ、「場違いな自分」感を味わいつつ、列の横から会場へ。

場内はそんなに広くない上に人でごった返していた。こんな開場直後じゃなくてもっと遅い時間に行くべきだったのだろうが、後に飛田給が控えているので仕方ない。直線的なルートで2FのU研ブースへ。広くないので迷うこともなく。U研のお二方の横にはなぜか某出版のHさんがいて、自分の冊子を販売していた。予想外のつながり、世間は本当に狭い。

で、購入してきた「カラマーゾフ読本」。今回は正規のU研扱いにはならないようだが、クォリティは変わらず高い。『カラマーゾフ』はめちゃめちゃ売れている。萌え要素で『カラマーゾフ』を語ることを思いつく人も多いだろう。しかしそれを高いレベルで形にすることは誰にでもできることではない。

U研

私が『カラマーゾフ』を読んだのは、浪人してS台予備校に通っていたときのことだ。当時S台には奥井潔先生という名物英語講師がいた。英文学が専門の奥井先生の、優雅で柔らかな口調で情感を込めて語る世界文学のすばらしさにやられた10代後半の若者は少なくないだろう。スタンダールもディケンズも魅力を教えてくれたのは奥井先生だが、特にカラマーゾフの3人の兄弟についてさも愛おしげに語るあの声──「ドミートリーが……イワンが……アリョーシャが……」──は、今でも耳に残っている。

だから亀井訳がブームになった時に真っ先に思いだしたのは、奥井先生のことだった。その時になってはじめて、先生が2000年にお亡くなりになっていたことを知った。一方的に尊敬していただけだが、とても寂しく思った。結局、本ばかり読んでいてロクに受験勉強をしなかった私は悲惨な結果を迎えたわけで、たくさん読んだ本だって役に立っていることなんて全くないのだけれど、あの時あの授業を受けて読書に耽ることができたのは至福の体験であったのだな……と今になって思う。