恋愛映画は難しい。個人の恋愛観が映画の評価に反映されざるを得ないから。この作品を観て感動する人もいるのだろう。自分はそうした人のピュアさをうらやましく思わないでもない。
まず自分が受け入れにくかったのは、岩井俊二的な世界観。『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』 (1995)や『スワロウテイル』 (1996)は当時かなり思い入れのある作品だったと記憶しているが、四半世紀経って少々「今更?」感があった。ミスチルしかり。邦画は主題歌のアーティストの旬度合いによって作品の新鮮さを評価するところがあるが、「ミスチルかあ」というのが正直なところだった。
そしてこのベタな作品を、藤井道人が監督しなければならなかったのかというのも自分には理解しがたいところ(彼の祖父が台湾出身という出自はあるにせよ)。これまでの作品のレビューでも、藤井監督の弱点は説明過多で紋切型であると指摘してきたが(いかにも悪そうな奴がやはり悪人という描写とか)そのテレビドラマ的「分かりやすさ」が少々鼻についたという印象だった。
藤井監督の恋愛ものには『余命10年』 (2022)があるが、個人的には評価している作品。いかにもお涙頂戴の題材ながら、その匙加減が絶妙で藤井監督のよさが出た作品という印象。ミスチルとRADWIMPSの違いかもしれない。
テーマ的にはセリーヌ・ソング監督『パスト・ライブス/再会』と近いものがあるが、アカデミー作品賞ノミネート作品と比較するのはそもそも無理だろう。『パスト・ライブス/再会』は、人の出会いには恋愛を越えた「縁」があることを描いた秀作だった。
この作品で素晴らしいと思ったのは、日本の風景。特に乗り鉄にはたまらないだろうローカル線の描写はとにかく絵になっていた。松本から長岡に向かう飯山線で、トンネルを抜けると一面雪景色というカットを車両天井から俯瞰で撮ったシーンは、自分も心のシャッターを切っていた。そして台湾と日本をリンクするランタンのシーンも「これは一生のうちに見るべき場景だな」と思わせるほど美しく描かれていた。日本の象徴である桜もきれいなシーンがあった。アジアの『スラムダンク』ファンの聖地巡礼となっている江ノ電鎌倉高校前のシーンもあり、是非台湾の人には観て、日本をより好きになってほしい作品だった。
藤井道人作品としては、『ヤクザと家族 The Family』(2021)、『7s/セブンス』(2015)が依然ワンツーであり、個人的にはこの作品はそれほど高くは評価できなかった。藤井監督はもっといい作品が撮れる監督だと期待しているだけに。
★★★★★ (5/10)