『よだかの片想い』 (2022) 安川有果監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

島本理生の恋愛小説を映画化。主演は松井玲奈と(クズな情けない男役が似合う)中島歩。

 

アイコは生まれつき顔に大きな痣がある。そのため恋をすることをすっかりあきらめ、大学院でも研究ひと筋の毎日を送っていた。そんな彼女が「顔に痣や怪我を負った人」のルポタージュ本の取材を受けて話題となったことで、彼女を取り巻く状況は一変する。そして、彼女を主役のモデルとしてその本が映画化されることになる。アイコは映画監督の飛坂と会うたびに彼の人柄に惹かれ、不器用に彼との距離を縮めていく一方で、自身のコンプレックスと正面から向き合うことになる。

 

顔に痣があるというのは、人づきあい、特に恋愛において、そして特に女性にとっては大きなハードルであることは容易に想像できる。ただ恋愛に消極的な人にとって、その原因のシリアスさが他人にとっては大したものでないことであっても、人によってはハードルとなり得るだろう。映画が進んでいくうちに、アイコはそうした「恋愛に積極的になれない者が、自らのハードルを乗り越える物語」であるという印象を受けた。つまり障碍者(痣は障碍ではないが)の特別な物語ではないように感じた。

 

片や飛坂は映画作りが何よりも大切であり「恋愛できない体質」の人物。アイコと付き合うことは映画作りのためであることを否定しないし、だからといってアイコに特別な感情を抱いているのも確か。これまた仕事優先の男性にありがちなパターンであり、中島歩お得意の「クズ」とは今回の作品での役柄は違う印象。

 

お互いすれ違いながらも惹き合う関係がうまくいくにはアイコにもう少し引く余裕があればいいのだろうが、「恋愛初心者」にはそもそも期待できない以上、別離は必然の結末だろう。それでもその恋愛がアイコの将来の財産になるだろうという希望が持てる物語だった。

 

恋愛物とすれば水準以上ではあるが、あくまで水準以上程度。この映画が特によいと思われたのは藤井美菜演じるミュウ先輩が「事故」にあってから。アイコとミュウ先輩が病室でやり取りするシーンが、この映画の中で最も緊張感があった。それまでミュウ先輩の立ち位置は若干「上から目線?」的な空気を感じていたが、それは間違いだったことに気付かされる。そして彼女の「気を遣わなさ過ぎの反省」は、「いやいや、それがいいんじゃん」と突っ込むところ。ミュウ先輩を大いに見直す展開。

 

そして、それに先立って痣が治療で消せると知っての躊躇があって、カバーマークコンシーラーで痣を消してのラストシーンへの展開は絶妙だった。「痣を消す=自分を否定することになるのでは」→「痣を化粧で隠すことで自分を解放することができることを知る=痣に囚われない生き方」というステップの踏み方が納得感を増していた。コンシーラーを塗ったはずのアイコの頬にほくろがあったのはご愛敬か。

 

城定秀夫は脚本よりも監督の方が合ってる(逆に今泉力哉は本を書かせても抜群にいい)と『猫は逃げた』と『愛なのに』の比較で感じていたが、彼の本書きとしての才を再評価せねばという作品だった。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『よだかの片想い』予告編