『爆弾』 (2025) 永井聡監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

『世界から猫が消えたなら』 (2016)がよかった永井聡監督。ただそれ以降の作品はエンタメ色が強過ぎて、個人的にあまり食指は動かなかった。久々の永井作品鑑賞。結論から言えば、2時間16分があっという間に過ぎる面白さだった。

 

ミステリーサスペンス映画には、結局つじつまが合っていない結末にがっかりさせられることが少なくない。この作品も最後の謎解きまでは面白く観させながらも、その謎解きが矛盾満載であることからそのパターンに陥るかのように思われた。しかし、その「謎解き」が真実かどうかは分からないとすることでその矛盾からくる失望は巧妙に回避されていた。

 

「謎解き」は山田裕貴演じる類家の語りとそれをなぞる映像によって観客に示される。それは一見納得できるように感じるが、よくよく考えると(あるいはそこまで深く考えなくとも)矛盾点が少なからずある。しかし、類家の導いた筋道があくまで推論に過ぎず、誰も真実を語っていないということで、実のところ真実は闇の中というエンディングが絶妙だった。

 

(以下ネタバレ)

一番の矛盾点は、夏川結衣演じる明日香の目的が不明であり、その行動が全く論理的ではないこと。息子の辰馬が自分の境遇から理不尽な怒りを社会に向け、無差別殺人に走ろうとすることを彼女がよしとしなかったことまでは当然の流れ。しかし、それでいてなぜ彼女が息子を殺さなければならなかったのか。既に爆弾は街中に仕掛けられている以上、彼を殺してもその凶行は止められない。そして犯罪が息子の所業であることを隠蔽するために殺害するというのは考えられない。犯行予告ビデオさえ世に出なければ、彼(+シェアハウスの同居人)の犯行であることは容易には発覚しないだろう。彼女自身と娘を守るためとはいえ、実の息子を手に掛けることには納得がいかなかった。親が断罪のために子供を殺すことも考えにくい。そして、その遺体を殺害された証拠隠しのために爆破というのはあまりにも荒唐無稽な設定だろう。

 

佐藤二朗演じるスズキタゴサクが相当な知能を持ちながらホームレスになった経緯は語られていない。しかし爆弾製造の知識を持ち合わせていたとは通常考えにくい。そして予告爆発を次々と仕掛ける動機が、あくまで山手線各駅の自動販売機に仕掛けられた爆弾を偽装するためということは常識的にはあり得ないだろう。

 

それ以外にも細かな矛盾点はあるが(例えば、自動販売機の爆弾の起爆装置はショックによるものだろうが、なぜ阿佐ヶ谷の時限爆弾と同じタイミングで爆発したのか)、それらは全て類家の推論を見せられた観客が感じる矛盾点。例えば、もしかしたらスズキタゴサクは真犯人ではなく第三の真犯人がいたとしたら、多くの矛盾点は解決されるかもしれない。すっきりした謎解きを(しているかのように見せて)敢えて提示しないところがストーリーの妙だと感じた。それは原作のよさから来ているのだろう。

 

演技では、佐藤二朗の怪演は言うまでもなく素晴らしかった。『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターのようなシリアスなサイコパスではなく、「スズキタゴサク」という名の通りのサイコパスを見事に演じていた。彼が寛一郎演じる伊勢をはめる展開はストーリー上見事だった。そして、実際にはあり得ないキャラクター設定なのだが、渡部篤郎演じる清宮の自信満々で被疑者を見下しながら理知的なアプローチを取り、その彼が命の軽重を知らず知らずのうちに測っていることを指摘され激昂してスズキの指を折る一連の演技は特筆すべきもの。

 

終盤までは一気に見せる面白さがあり、エンディングの「謎解き」で「それはないだろ」と一旦は思わせながら、安易に提示された「謎解き」そのままの一筋縄ではいかないぞと再考させる練られた見事なストーリーだった。それらをけれんみたっぷりで見せてくれた佐藤二朗が主演と言うべき作品。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『爆弾』予告編