『世界から猫が消えたなら』 (2016) 永井聡監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~



郵便配達員の「僕」は脳腫瘍で余命わずかと宣告される。その「僕」の目の前に現れたのが、「僕」そっくりの「悪魔」。彼の誘いは、世の中のある物を一つなくすことにより一日生き長らえることができるというもの。但し、そのある物を選ぶのは「悪魔」。彼は、電話、映画、時計といった物を消していく。それは「僕」のそれまでの人生に影響を与え、それにより「僕」は人生はかけがえのないもので満ちていることを知る。

人は大切なものを失って初めて知るということがある。失う前にそれがいかに大切かを知ることができればいいのだが、それは難しいのが人生。この映画もそれがテーマ。

猫が重要なモチーフかというとそれほどでもなく、あくまで電話や映画や時計といった「悪魔」がなくすことにより間接的に思い出を変化させる単なる物に過ぎない。それゆえ、思わせぶりなタイトルには若干のあざとさを感じるが、猫がかわいいので許す。

メインの舞台は函館。それまでの落ち着いた色調から、途中アルゼンチンのブエノスアイレスでのシーンでは色調が鮮やかになり、空気感の違いを出しているのだが、若干、浮いた感じで収まりが悪い。そのシーンで描きたかったのは、命の大切さを知り生きる意志を強く持つ「僕」の彼女と「僕」の対比(それが彼らが分かれる原因?)ということなのだろうか。すとんと落ちてこない。

やはり大切なものは家族(亡くした母、疎遠になった父)や別れてしまった彼女、親友とのつながりなのだが、それぞれの物語が生きている。特に原田美枝子演ずる母親との物語がいい。泣かせる。

「僕」と「悪魔」(=本人の中の死を受け入れられない自分)の二役を演ずる佐藤健だが、役の対比が演技によく出ている。ただ、あまりに「悪魔」の意地が悪すぎて、実際の佐藤健本人はこちらなのではと思うと寒くなる。

じんわりときて、心がちょっとだけ浄化される感じ。悪くない。

★★★★★★ (6/10)

『世界から猫が消えたなら』予告編